毎日Net:「新幹線駅、夢と現実」転載紹介
2014年11月2日 お仕事 今2014年秋に東京・新大阪間の新幹線開通から50周年を迎え、その開通に地域活性化の夢を描いた沿線駅諸都市の願望と現実の姿を毎日新聞Net版で転載ご紹介します。
明治文明開化の役割に大きく経済効果を発揮した地域の賑いと、敷設から除外されて過疎化を辿った物語の現代版を彷彿とする記事内容です。【ご参考URL=http://mainichi.jp/shimen/news/20141102ddm003040127000c.html】
これは時代・社会の変遷の先見性につながる居住地域の優劣・運不運だけではなく、将に私たち自身人生の未来像と同関連するか、全く無関係ではありません。「生涯現役社会づくり」面で如何に先見性を読み、地域発展のために働くべきかを考えて行動すべきかを教えてくれていると思うのです。
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【毎日新聞 2014年11月02日 東京朝刊】
クローズアップ2014: 開 通 5 0 周 年
新 幹 線 駅 、 夢 と 現 実
新幹線は今秋、東京−新大阪間の開通から50周年を迎えた。全国の新幹線網は2300キロを超え、来年3月には北陸新幹線が金沢まで延伸されるなど、各地で延長や開業が計画されている。しかし新幹線の駅をもつ地域には、人口が減少したり、商店街がさびれたりしたところもある。新幹線沿線の「光と影」を駅周辺の街にみた。【一條優太、加藤明子】
◇ に ぎ わ い と 期 待 外 れ
「東京から? それなら帰りは新尾道じゃなくて、尾道からがいい」。先月下旬、山陽新幹線新尾道駅(広島県尾道市)から市役所に向かうタクシーで、記者は運転手からそう勧められた。尾道駅は、在来線の山陽線の駅だ。
市によると、新尾道駅の1日平均乗客数は1000人に満たない。尾道駅の約5500人との比較から、低迷ぶりが目立つ。市中心部から3キロ離れ、交通アクセスが悪いこと、市中心部に近い尾道駅から「のぞみ」が停車する山陽新幹線福山駅まで約20分と近いことも一因だという。
新尾道駅は地元の要望で1988年に開業した。75年の山陽新幹線岡山−博多間開通時、両隣の福山、三原両市に駅ができ、基幹産業の造船不況にあえいでいた地元は地盤沈下に危機感を抱いた。そこで、新幹線に夢を託し、駅舎建設や周辺整備の事業費約120億円を県、市、市民の寄付などで負担。駅の設置にこぎつけた。
しかし現在、駅の存在感は薄い。市の担当者は「もくろみ通りでなかったことは確か。利用客の数字がそれを示している」と話す。
岩手県二戸市の東北新幹線二戸駅。東口前にある約30の店舗が軒を連ねる商店街は、平日の昼間というのに20店舗ほどがシャッターを下ろしていた。薬局で働く梅田博美さん(61)は「この通り、衰退していますよ」と言う。
商店街の苦境は二戸駅が2002年に開業する前からだが、地元には街がにぎわうことへの期待があった。しかし、買い物客はむしろ減ったと商店街の人々は口をそろえる。出張で訪れる客が、日帰りするようになったことなどが影響しているという。酒店経営の男性(82)によると、東口付近には旅館が5軒あったが、すべて営業をやめた。「うちもいつまで続けられるか」
新幹線駅が街のにぎわいのきっかけとなった例もある。02年に開業した東北新幹線八戸駅がある青森県八戸市は、八戸商工会議所などが中心となり、地元料理「せんべい汁」をB級グルメとして売り込むなど集客に取り組んだ。市中心部の屋台村「みろく横丁」も人気を集め、年間の観光客数は開業前の300万〜400万人台から500万〜600万人台に増加した。同会議所の泉山正一業務部長は「駅の設置をきっかけに、地道に努力していた成果が出てきた」と振り返る。
東海道新幹線三島駅のある静岡県三島市は69年の駅設置以降、首都圏への通勤客のベッドタウンとなり、人口は65年の約7万人から10年には約11万人に増えた。市の担当者は「朝の三島発の上り新幹線はとても混んでいる」と新幹線効果を評価する。
新幹線駅の設置が予定されている自治体の対応もさまざまだ。
甲府市は、リニア中央新幹線品川−名古屋間(27年開業予定)の途中駅の設置予定地だ。山梨県リニア推進課の岡雄二課長は「中央自動車道が開通して以来の大きなトピック。遠くて来られなかった地域や海外からも多くの観光客を呼び込みたい」と期待を寄せる。
15年度末に開業予定の北海道新幹線新函館北斗駅のある北海道北斗市は、駅周辺で土地区画整理事業を実施し、企業の進出を見込む。一方、25年度に北陸新幹線南越駅(仮称)が立地する予定の福井県越前市は当面、駅周辺の大規模開発を行わない方向で検討している。駅が中心市街地から離れていることや、経済情勢を踏まえた判断だという。
◇ 4 4 % の 自 治 体 、 人 口 減
新幹線は沿線の観光地化など地域を活性化する効果がある半面、事業所の撤退や大都市への人口移動を招くとの指摘がある。地域振興を考える上で人口が重要な指標とされていることから、新幹線駅が立地する自治体を対象に、駅開業の前後での人口の変化を分析した。対象の自治体は72カ所で、このうち人口が減少した自治体は32自治体、44%を占めた。
分析は、国勢調査をもとに、各自治体について新幹線駅が開業した年、またはそれ以前の直近の調査年の人口と、2010年の人口を比較した。10年以降に開業した駅は分析から除外。東京都内にある駅は「東京23区」を一つの自治体とみなした。(東京、品川、上野は駅の開業時期が異なるため、「東京23区」の増減率データも異なる)
3大都市圏を結ぶ東海道新幹線の駅や、大都市の駅が立地する自治体はおおむね人口が増えた。東海道新幹線の三島や、北陸新幹線の軽井沢などは、駅設置によって東京から約1時間の通勤圏内となり、人口増に結びついた。
一方、大都市圏から遠い地域では人口減が目立つ。東北新幹線は仙台から青森寄りの10自治体のうち七つが減少。九州新幹線は鹿児島市を除く4市がマイナスとなっている。上越新幹線では、新潟県内の5市町のうち新潟市を除く4市町がマイナスだった。ただ、このうち三条市について、同県で人口が減少している他の市に比べて減少率が低く抑えられているとのデータもある。新幹線の駅によって人口減が抑えられた可能性もある。
新幹線と地域経済との関わりに詳しい藻谷浩介・日本総合研究所主席研究員は「新幹線で各自治体は、工場誘致が進んで雇用が増えることや観光客が増えること、駅周辺の開発が進んでにぎわうことを思い描き、それらの効果の結果として人口が増えることを期待した。しかし必ずしも人口増や地域振興には結びつかないのが現実だった。沿線の地域は新幹線に過剰な期待をせず、先例を分析し、どのように新幹線を生かすべきかを冷静に考えるべきだ」と話す。
◇ 滋 賀 は 「 請 願 駅 」 白 紙
滋賀県栗東市では、地域経済の活性化を目的に、地元が建設費約240億円を全額負担する「請願駅」として東海道新幹線の新駅建設が計画されていた。2012年度に開業予定で、06年には実際に着工された。
しかし、直後に建設凍結を掲げた嘉田由紀子前知事が当選。嘉田前知事は、他の請願駅に比べて建設費の地元負担が大きいことや、京都駅に近く、多くの利用客が見込めないことなどを理由に計画を白紙に戻した。市は新駅用地の先行取得に絡んで多額の財政負担を抱えることになった。
現在、県と市は、新駅跡地のまちづくり基本構想「後継プラン」を策定し、区画整理や道路整備などを進めている。誘致の末、11年にリチウムイオン電池メーカー本社工場も進出した。
一方、嘉田前知事の後継指名を受け、今年7月の知事選で当選した三日月大造知事はリニア中央新幹線の建設を見据え、新駅建設に意欲を示しているが、JR東海は「終わった話だ」と距離を取っている。
明治文明開化の役割に大きく経済効果を発揮した地域の賑いと、敷設から除外されて過疎化を辿った物語の現代版を彷彿とする記事内容です。【ご参考URL=http://mainichi.jp/shimen/news/20141102ddm003040127000c.html】
これは時代・社会の変遷の先見性につながる居住地域の優劣・運不運だけではなく、将に私たち自身人生の未来像と同関連するか、全く無関係ではありません。「生涯現役社会づくり」面で如何に先見性を読み、地域発展のために働くべきかを考えて行動すべきかを教えてくれていると思うのです。
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【毎日新聞 2014年11月02日 東京朝刊】
クローズアップ2014: 開 通 5 0 周 年
新 幹 線 駅 、 夢 と 現 実
新幹線は今秋、東京−新大阪間の開通から50周年を迎えた。全国の新幹線網は2300キロを超え、来年3月には北陸新幹線が金沢まで延伸されるなど、各地で延長や開業が計画されている。しかし新幹線の駅をもつ地域には、人口が減少したり、商店街がさびれたりしたところもある。新幹線沿線の「光と影」を駅周辺の街にみた。【一條優太、加藤明子】
◇ に ぎ わ い と 期 待 外 れ
「東京から? それなら帰りは新尾道じゃなくて、尾道からがいい」。先月下旬、山陽新幹線新尾道駅(広島県尾道市)から市役所に向かうタクシーで、記者は運転手からそう勧められた。尾道駅は、在来線の山陽線の駅だ。
市によると、新尾道駅の1日平均乗客数は1000人に満たない。尾道駅の約5500人との比較から、低迷ぶりが目立つ。市中心部から3キロ離れ、交通アクセスが悪いこと、市中心部に近い尾道駅から「のぞみ」が停車する山陽新幹線福山駅まで約20分と近いことも一因だという。
新尾道駅は地元の要望で1988年に開業した。75年の山陽新幹線岡山−博多間開通時、両隣の福山、三原両市に駅ができ、基幹産業の造船不況にあえいでいた地元は地盤沈下に危機感を抱いた。そこで、新幹線に夢を託し、駅舎建設や周辺整備の事業費約120億円を県、市、市民の寄付などで負担。駅の設置にこぎつけた。
しかし現在、駅の存在感は薄い。市の担当者は「もくろみ通りでなかったことは確か。利用客の数字がそれを示している」と話す。
岩手県二戸市の東北新幹線二戸駅。東口前にある約30の店舗が軒を連ねる商店街は、平日の昼間というのに20店舗ほどがシャッターを下ろしていた。薬局で働く梅田博美さん(61)は「この通り、衰退していますよ」と言う。
商店街の苦境は二戸駅が2002年に開業する前からだが、地元には街がにぎわうことへの期待があった。しかし、買い物客はむしろ減ったと商店街の人々は口をそろえる。出張で訪れる客が、日帰りするようになったことなどが影響しているという。酒店経営の男性(82)によると、東口付近には旅館が5軒あったが、すべて営業をやめた。「うちもいつまで続けられるか」
新幹線駅が街のにぎわいのきっかけとなった例もある。02年に開業した東北新幹線八戸駅がある青森県八戸市は、八戸商工会議所などが中心となり、地元料理「せんべい汁」をB級グルメとして売り込むなど集客に取り組んだ。市中心部の屋台村「みろく横丁」も人気を集め、年間の観光客数は開業前の300万〜400万人台から500万〜600万人台に増加した。同会議所の泉山正一業務部長は「駅の設置をきっかけに、地道に努力していた成果が出てきた」と振り返る。
東海道新幹線三島駅のある静岡県三島市は69年の駅設置以降、首都圏への通勤客のベッドタウンとなり、人口は65年の約7万人から10年には約11万人に増えた。市の担当者は「朝の三島発の上り新幹線はとても混んでいる」と新幹線効果を評価する。
新幹線駅の設置が予定されている自治体の対応もさまざまだ。
甲府市は、リニア中央新幹線品川−名古屋間(27年開業予定)の途中駅の設置予定地だ。山梨県リニア推進課の岡雄二課長は「中央自動車道が開通して以来の大きなトピック。遠くて来られなかった地域や海外からも多くの観光客を呼び込みたい」と期待を寄せる。
15年度末に開業予定の北海道新幹線新函館北斗駅のある北海道北斗市は、駅周辺で土地区画整理事業を実施し、企業の進出を見込む。一方、25年度に北陸新幹線南越駅(仮称)が立地する予定の福井県越前市は当面、駅周辺の大規模開発を行わない方向で検討している。駅が中心市街地から離れていることや、経済情勢を踏まえた判断だという。
◇ 4 4 % の 自 治 体 、 人 口 減
新幹線は沿線の観光地化など地域を活性化する効果がある半面、事業所の撤退や大都市への人口移動を招くとの指摘がある。地域振興を考える上で人口が重要な指標とされていることから、新幹線駅が立地する自治体を対象に、駅開業の前後での人口の変化を分析した。対象の自治体は72カ所で、このうち人口が減少した自治体は32自治体、44%を占めた。
分析は、国勢調査をもとに、各自治体について新幹線駅が開業した年、またはそれ以前の直近の調査年の人口と、2010年の人口を比較した。10年以降に開業した駅は分析から除外。東京都内にある駅は「東京23区」を一つの自治体とみなした。(東京、品川、上野は駅の開業時期が異なるため、「東京23区」の増減率データも異なる)
3大都市圏を結ぶ東海道新幹線の駅や、大都市の駅が立地する自治体はおおむね人口が増えた。東海道新幹線の三島や、北陸新幹線の軽井沢などは、駅設置によって東京から約1時間の通勤圏内となり、人口増に結びついた。
一方、大都市圏から遠い地域では人口減が目立つ。東北新幹線は仙台から青森寄りの10自治体のうち七つが減少。九州新幹線は鹿児島市を除く4市がマイナスとなっている。上越新幹線では、新潟県内の5市町のうち新潟市を除く4市町がマイナスだった。ただ、このうち三条市について、同県で人口が減少している他の市に比べて減少率が低く抑えられているとのデータもある。新幹線の駅によって人口減が抑えられた可能性もある。
新幹線と地域経済との関わりに詳しい藻谷浩介・日本総合研究所主席研究員は「新幹線で各自治体は、工場誘致が進んで雇用が増えることや観光客が増えること、駅周辺の開発が進んでにぎわうことを思い描き、それらの効果の結果として人口が増えることを期待した。しかし必ずしも人口増や地域振興には結びつかないのが現実だった。沿線の地域は新幹線に過剰な期待をせず、先例を分析し、どのように新幹線を生かすべきかを冷静に考えるべきだ」と話す。
◇ 滋 賀 は 「 請 願 駅 」 白 紙
滋賀県栗東市では、地域経済の活性化を目的に、地元が建設費約240億円を全額負担する「請願駅」として東海道新幹線の新駅建設が計画されていた。2012年度に開業予定で、06年には実際に着工された。
しかし、直後に建設凍結を掲げた嘉田由紀子前知事が当選。嘉田前知事は、他の請願駅に比べて建設費の地元負担が大きいことや、京都駅に近く、多くの利用客が見込めないことなどを理由に計画を白紙に戻した。市は新駅用地の先行取得に絡んで多額の財政負担を抱えることになった。
現在、県と市は、新駅跡地のまちづくり基本構想「後継プラン」を策定し、区画整理や道路整備などを進めている。誘致の末、11年にリチウムイオン電池メーカー本社工場も進出した。
一方、嘉田前知事の後継指名を受け、今年7月の知事選で当選した三日月大造知事はリニア中央新幹線の建設を見据え、新駅建設に意欲を示しているが、JR東海は「終わった話だ」と距離を取っている。