高齢社会NGO連携協議会【別称:JANCA】共同代表の樋口恵子さんに聞く/介護を担う 近くの他人・ファミレス社会=家族の概念を拡げる・・・が本日6月28日(土)日経夕刊こころ欄に掲載されましたので、下記転載ご紹介します。
【URL=http://www.nikkei.com/article/DGKDZO73417630X20C14A6NNP000/】
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【2014/6/28付 情報元  日本経済新聞 夕刊:News】
   介 護 を 担 う  近 く の 他 人  家 族 の 概 念 広 げ る
                    NPO法人 高齢社会をよくする女性の会
                          理 事 長  樋 口  恵 子
【 プロフィール :1932年 ひぐち・けいこ 評論家、NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事長。1932年東京生まれ。東京大学卒。時事通信社、学研などを経て評論家に。東京家政大学名誉教授、今年4月から家政大に新設された女性未来研究所長として現役復帰。著書多数。】

 嫁 に 一 極 集 中 し て い た 介 護 が
                  2  0  年 で 大 き く 変 わ っ た
 1983年、樋口恵子さんを中心に女性の視点で高齢社会や介護を語ろうと「高齢社会をよくする女性の会」が結成された。それから約30年。今や4人に1人が65歳以上だ。高齢化する社会を見つめ続け、自らも老いと向き合う人の目に、現状はどう映っているのか。

 「長寿社会の副産物として介護が大きな問題になったのは70年代から。戦前は多くの人が高齢になる前に亡くなっていた。介護は戦後の新しい社会問題です。当初、それを一手に担ったのが長男の嫁。家意識はまだ根強く、介護をしない嫁は世間から非難され、介護地獄に苦しんだ。介護嫁表彰をしていた自治体すらあったんです。男女平等なんてどこにある、ですよ。家族だけでやっていけるはずがない。社会全体で介護を担う必要があると訴えました」

 2 0 0 0 年 に 、 介 護 の 社 会 化 を 目 指  し て  
        介 護 保 険 制 度  が 始 ま っ た 。

 「この20年の変化はすさまじい。介護保険が始まっても、医療と違い介護は家族に一定の役割を期待している。だが嫁に一極集中していた状況は様変わりしました。ひとつは男性化です。今、主たる介護者の3割は夫や息子などの男性です。ふたつ目は血縁化。介護者の7割はまだ女性ですが嫁から娘に急激に移っている。60代以下の世代は、夫の親の介護は夫の身内が責任を持つべきだと考えている。男女とも嫁に自分の介護を頼ろうという人はほとんどいません。介護の担い手としての『嫁』は絶滅したと言っていい」

  何 が 変 化 を も た ら し た の か 。

 「意識の変化もさることながら、大きいのは人口構造の変化です。明治以来の男性優位の家制度を支えていたのは、子世代が親世代より多い人口ピラミッドのおかげ。どの家にも男の跡取りがおり、娘も2~3人いた。娘を嫁に出し、息子に嫁がきて家が続いた。ところが1人の女性が生涯に産む子どもの数(合計特殊出生率)は戦後のベビーブーム期には4を維持していたが、50年代半ばには2台に急激に下がった。これと軌を一にしてサラリーマン化が進み、子どもが故郷を離れ働きに出るようになった。人口動態と就業構造が社会を変えたんです」

  社 会 の 変 化 は  さ ま ざ ま な 問 題 も  生 ん で い る 。

 「かつて家族の中に1人は介護にかかわれる人がいたが、今は高齢世帯の半数以上が夫婦のみか独り暮らし。独身の子が同居する例も増えているが皆仕事がある。共働きも増えています。7割の高齢者は昼間、1人か夫婦だけで暮らしている。昼間の介護を親族で担うのは難しい。社会で支える必要がある」

 「一方で介護離職が増えています。親は自分の介護のために子どもの人生を犠牲にしたくはない。私は介護離職をゼロにする運動にもかかわっていますが、与謝野晶子の歌にならって『あゝいとしごよ、君を泣く、君辞めたまふことなかれ……』と訴えたい。介護者が仕事を継続できる介護サービスと柔軟な働き方を実現する必要がある」

 身よりのない高齢者があふれる“ファミレス”時代がやってくる

 「健康寿命と平均寿命の差は約10年あります。多くの人が人生の10年間はだれかの支えが必要です。そして子どもはすべて介護責任者になる。先ごろ『大介護時代を生きる』と題した本を書きましたが、まさにそうした時代が始まっています」

 少子化と高齢化の同時進行が問題をさらに複雑にする。

 「私の世代はまだ兄弟姉妹が4~5人いる。自分に子どもがいなくても、いざとなれば甥(おい)や姪(めい)が責任者になることができるかもしれない。しかし、近年、結婚しない人が急増しています。日本は100%近くが結婚する無類の結婚大好き民族だったのに、今、50歳の男性の5人に1人、女性の9人に1人が未婚です」

 「親が亡くなり、兄弟姉妹はおらず、子どもも孫もいないファミリーレス(家族なし)の人があふれる本格的な“ファミレス”社会がやってくる。今の50代は少子化と独身化の最先端にいます。彼らが高齢になったときにどんな問題が生まれるか。今から備える必要がある」

 「一つの解決策は家族の概念を広げることです。一昨年にスウェーデンを訪れ感銘したことがあります。日本と同様の介護休業制度があるのですが、日本は対象を親族の一部に限っているが、スウェーデンは友人でも隣人でも介護を受ける人の承認があれば認める。80%の所得補償もあります。まさに遠くの親せきより近くの他人です」

 「もちろん家族は大切。何ものにも代え難い肉親の情はあります。しかし、子育てにしろ介護にしろ近代化のひずみをすべて家族に押しつけるべきではない。社会の変化に応じて家族や個人を支援しなければいけない。私たちも自分が選び取った縁を地域で築く必要がある」

 年金をめぐり高齢者と若者の世代対立が言われるなど、さまざまなきしみも生まれている。

 「高齢者は実は未来に一番近い存在。自分の利益ばかり叫ばず、命の循環を考えるべきでしょう。働けるうちは“しゃば”にいた方がいい。かつて働き盛りの男性に「家庭に帰れ」と言いつづけたが、今、高齢男性には『外に出よう』と言いたい。国や企業は高齢者の活躍推進を本気で考えてほしい」(編集委員 岩田三代)