甚大な被害状況が死者15,854人、日経まとめの関連死1,407人、行方不明3,155人、負傷26,992人、避難343,935人、建物383,3246戸の強烈な痛手の中から、私たち日本国民は必死の1年を経過した。有難いことには17年前の阪神大震災義捐金1,793億円の2.4倍4,400億円が寄せられ、海外からの支援もいただいた。

  大震災後の活発な地殻変動からM5以上の余震599回、そのうちM6以上97回、M7以上6回というデーターに加えて、首都圏での高い発生確率がさらに高まっているとの指摘など地震列島日本国民の危機管理は、原発問題も含めて今後ますますの警戒を必要とすることは間違いあるまい。

  そこで本日は、「災害時こころのケア」に習うためのメンタルケアに関する当日本生涯現役推進協議会:渡部理事の貴重なご意見をご紹介したい。
-------------------------------------------------------------------------------------------------------------------

人 間 本 来 の 「 親 育 ち 」「 子 育 ち 」 へ
                              ひさし総合教育研究所 渡部 陽子

各々のこころの動きに寄り添う「災害時こころのケア」

  3月11日の東日本大震災後ちょうど一年になりました。現地では被災者も支援者も一心不乱にこの1年間対応してきた時期を経過して、いま新たな復興への局面を迎えていると思われます。地震・津波やそれに伴う原発事故の災害に遭われ非難されている多くの人々に対して「災害時こころのケア」の必要性が叫ばれています。緊急事態でこころに受けたストレスから解放され平常な状態に戻そうとする心身のケアです。一人ひとりがこうしたストレスから解放されなければなりません。「はしたない」などとお行儀よく取り澄ましていてはこの大きなストレスを単に抑えているだけで、このままでは会報されません。こころの深い傷になってしまいます。

自然の摂理

  身の危険を感じる怖い恐ろしい体験をした場合には、誰でも平常の心理状態に戻るまでには時間がかかります。動物の世界では、ライオンなどの肉食獣に追われて九死に一生を得て群れに戻ることができた草食獣は、この怖れから解放されるために仰向けになって四肢をバタつかせるなど一見奇妙な行動をとります。これは死の恐怖からくる震え・深呼吸など放出行動で自然の摂理です。群れの動物などはそのままやらせておくといいます。
  このような放出行動は被災者のみならず、ボランティアなど援助者などにも必要なことです。またTVなどで被災場面を繰り返し見ている子どもや高齢者などにもケアが必要な場合があるといわれています。

子どもが発達過程で負うこころの傷

  ところが地震などの緊急事態ではなくとも近年こどもが、身近な家庭、保育園、学校、職場また社会でも、こころに小さな傷が付くストレスを繰り返し受けているのではないかと指摘されています。まず支配的な大人(親・教師・年長者等)や仲間による「虐待」や「いじめ」が挙げられます。そしてもう一つ、特に核家族で親が「よい親」として、大人社会で「よい」とされる育て方に倣おうとしそれを子どもに強いる「よい子育て」があります。人間としての健やかな発達について無知であり豊かな発達過程を無視している子育てといえましょう。このような親に従って何も知らず健気に「よい子」を演じている子どもには、人間の健康な発達を阻止・阻害するストレスがのしかかっている状況が見受けられます。生まれてから成長するまで何年間も繰り返される「よい子育て」のストレスは見直されなければなりません。

老年期まで続く人間の豊かな発達過程

  人類は大きな脳を進化させてきており、その子育ても他の動物とは異なります。誕生から死までの発達は九段階(乳・幼年期・遊戯期・学童期・青年期・前成人期・成人期・成熟期・老年期/E・Hエリクソン他「老年期:みすず書房」)各々に課題があり、発達の順序に従って積み重ねられます。成人するまで愛情豊かで各々の発達過程で母や父から希望・兄弟仲間から意思・友達遊びから才能・友人関係から忠誠など配慮された環境では、子どもは各々の段階で信頼・自律・自発性・勤勉・アイデンティティの凝集が身について成人となります。
  しかし適切な心理・社会的環境がなければ、ストレスのためこころの病になる場合もあり、年齢を重ねても健やかな発達は困難です。「よい子育て」では、大人の一方的な(躾という)支配が強すぎ、子どもの意思や才能の芽吹きに気づくなど自然な子どもの発達に必要な配慮ある人間関係がありません。大人の勝手な判断で「危ないからだめ!」とか「親のいうことを聞きなさい!」など叱責するばかりです。親の言うままの「よい子」は冒険をする、創造性を発揮するなどの挑戦を自ら避けてしまいます。先回りして「親が喜ばないこと」と発達課題達成への一歩を踏み出しません。自分の意見も育ちません。仲間もできず子ども同士でも正当な抗議さえしないために強いものに巻かれてしまう子どもになります。
  大人の主体性のない生き方は、子どもの回りにこのような歪んだ人間関係を形成してしまいます。長年、幼児虐待やいじめの無くならない状態が続き、人権が尊重されずに幼い命が失われています。健やかな発達を遂げた自発性ある元気な子供や若者を減少させてしまっています。

「子育ち」「親育ち」そして生涯現役へ

  「よい子育て」から解放されると、親子各々に備わった主体的自発的な発達が始まります。私たち大人もわが身を振り返り、現実の社会に見合った働き方(ワークライフ・バランス)もわが子への接し方も、いま一度見直しましょう。そして人間として発達課題達成をめざし、親(成人期・成熟期・老年期)も子(生まれてから死ぬまで)も共に主体的な「親育ち」「子育ち」に励みましょう。この生き方が生涯現役で老年期にも活動できる資質の蓄積される秘訣といえましょう。