毎日新聞7/6付「70歳まで雇用」記事紹介
2015年7月7日 お仕事【毎日新聞 2015年07月06日 東京朝刊】
は た ら く : 「 7 0 歳 ま で 雇 用 」 で 士 気 向 上
少子高齢化や年金不安が進む中、これまで培ってきた知識、経験を生かしてもらおうと、70歳まで雇用延長をする企業が出てきている。すでに65歳までは希望者の雇用が義務付けられているが、高齢者が豊かな生活を送るためにも、雇用延長はいっそう広がりそうだ。
● 顧 客 と 年 齢 近 く
大和証券は2013年、継続雇用を上限70歳まで延長した。神戸支店の上席アドバイザー、鶴野哲司さん(66)は該当者2人のうちの1人。入社したのは1973年。80年代のバブルとその崩壊、リーマンショックなど数々の波を乗り越えてきた。「若いころから誠意と真心で、ただ一生懸命お客様のところを回ってきた。いい話で浮かれる人は皆途中で消えてしまった。この年になり生き残っているのは、地道にやってきたから」としみじみ振り返る。
過去の知識が血肉となっているのに加え「お客様の年齢に近くなったので、信頼されるようになった」。週5日勤務で、残業こそないものの、午前中は社内で担当客の相手をして、午後は営業に出歩く。自ら軽自動車のハンドルを握ることもある。
人事から継続雇用を打診されたときに、「元気で働くのが社会貢献だ」と応じ、神戸支店は自ら希望した。入社後、東京、宮崎、大阪と全国を回った。だが、95年の阪神大震災の時に神戸支店に在籍していたことが、決め手になった。「震災で支店のビルも被害を受けた。半年間、大阪に拠点を移して、支店で手分けしてすべてのお客様の安否確認に回り、水とタオルを渡してきた」。その思いは今も残る。契約は1年更新だが、体力が許せば70歳まで続けるつもりだ。
本庄淳一郎グループ本社人事部副部長は「経験豊富な方に働いてもらうことは会社にとってプラス。社員にとっても、働く意欲のある人に選択肢を示せるよう制度を導入した」と説明する。支店の上席アドバイザーは営業のベテランで、その中で希望すれば継続雇用に応じる。給与は現役より下がるものの、賞与は現役と同じ査定だ。
不動産仲介大手の東急リバブルも、昨年から上限70歳までの雇用延長をするキャリアエキスパート制度を始め、2人が対象になっている。植村政美理事(67)は72年に入社後、不動産売買仲介を40年以上やってきた。同業他社にも植村さんほどのベテランはいない。バブル崩壊など業界が逆境のときも、どう乗り越えられるか体験してきた。
植村さんは「強引な営業はせず、長い目でお客様から信頼を得ることが大事」と話す。植村さんが退職することを知った顧客から、「もう少し続けてほしい」と要望があり、継続雇用に応じた。
野中絵理子ダイバーシティ推進課長は「実績、知見がある希望者から審査している」と説明する。今後も、対象者は増える見込みで、70歳まで働けることが、中年の社員の士気向上につながるという。
● 「 生 涯 現 役 」 意 識 を
独立行政法人「高齢・障害・求職者雇用支援機構」の桑原幸治理事は「平均寿命が延びており、社会の一員として生涯現役の考えが重要」と指摘する。働きやすい環境を作るためにも、体力面の衰えをカバーするよう、照明を明るくするなどのハード面の整備は言うまでもなく、評価、待遇などソフト面も整備し就業規則で明確に規定することが重要だ。
また、継続雇用に応じるには、これまでの自分のキャリアをもとに、会社でどんな貢献ができるかが重要だ。桑原理事は「45歳くらいから会社にお任せでなく、自主的にキャリアを考え、自分を育てていくことが大切」とアドバイスする。
厚生労働省の「生涯現役社会の実現に向けた雇用・就業環境の整備に関する検討会」も先月、「65歳以降も働く意欲のある高年齢者が生涯現役で活躍し続ける環境を整えていくことが必要不可欠」との報告書を出した。業種や規模によって対応は違うため同機構で相談に応じているほか、助成金の支給、先進事例の紹介も行っている。【柴沼均】
は た ら く : 「 7 0 歳 ま で 雇 用 」 で 士 気 向 上
少子高齢化や年金不安が進む中、これまで培ってきた知識、経験を生かしてもらおうと、70歳まで雇用延長をする企業が出てきている。すでに65歳までは希望者の雇用が義務付けられているが、高齢者が豊かな生活を送るためにも、雇用延長はいっそう広がりそうだ。
● 顧 客 と 年 齢 近 く
大和証券は2013年、継続雇用を上限70歳まで延長した。神戸支店の上席アドバイザー、鶴野哲司さん(66)は該当者2人のうちの1人。入社したのは1973年。80年代のバブルとその崩壊、リーマンショックなど数々の波を乗り越えてきた。「若いころから誠意と真心で、ただ一生懸命お客様のところを回ってきた。いい話で浮かれる人は皆途中で消えてしまった。この年になり生き残っているのは、地道にやってきたから」としみじみ振り返る。
過去の知識が血肉となっているのに加え「お客様の年齢に近くなったので、信頼されるようになった」。週5日勤務で、残業こそないものの、午前中は社内で担当客の相手をして、午後は営業に出歩く。自ら軽自動車のハンドルを握ることもある。
人事から継続雇用を打診されたときに、「元気で働くのが社会貢献だ」と応じ、神戸支店は自ら希望した。入社後、東京、宮崎、大阪と全国を回った。だが、95年の阪神大震災の時に神戸支店に在籍していたことが、決め手になった。「震災で支店のビルも被害を受けた。半年間、大阪に拠点を移して、支店で手分けしてすべてのお客様の安否確認に回り、水とタオルを渡してきた」。その思いは今も残る。契約は1年更新だが、体力が許せば70歳まで続けるつもりだ。
本庄淳一郎グループ本社人事部副部長は「経験豊富な方に働いてもらうことは会社にとってプラス。社員にとっても、働く意欲のある人に選択肢を示せるよう制度を導入した」と説明する。支店の上席アドバイザーは営業のベテランで、その中で希望すれば継続雇用に応じる。給与は現役より下がるものの、賞与は現役と同じ査定だ。
不動産仲介大手の東急リバブルも、昨年から上限70歳までの雇用延長をするキャリアエキスパート制度を始め、2人が対象になっている。植村政美理事(67)は72年に入社後、不動産売買仲介を40年以上やってきた。同業他社にも植村さんほどのベテランはいない。バブル崩壊など業界が逆境のときも、どう乗り越えられるか体験してきた。
植村さんは「強引な営業はせず、長い目でお客様から信頼を得ることが大事」と話す。植村さんが退職することを知った顧客から、「もう少し続けてほしい」と要望があり、継続雇用に応じた。
野中絵理子ダイバーシティ推進課長は「実績、知見がある希望者から審査している」と説明する。今後も、対象者は増える見込みで、70歳まで働けることが、中年の社員の士気向上につながるという。
● 「 生 涯 現 役 」 意 識 を
独立行政法人「高齢・障害・求職者雇用支援機構」の桑原幸治理事は「平均寿命が延びており、社会の一員として生涯現役の考えが重要」と指摘する。働きやすい環境を作るためにも、体力面の衰えをカバーするよう、照明を明るくするなどのハード面の整備は言うまでもなく、評価、待遇などソフト面も整備し就業規則で明確に規定することが重要だ。
また、継続雇用に応じるには、これまでの自分のキャリアをもとに、会社でどんな貢献ができるかが重要だ。桑原理事は「45歳くらいから会社にお任せでなく、自主的にキャリアを考え、自分を育てていくことが大切」とアドバイスする。
厚生労働省の「生涯現役社会の実現に向けた雇用・就業環境の整備に関する検討会」も先月、「65歳以降も働く意欲のある高年齢者が生涯現役で活躍し続ける環境を整えていくことが必要不可欠」との報告書を出した。業種や規模によって対応は違うため同機構で相談に応じているほか、助成金の支給、先進事例の紹介も行っている。【柴沼均】