ハサビス氏:正しい梯子登り始めたA I
2017年6月4日 お仕事日 本 生 涯 現 役 推 進 協 議 会 &
NPO法人 ラ イ フ ・ ベ ン チ ャ ー ・ ク ラ ブ で
ご 支 援 く だ さ る 会 員 皆 様
「正しいはしご」登り始めたAI アルファ碁の父語る
「脳の働き、再現できないものはない」
米グーグルの人工知能(AI)「アルファ碁」が世界最強のプロ棋士、中国の柯潔(か・けつ)九段(19)との三番勝負で全勝した。生みの親で同社グループのAIベンチャー、英ディープマインドの最高経営責任者(CEO)、デミス・ハサビス氏(40)は日本経済新聞の取材に応じ、AI研究の進捗について「正しいはしごを登り始めた」と手応えを示した。
「このはしごはとても高く、何段あるかわからない。ただ、AIの歴史は誤ったはしごに登っては下りるの繰り返しだった。『正しいはしご』にたどり着いたのは、大きい」
ハサビス氏が「正しいはしご」と呼ぶのは、人間の脳をまねた情報処理手法として近年注目される「深層学習」というAIの研究分野だ。
神経科学者でもあるハサビス氏が仲間と2010年に創業したディープマインドは同分野の研究で世界の先頭を走る。深層学習に「強化学習」と呼ばれるもう一つの情報処理手法を組み合わせることで、AIの自己学習能力を飛躍的に向上させた。「知性の解明という意味では、まだ一段目を登ったにすぎない」としながらも、知能ゲームで最難関とされた囲碁で証明した実力に自信を深める。
1976年にロンドンで生まれたハサビス氏は、4歳でチェスを始め、10代初めには年代別の世界ランキングで2位になった。チェスの「神童」に転機が訪れたのは、11歳のとき。国際大会で年上の対戦相手にゲーム内容を激しくなじられるという苦い経験が、チェス以外の世界に目を向けるきっかけとなったという。
自分は与えられた能力をムダにしているのではないか。ここに集まった頭の良い人々が同じ時間とエネルギーをもっと世の中の役に立つことに使った方がいいのではないか――。その後のAI研究の道へとつながる「まさに天の啓示だった」と振り返る。
「あらゆる企業が『AIを使っている』と吹聴するが、9割はその意味を理解せず、マーケティング用語として使っている。まさにAIバブルだ」
「アルファ碁」の勝利は世間のAIに対する関心を一段と高めたが、手放しでは喜べないという。AIは70年代と90年代の2度、「冬」を経験している。いずれも期待先行で成果が伴わず失望を買ったためだ。過剰な期待は修正されるとみるが、一方で「『正しいはしご』を登り始めた今回は過去のような『冬』は来ない」と予言する。
米電気自動車(EV)メーカー、テスラのイーロン・マスクCEOら大物起業家や投資家から出資を受け設立したディープマインドが「研究を加速するため」に潤沢な資金を持つグーグルの傘下に入ったのは14年。今やグループのAI開発の中核を担う役割を考えれば推定5億ドル(約550億円)の買収額は安いぐらいだろう。エリック・シュミット会長は「現代の英国のサクセスストーリーの一つ」とハサビス氏らの功績を高く評価する。
ディープマインドの社員は約500人でその半数を研究者が占める。一つの組織が抱える深層学習の研究者の数としては世界最大だ。ハサビス氏は知性の解明という難題を、人類を月面に送る挑戦になぞらえて「AI版アポロ計画」と呼ぶ。
「脳の働きは非常に複雑だがコンピューターで再現できないものはないというのが我々の現時点の見方だ」
記憶、想像力、概念、言語――。AIはこれらの能力を全て獲得できると考える。目指すのは「アルファ碁」のような用途を限定したAIでなく、様々な課題をこなせる汎用AI「AGI(Artificial General Intelligence)」。囲碁では人間との「対決」に関心が集まったが、AIはあくまで人間の役に立つ「道具」だと説く。
ハッブル宇宙望遠鏡のおかげで、天文学者が地上からでは難しい高い精度の天体観測をできるようになったように、気候変動の問題に取り組む科学者や難病の治療法を探る医者がAIの助けを得ることで問題をより早く解決できるようになる。「これこそが人間とAIの協調のあるべき姿だ」と力説する。
与えられた目的と枠組みの範囲内とはいえ自ら学習し、行動するAIには「暴走」の懸念がつきまとう。人間の脳の動きは「機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)」を使って視覚化できるが、「バーチャルな脳」になりつつあるAIにもこうした装置が必要だと指摘。10年以内に開発し、意思決定のプロセスが人間から見えない「ブラックボックス」化を防ぐ意向を示した。(シリコンバレー=小川義也)
NPO法人 ラ イ フ ・ ベ ン チ ャ ー ・ ク ラ ブ で
ご 支 援 く だ さ る 会 員 皆 様
「正しいはしご」登り始めたAI アルファ碁の父語る
「脳の働き、再現できないものはない」
米グーグルの人工知能(AI)「アルファ碁」が世界最強のプロ棋士、中国の柯潔(か・けつ)九段(19)との三番勝負で全勝した。生みの親で同社グループのAIベンチャー、英ディープマインドの最高経営責任者(CEO)、デミス・ハサビス氏(40)は日本経済新聞の取材に応じ、AI研究の進捗について「正しいはしごを登り始めた」と手応えを示した。
「このはしごはとても高く、何段あるかわからない。ただ、AIの歴史は誤ったはしごに登っては下りるの繰り返しだった。『正しいはしご』にたどり着いたのは、大きい」
ハサビス氏が「正しいはしご」と呼ぶのは、人間の脳をまねた情報処理手法として近年注目される「深層学習」というAIの研究分野だ。
神経科学者でもあるハサビス氏が仲間と2010年に創業したディープマインドは同分野の研究で世界の先頭を走る。深層学習に「強化学習」と呼ばれるもう一つの情報処理手法を組み合わせることで、AIの自己学習能力を飛躍的に向上させた。「知性の解明という意味では、まだ一段目を登ったにすぎない」としながらも、知能ゲームで最難関とされた囲碁で証明した実力に自信を深める。
1976年にロンドンで生まれたハサビス氏は、4歳でチェスを始め、10代初めには年代別の世界ランキングで2位になった。チェスの「神童」に転機が訪れたのは、11歳のとき。国際大会で年上の対戦相手にゲーム内容を激しくなじられるという苦い経験が、チェス以外の世界に目を向けるきっかけとなったという。
自分は与えられた能力をムダにしているのではないか。ここに集まった頭の良い人々が同じ時間とエネルギーをもっと世の中の役に立つことに使った方がいいのではないか――。その後のAI研究の道へとつながる「まさに天の啓示だった」と振り返る。
「あらゆる企業が『AIを使っている』と吹聴するが、9割はその意味を理解せず、マーケティング用語として使っている。まさにAIバブルだ」
「アルファ碁」の勝利は世間のAIに対する関心を一段と高めたが、手放しでは喜べないという。AIは70年代と90年代の2度、「冬」を経験している。いずれも期待先行で成果が伴わず失望を買ったためだ。過剰な期待は修正されるとみるが、一方で「『正しいはしご』を登り始めた今回は過去のような『冬』は来ない」と予言する。
米電気自動車(EV)メーカー、テスラのイーロン・マスクCEOら大物起業家や投資家から出資を受け設立したディープマインドが「研究を加速するため」に潤沢な資金を持つグーグルの傘下に入ったのは14年。今やグループのAI開発の中核を担う役割を考えれば推定5億ドル(約550億円)の買収額は安いぐらいだろう。エリック・シュミット会長は「現代の英国のサクセスストーリーの一つ」とハサビス氏らの功績を高く評価する。
ディープマインドの社員は約500人でその半数を研究者が占める。一つの組織が抱える深層学習の研究者の数としては世界最大だ。ハサビス氏は知性の解明という難題を、人類を月面に送る挑戦になぞらえて「AI版アポロ計画」と呼ぶ。
「脳の働きは非常に複雑だがコンピューターで再現できないものはないというのが我々の現時点の見方だ」
記憶、想像力、概念、言語――。AIはこれらの能力を全て獲得できると考える。目指すのは「アルファ碁」のような用途を限定したAIでなく、様々な課題をこなせる汎用AI「AGI(Artificial General Intelligence)」。囲碁では人間との「対決」に関心が集まったが、AIはあくまで人間の役に立つ「道具」だと説く。
ハッブル宇宙望遠鏡のおかげで、天文学者が地上からでは難しい高い精度の天体観測をできるようになったように、気候変動の問題に取り組む科学者や難病の治療法を探る医者がAIの助けを得ることで問題をより早く解決できるようになる。「これこそが人間とAIの協調のあるべき姿だ」と力説する。
与えられた目的と枠組みの範囲内とはいえ自ら学習し、行動するAIには「暴走」の懸念がつきまとう。人間の脳の動きは「機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)」を使って視覚化できるが、「バーチャルな脳」になりつつあるAIにもこうした装置が必要だと指摘。10年以内に開発し、意思決定のプロセスが人間から見えない「ブラックボックス」化を防ぐ意向を示した。(シリコンバレー=小川義也)