私たち日本生涯現役推進協議会グループが本格的に定年予備軍を抱える企業への『生涯現役シリーズ塾』PR作戦を検討する過日の理事会においても大切な考え方として建久課題となった野が、標記次世代のCSRからCSVへの考え方です。
  『生涯現役プロデューサー』仮登録の方々だけでなく、今後の社会と企業のあり方について未来予測研究のために下記転載内容にもご留意願います。
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2011年1月にHarvard Business Reviewに掲載された「Creating Shared Value -資本主義を再考する」のインタビュー抄訳をお届けします。(ここ数年のアメリカの経済状況をふまえて聞かれるとより分かりやすいと思われます)Articleは下記のリンクからHBRに登録すると無料購読できます。
ポーター教授の提唱する「Creating Shared Value」とは、対立関係に陥りがちな企業と社会の間に、共通の価値を作り出していかなければならない、という考え方です。どちらかというと企業が社会のニーズに歩み寄って「善行を施す」、というニュアンスが強い現在のCSRのあり方とは異なり、「社会にとって利益となることが企業にとってまた利益となる」ことが重要であり、もっと企業にとって自己中心的なアプローチでいいのだ、とポーター教授は言います。
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企業と社会の関係は悪循環に陥っている。本来であれば資本主義のゴールは社会全体に価値をもたらすはずであるところ、企業は自社の利益追求という狭義の目的に陥ってしまって、企業は社会やコミュニティの犠牲の上に繁栄を謳歌している、という見方も広がってきている。確かに企業にとって利益追求は第一の目的であるが、その利益が社会にきちんと還元されていない場合、企業と社会の関係はどんどん悪化してしまう。

Shared Valueとは、従来型の「企業にとって利益となることは社会にとっても利益である」という考え方と全く逆で、「社会にとって利益となることが企業にとっての利益となる」、つまり、社会にとって利益となる事柄が、企業にとっても経済的価値を生むはずである、という考え方である。この二つは、似ているようで根本的に全く異なる。例えば、一昔前までは、環境問題に取り組むのはそれが「立派な行い」だから、と考えられていた。

しかし結果的に、環境に配慮することは省エネや無駄の削減でコスト減をもたすことがわかった。つまり、社会の利益になることが企業の利益につながり得るのである。社会にはまだまだ解決すべき問題がたくさんあるのだから、それらを解決するために資本主義を動員しよう、しかもそれらの活動はこんなに利益を生むのだ、というふうになるのが望ましい利益の上げ方である。こういった利益は、社会の犠牲の上に成り立つのではなく、社会と企業との共通の利益の上に成り立つであろう。

これからの企業戦略やバリュー・チェーンの構築、競争力といったものには、Shared Valueという考え方が重要になってくる。例えばホールフーズがShared Valueという考え方をいち早く導入して大きな成功を収めたように、社会のニーズをどう取り込むかが、企業の差別化につながってくるのではないか。

真のサステイナブルなアドバンテージを持っている企業は、小手先のコストや品質の差別化にまどわされるのではなく、今まで対応してこなかったコミュニティとの関わりを考えたり、自社企業の製品と最も強く結びついている基本的な社会的ニーズが何なのかを考えたり、といった方向に向かっていくだろう。

企業利益とCSRにかかるコストは常にトレードオフだと考える必要はない。もちろん、社会から求められる法的、人道的な要求は満たす必要があるが、そこから一歩進んで、石油が流出すればエンジニアを出して海岸を掃除するとか、世間の評価を上げるためにとりあえず多くの慈善事業に寄付をするとか、そういった形での「社会貢献」と言う考え方から脱却しなければならない。

そうではなく、自社のバリュー・チェーンはどこにあるのか、そのバリュー・チェーンが触れているのはどういう社会的ニーズや問題なのか、そこをつきつめていかなければならない。企業製品から広がるバリュー・チェーンと、そこからつながっていく関連企業、関連コミュニティを含めれば、膨大なビジネスチャンスが眠っているはずである。

例えば、フェア・トレードと言う考え方がある。これは、先進国の企業が途上国から農作物などを買う際に、現地の農民や労働者に十分な利益が還元されないという現状を改善し、公平な利益分配を実現しよう、という考えかたである。これは典型的な「CSRの考え方」といってもいい。これは、もともと分け合うべき利益のパイが一定である、という前提に基づいている。つまり、一定の利益の中で、農民側により多く、公平な利益分配をして「よい行い」をしよう、というものである。

Shared Valueの考え方はそうではない。Shared Valueは、パイの大きさ自体を拡大することにビジネスチャンスを見出す。例えば、農民により多くの取り分を与えるだけでなく、彼らの農業スキルをアップさせたり、輸送システムを改善したりして、農作業そのものの効率を上げ、ひいては作物の品質を上げること。こういった形で現地の農民が手にできる経済価値を大きく引き上げられるならば、よい行い、公正な行いをすることに拘泥する必要もない。全体のパイを大きくすることで、既存の取引形態の中に新たな経済価値を増やし、それが社会的価値を生みだすことにつながるのである。

既存の形のCSRは、今壁に突き当たっていると思う。CSRに力を入れてきた企業の多くが、今までのやり方 – CSR担当部門が慈善事業に寄付する、といったやり方では、本当に何かを変えることはできないのだ、と気がつきつつある。本当の変化は、ビジネスそのものを動員しなければ実現できないのだ。

次の段階は、企業がそのような方向転換をするためのいろいろなツールキットを提供することが必要になろう。その準備は着々と進んでいる。また、社会の利益になることをするというだけでなく、バリューチェーン、立地、サプライチェーン、プロダクトデザインなどを、今とは全く違った形で再構築していくことになるのではないだろうか。

注:*引用、参照される際は、必ず下記のリンクより原典を当たられるようお願いします。
http://hbr.org/2011/01/the-big-idea-creating-shared-value