このメールは 日本生涯現役推進協議会 様宛にお送りしました。
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 J.I.メールニュース   No.659 2014.06.19発行 <巻頭寄稿文> 
「 が ん 患 者 を 取 り 巻 く 環 境 の 相 違 は
    果 た し て 国 民 性 の 相 違 だ け で あ ろ う か  
              - 緩  和  医  の  視  点  か  ら  」  
                             緩 和 医  八 戸  す ず
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  夫の仕事のため家族で渡米し、半年が過ぎました。様々な局面において、日本との違いを感じる日々です。
  先日、小学一年生の息子の保護者会に出席した際、ある父親が話し始めたのは、彼の妻が全身転移した進行大腸癌で放射線化学療法を受けること、それに伴い子供が精神的に不安定になるかもしれないため情報をクラスで共有するべきだろうと妻本人と決めた、という内容でした。
  それを聞き、一人の母親が一年前に伴侶を亡くした経験を話し始め、終了後には各々がその父親に温かい言葉をかけて帰って行きました。
  その翌日には、この家族に夕食を届けるための支援サイトが立ち上がり、現在に至るまでほぼ毎日誰かしらがボランティアで夕食を届けています。また、子供の送迎などの支援も継続されています。
  私は、日本の癌患者と家族を取り巻く環境との差異に驚愕しました。日本では、家族と行政サービス以外の支援が入る患者はほとんどおらず、家族が倒れるケースも少なくありません。
  もちろん、米国の誰もがこのようにオープンなわけではありませんが、決して今回のケースが稀なわけでもないようです。
  こうした、日本とアメリカの現状が大きく異なる要因として、すぐに思い浮かべるのは、国民性や宗教性の違いだろうと思います。
  病気をオープンにするかどうか、そこには確かに国民性が関わっているかもしれません。しかし、多くの患者を診てきた中で、私はむしろ、日本では患者本人が病気に関する事実をすべて認識していないことにも大きな要因があるように思います。
  もしも自身の病気に関して、今後体調がどのように変化していくのか、どの程度の日常生活が送れるのか、余命はどのくらいか、それらを的確かつ具体的に認識していれば、日本人であっても、家族や子供の負担、周囲への影響を考える患者や、周囲に明かす患者も少なくないのではないでしょうか。
  日本人の中にも今回のような援助を必要としている患者家族は存在し、同様に、援助する日本人も存在するだろうと思います。
  アメリカにおいても日本においても、最適な道は個人個人で異なります。医学が進歩し、情報が溢れる現代社会において、本人抜きにして本人の幸せは決められなくなってきています。大切なことは、まず患者個人が、自分自身の不安や希望を的確に把握する環境を、医療スタッフ、患者、家族の皆でつくること。そこからのみ、本当に本人が必要とする援助が、必要とされている形で生まれてくるのではないでしょうか。
  国民性は異なれど、日本においても支援し合う社会はつくれるはずです。
  それを願い、まずは医師として患者一人一人の人生ときちんと向き合わねば、改めてそう感じました。
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八戸 すず (やえ すず)
  日本緩和医療学会緩和医療専門医、医学博士。1975年生まれ、東京都出身。2002年に横浜市立大学医学部卒業後、日赤医療センター、神奈川がんセンターを経て、順天堂大学緩和医療学研究室所属。情報の洪水と言われる現代医療の中においても、患者さんにとって本当に必要な治療やサポートを引き出して、常にQuality of Lifeを高める医療を提供することを心がけている。また、いまだ個々人のイメージに偏りがあるといわれる緩和医療のバイアスを払拭することもライフワークとし、医療従事者への教育や多くの病院での緩和医療導入にも積極的に活動している。
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  医療現場での問題とは別に、日本、特に都会の住人は、個人的なことに関心が集中し、パブリックなこと、世の中のことに時間やエネルギーを割こうとしない、というところにより基本的な原因があるのではないか。それが日米の大きい違いではないか。
  この記事をきっかけに、そんなことについても議論が起こればと期待しています。(構想日本 加藤 秀樹)
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