毎日新聞経済プレミア【http://mainichi.jp/premier/business/articles/20151228/biz/00m/010/019000c】サイトを転載ご紹介します。『生涯現役プロデューサー』仮ご登録諸兄姉の「下流老人」対策への建設的ご意見ご提言を期待しております。
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  「 貧 困 」 を 放 置 す る と 
          社 会 の 負 担 は さ ら に 増 え る
                         2016年1月8日 編集部

   「下流老人」藤田孝典さんインタビュー(3)

 「下流や貧困は自分とは関係ない、と考えていると大変なことになる」−−「下流老人」(朝日新書)の著書でNPO法人ほっとプラス(さいたま市)代表理事の藤田孝典さん(33)はこう指摘する。たとえ自分が健康でちゃんと働いていても、家族のだれかが仕事を失ったり病気になったりすると、状況は一瞬で暗転するからだ。非正規雇用が4割に達するなか、貧困層の増加は社会的コストの増加にもつながる。インタビュー3回目は、住宅政策の見直しなど貧困を防ぐ新たな制度と仕組みについて聞いた。【戸嶋誠司】

 −−著書の中で、住宅対策について言及しています。詳しく教えてください。

 ◆藤田孝典さん: 「ほっとプラス」に相談に来る高齢の方の7割は、持ち家ではなく賃貸住宅に住んでいます。6万円とか8万円万とか、少ない年金から高い家賃を払っている。首都圏なら最低でも5万円はかかりますよね。

 海外では公営住宅や低家賃の住宅があって、家賃補助制度も整備されています。この家賃負担を軽減する政策を進めてほしいと思いますね。一定年齢以上で収入や年金が少ない人に、自治体が家賃の半分を支給するとか。日本の場合、住宅政策は完全に個人任せです。ローンを組んで買うか、高い家賃を払い続けるかのどちらかしかない。持ち家もローンの問題とかリフォームの問題が出てきます。

  「 貧 困 」 の 要 因 の 一 つ は 住 居 費 の 高 さ

 この住宅政策は早急にやらないといけないと考えています。影響が高齢者に限らず、全世代に及ぶからです。手取り収入から住居費を差し引いた残りを「アフター・ハウジング・インカム」と言いますが、日本では住居費が高いため、この額がべらぼうに少ないのです。収入に占める住居費を1割とか2割に抑えられると、より多くのお金を教育費や老後資金に回せます。

 −−6月に新幹線のぞみ号で焼身自殺を図った高齢者も、低年金でアパート住まいでした。

 ◆藤田孝典さん: 年金収入が12万円で4万円のアパートに住んでいたそうです。海外なら公営住宅に優先枠で入れる収入レベルです。これが家賃1万円程度なら最低賃金で働いても何とかなる。

 生存に必要な住居が「商品」になっていて、その商品を買えない人、借りられない人がどんどん増えています。ならば、住居の「脱商品化」を進める必要があると思うんです。

 教育も同じです。高度な教育を受けるために高い学費を払い、高額の奨学金を借りる若者が多い。でも、その教育に見合った仕事に就けるかどうかはまったく不透明です。そして返済は何年も続く。

 今、大学生は必死にアルバイトをして生活費を稼いでいます。一部の女子学生は風俗店で働いていたりします。もう普通に暮らすこと、勉強すること自体が高コスト、高リスクになっている。若者にとっては結婚すらリスクに映っているでしょう。

 −−低年金の親と非正規雇用の独身の子供が同居し、お互いに依存して生活する事例も増えています。何かあると一気に行き詰まる。

 ◆藤田孝典さん: いろんなものがマイナスで絡み合って、どうやって出口を見つければいいのかわからない状況です。「貧困に陥ることは自己責任で、がんばれば防げる」という考えはもはや牧歌的すぎる。
 
  貧 困 問 題 は 高 齢 者 だ け の 話 で は な い

 非正規雇用が4割の時代ですから、保険料負担、介護料負担、年金負担はこれからどんどん重くなる。その中で若者世代は結婚も子育てもできなくなっていく。少子化は進み、今はまだ若い世代が高齢者を何とか支えていますけど、これからどんどん難しくなるでしょう。

 −−著書のタイトルは「老人」ですが、藤田さん世代の危機感を表しているようにも思えます。

 ◆藤田孝典さん: その通りです。1997、98年ごろ大学を卒業し、うまく就職できなかった「第1次就職氷河期世代」がそろそろ40代にさしかかります。正直言って、今も非正規雇用の状態なら、彼らの多くは生活保護受給者になるでしょう。その結果税金が上がります。当事者だけの問題ではなくなり、社会全体の負担が増えるのです。

 貧困予備軍を放置すると、いずれ貧困層が厚くなり、税金と社会コストが上がります。貧困状態が長く続けば健康にも影響するので、医療費も増えるでしょう。放置が結局、上の世代にも下の世代にも影響する。私たちは今、その悪循環の入り口に立っていると思うのです。

 −−藤田さんは年金制度の将来を信じていますか?

 今の年金制度は早晩破綻すると思います。だからどこかで最低保障年金に切り替えないといけない。税の負担割合を高めないと、今の年金制度は維持できないと思います。国民年金はすでに4割が未納で、もはや国民皆年金じゃなくなっています。じゃあ、未納した人に年金が支給されなければ、その人たちは生活保護に頼るしかなくなる。

 だったら、将来生活保護を支給するのか、65歳になったら最低保障年金を支給するのか。そんな議論を始めないといけない。少なくとも基礎年金部分には100%税を入れるべきだと思います。もう十分に出血多量の状態ですが、今ならまだ何とかなる。あと5年10年以内に国家戦略でやらないと、日本は回復不能なまま衰退していくと思います。

 そんなに不安をあおってどうする、とよく言われます。萎縮させるのはよくないと。それは一理あって、不安を感じると人は消費しないんです。お金を使わないでためてしまう。だから、若者は本当にものを買いません。結局、老後不安は消費低迷に直結するんです。「下流老人」にならなくて済む施策を打ち出してほしいですね。

◇略歴
藤田孝典(ふじた・たかのり)/NPO法人ほっとプラス代表理事
1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事、聖学院大学人間福祉学部客員准教授、反貧困ネットワーク埼玉代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員。ソーシャルワーカーとして現場で生活困窮者支援をしながら、生活保護や貧困問題への対策を積極的に提言している。著書に「下流老人 一億総老後崩壊の衝撃」「ひとりも殺させない」など。