「 イ ン タ ー ン シ ッ プ 」 の 現 状 と 課 題 【後編3】
 “ 目 的 ” を 明 確 に 謳 っ た イ ン タ ー ン シ ッ プ の 実 例 紹 介

事 例 2: 就 業 体 験 を 、 採 用 に 直 結 さ せ る
  ITソリューションを手掛けるB社では、採用に直結するインターンシップを実施している。アプローチとしては、まずIT業界他社との合同イベントで、参加学生を募集。1~2月に10~30日間、10人を上限に受け入れる。現場での就業体験を通じた働くことの実践的な学びの下、自社とのマッチング、母集団形成を図り、採用に結び付けていきたいと考えている

◆ 実践的な学びから自社とのマッチング、母集団形成を図り、採用へと結び付けるB社では、採用母集団形成や学生への早期の情報提供、自社の認知度のアップとして、就業体験を伴うインターンシップが大きな役割を果たすと考えている。「目的意識の強い学生を集めて、自社で就業体験をしてもらう」→「口コミで、その内容や同社に対する評価が拡散する」→「インターンシップ参加者や話を聞いて関心を持った学生が、以降の会社説明会、実際の採用選考に参加する」という採用に直結した流れを期待するものだ。

  「当社では1990年代からインターンシップを実施してきましたが、近年、インターンシップへの参加が一般化し、学生の目が肥えてきました。と同時に、他社でも当社と類似したインターンシップを企画するケースが増えてきました。また、大学側からも、以前にも増してインターンシップへの受け入れ依頼が寄せられるようになってきました。

  このような状況下、手法も内容も前年と同じレベルにとどまっていては、数多いインターンシップの中で埋没してしまい、十分な認知度向上、集客・母集団形成に結び付かないという危機感が強くなってきたのです。そこで、他社との差別化を図るためにも、新たに採用に直結するインターンシップの実施を考えたというわけです」(人事部責任者)

  B社のインターンシップの特徴は、募集段階で「採用直結型マッチング選考」と明確に謳っていること。まずは、IT業界他社との合同イベントを開催するわけだが、ここで学生は参加希望企業をドラフト形式で指名し、受け入れ企業を決定する。一人一社で、希望者多数の場合は抽選により振り分けていく。以降、インターンシップ自体は各社で個別に実施していくことになる。イベント開催は1月中旬で、インターンシップは1月下旬~春休みの期間中に行われる。

  B社では2014年に10人、2015年は15人を受け入れた。参加者の決定に当たり、選考試験などは行っていないが、「意欲・熱意があること」を前提に、オリエンテーションやマナー研修などへの参加を義務付けた上で、インターンシップに参加してもらっている。2015年の実施期間は30日間、実習時間は10時~17時(本人の希望で19時まで延長は可)。手当として、交通費・食事補助費用として、1日1000円を支給している。基本的に、各部署でどのような業務を体験させるかは現場の判断に任せている。開発やプログラミングだけでなく、営業担当であれば、外回りに同行させることもある。

■ インターンシップによる実務体験(例)
•社内会議への出席、議事録の作成
•新規サービス開始に向けた準備作業(企画書作成補助、ディスカッションペーパー作成、顧客訪問同行)
•業務体験(チーム開発、品質管理、ソリューション提案、ビジネス企画、顧客折衝、Webによる事例調査、アプリケーション開発作業、アプリケーション受け入れテスト実施)
•企業のビジネスモデル分析(リアルビジネスを図式化)
•自分のビジネスアイデアの記述(アイデア出しと図式化)
•共同研究結果の知的財産化 など
  「現場には仕事体験だけでなく、学生が働くとはどういうことか、“腹落ち”するようにしてほしい、と要望しました。ですから、テキストを渡してこれを読んでおいて、というようなことはNGです。また、課題に取り組ませて後で評価する形のワークもありますが、インターンシップで行うことは、一人前のビジネスパーソンとしての完全な実務とイコールというわけではないので、それだけを続けることのないよう、お願いしています。とはいえ、細かな仕事の進め方を人事で管理することはしません。取り組んだ内容は、最終日の成果発表で共有するため、特に問題はないと考えています」(人事部責任者)

◆ 採用との連動の仕方:現場評価→役員面接→内定出し
  インターンシップ参加者の内定出しには、第一に受け入れ先の現場による評価を重視している。その際のベースとなるのは、終了後に現場で記入する「参加者評定票」である。実習最終日の成果発表後、現場の担当者が記入した「参加者評定票」を参加者に配布し、結果のフィードバックと共に、参加者全員に対して最終選考である役員面接に進むかどうかの意向の確認を行う。その際、評価に関しては、人事部は一切関与せず、あくまで現場の判断をそのまま反映する。ちなみに「参加者評定表」のチェック項目は、経済産業省の「社会人基礎力」(前に踏み出す力、考え抜く力、チームで働く力)を参考に作成している。

  役員面接は、対象者の“人となり”を経営幹部の視点で最終確認する。ここで大きな問題がなければ、内定となる。能力・資質的な面は現場で見て、自社の理念や業務内容に理解・共感しているかどうかを役員がチェックする、というイメージだ。基本的に、ここまでを2月中には終了する。他社の採用活動と比べると、日程的に早い段階での内定出しのため、参加者が引き続き他業界を研究したり、他社を受験したりするケースは当然、想定している。現実的に辞退者が出ることを織り込みつつ、まずは一定数の内定者を確保することを優先している。
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  経団連加盟企業は「指針」に基づいて、インターンシップに期待されている効果を最大限に引き出すことを行えばいい。一方、非加盟企業では、自社がいいと思うインターンシップを、明確に大学・学生に示し、参加を募ればいいと思う。どのような形のインターンシップであれ、学生が社会と接する「場」として、多くの学びを得ることができるからだ。
  
  と、本稿を書いている最中、ERPパッケージソフト開発で知られるワークスアプリケーションズが20日間の「問題解決能力発掘インターンシップ」を実施し、優秀者に対しては一定期間有効とする「入社パス」を付与したことを、改めて思い出した。2002年の開始以来、応募者は20万人に上り、今や年間応募者が4万人に達する日本最大級のインターンシップとなっている。この事実を、もっと意識してもいいのではないか。

解説:福田敦之(HRMプランナー/株式会社アール・ティー・エフ代表取締役)