ちょうど5年前の本4月6日付け朝日朝刊紙“あしたを考える”の記事を「生涯現役社会づくり」の必要性喚起のための参考記事をご紹介し、以降5年間の現実推移からわが国の『生涯現役社会づくりに明日はあるか? 』を生涯現役仲間の皆様と総括すべきだろうと思う。
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  団塊世代の大量退職が始まり、先頭集団が47年1月~3月生まれが3月末までに定年を迎えた。団塊世代が集中する東京などの大都市圏は今後、急速に高齢化が進む。大量退職は企業だけでなく、地域の問題でもある。統一地方選では、候補者が10年、20年先を見据えた視点を持っているか、も重要なポイントとなる。(編集委員・辻陽明、松浦新、佐藤章)

団  塊  退  職  の  波

      
  し ぼ む 所 得   現役世代の総賃金現象/中長期の消費マイナス

  団塊世代は47~49年ごろの第1次ベビーブームに生まれた。1~3月生まれが特に多い。今年60歳になった47年1~3月生まれは約63万人と、前年の46年1~3月生まれの1.7倍だ。
  公務員は60歳になった年度末に定年退職するため、その影響がはっきり出ている。
  千葉市職員の3月末の退職者は209人と前年の1.8倍。東京都の退職者も1167人と昨年の1.4倍だった。いずれも来年以降さらに増える見込みだ。
  高度成長期に行政の仕事が増え、採用を増やした神奈川県や埼玉県、大阪府の職員・教員の退職も前年より3~5割増えている。
  60歳の誕生月に退職する民間企業では、JR東日本が3月末までの1年間で前年の1.5倍の約2600人が定年退職した。しばらくは2千人台の退職が続く見通しだ。
団塊世代を定年前にリストラした大企業も多い。辞めた社員は中小企業などに移って65歳まで働く。問題なのは雇用が続いても賃金は大幅に下がることだ。再雇用の賃金は、トヨタ自動車などの場合、現役時代の約半分になるという。
高所得者が減り、低所得者の数がその穴を埋めるほど多くないとすれば、現役世代の賃金総額は減る。
  厚生労働者の統計でも、現金給与平均の対前年比は、60歳になった人数が多い03年~04年は下がり、少ない05年~06年は上がった。「団塊」第1陣で増えた今年1月はまた下がった。小売販売額も、この賃金動向に連動するような動きを見せている。
  団塊世代への退職金が一時的に、個人消費を押し上げる要因になるとの指摘もあるが、中長期的には消費へのマイナスを懸念する声は多い。
65歳で引退する「2012年問題」を指摘する意見も出始めている。

  老 い る 都 会   東京は15年で77万人増/地方の高齢化緩やかに

  団塊退職で始まる高齢化の影響を最も受けるのは、65歳以上の増加が激しい首都圏の1都3県と大阪府、愛知県だ。
  国立社会保障・人口問題研究所の推計では、東京の65歳以上人口は15年間で77万人増え、2020年に307万人に。人口全体に占める割合も18.3%から24.7%に上昇し、2000年の島根県並みになる。逆に15~64歳の生産年齢人口は65万人も減る。
  1都3県の合計では、2020の65歳人口は892万人。15年間で293万人増え、生産年齢人口は217万人減る。
  急激な変化に行政は対応できるのか。埼玉県では2005年度からの3年で要介護者が22%増え、約18万8千人に達する見通しだ。これはこの間の65歳以上人口の増加率15%を大きく上回る。高齢化の進行で、寝たきりや認知省になりやすい75歳以上の高齢者の割合が高まるためだ。福祉や医療の費用、特別養護老人ホームなどの施設整備に多額の資金が必要になる。
  埼玉県は2011年度までに特養の入所定員を約1万5千人から7千人以上増やす計画だが、その先はこれから考えるという。
  一方、生産年齢人口の減少で経済活動が鈍り、税金や社会保険料収入が減る可能性が大きい。すでに財政難となっている自治体にとって、こうした高齢化に伴う新たな費用の財源確保は難しい。
  逆に、すでに高齢化が進んでいる地方では高齢者人口の増え方は緩やかになる。鳥取県や島根県の65歳以上人口の増加は2020年までに2万人程度。これまでの福祉施設などで対応できる分、新たな財政負担は少なくて済むことになる。ただ、生産年齢人口の減り方が激しい過疎地域では、集落の崩壊も増えそうだ。

  統 一 選 は 転 換 期 の 選 択 【 読 む ナ ビ】

  2007年4月8日と22日に投票がある今回の統一地方選は、団塊世代の大量退職という日本の転換期の地方政治の担い手を選ぶことでもある。
  「団塊の世代の穴は、よそから人を入れて埋められるレベルではない。これからは高齢者が増えるだけでなく、現役世代が減っていくことを認識しなければならない」。人口の変化が地域経済に与える影響に詳しい日本経済投資銀行の藻谷浩介参事役はこう指摘する。
  減っていく現役世代が希望を持って働き、税や社会保険料を負担する社会をどうつくるのか。どうしたら女性が子育てしながら働けるようになるか。現役世代の視点で社会の仕組みを見直すことが必要だと藻谷氏は強調する。
  高齢者激増時代の現実を直視し、持続可能な社会の将来像を描く。貴重な4年間を空費しない選択をしたい。(辻)