人間には生まれついての原罪や業があるという。その罪や業というよりは人間を不幸にする可能性があるといわれる欲望・感情のうち七罪といわれる傲慢・嫉妬・憤怒・怠惰・強欲・暴食・色欲等、法律や宗教などの規範や倫理に反する行為から考えて、今回は「生涯現役に無知なのは本当に罪なのか?」について考えてみることにした。

  人間は猿から進化したと教えられた。その猿の中でもチンバンジーに近かった人類は、チンバンジーとの力関係に負けて森林から原野に追い出されたというのだ。ところが原野では外敵に狙われ易いので護身上必要に迫られて、あらゆる環境変化への艱難辛苦の努力を永続した結果、いまや霊長類の王者として地球上での覇者の地位を確保したのだという訳である。

  人類の祖先にどのような進化的変化が起きたかは、幅広い科学的探求の課題であるが、人類の用語は人類の進化する文脈ではヒト科ヒト亜科ヒト属生物に対して用いられる。ヒト属生物のホモ・サピエンスについては現生人類と表記され、人類は原人・旧人・新人と石器や火を使い始めて、原野の生活にも地盤を定着させ、約5万年前頃から人類の技術と文化はより速く変わり始めたらしい。

  人類の心と行動を進化させた知能の発達に関する狩猟仮説では、動物を追い、効率よく狩りをするために予測や想像と言った知性の発達が必要で、肉食による摂取エネルギーの増加は脳の増大を許容したのかもしれないし、ヒトは長い間捕食者というより外敵を回避するため知能を発達させ、暗闇に対する恐怖、幽霊の錯覚のような認知的錯誤の一部が発達したともいわれている。

  また社会活動が重要な選択圧だったと考える社会脳仮説は、行動や騙し、騙しの発見などを行うには相手の心を読み、複雑な人間関係を理解する必要が心の理論的な発達を促して、群れの巨大化傾向は個人関係の複雑さにも対応できた。道具の使用は知性の存在の象徴ともなり、またそれが人類の進化に特定の面、例えば脳の継続的な増大を刺激したかも知れないと推測されている。

  研究者は何百万年も続く人間の脳という身体への負担が大きな器官の増大をまだ説明できていない。現代人の脳は一日400キロカロリーのエネルギーを消費し、人体全消費量の20%にも達している。進歩する道具の使用は狩りと植物よりも摂取エネルギーが豊富な動物肉の消費を可能にし、初期の人類が道具の作成と使用能力の増大を促すような選択圧のもとに置かれた環境を克服した成果だといえる。

  その人類の環境克服史を顧みるとき、生存競争の世界で決定的な強みは一見物質社会観では不利に思える悪条件でも、それを打破した知恵と工夫の精神力で見事に征服した暁には、突然変異の改善改良にも成功している。だから自然界で絶滅危惧の生物種環境保存が叫ばれると、自力での生存本能を発揮できる根源には「生涯現役」の本質論が存在しており、その無知は人類滅亡にもつながるという思いがするのである。(つづく)