J.I. Mail News No.709/2015.06.11 発行
2015年6月19日 お仕事■□■ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
J.I.メールニュース No.709 2015.06.11 発行
「 ひ と り ひ と り の 物 語 ~ これからの終末期医療~ 」
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<巻頭寄稿文>
「 ひ と り ひ と り の 物 語
~ こ れ か ら の 終 末 期 医 療 ~ 」
ものがたり診療所所長
佐 藤 伸 彦(今月のフォーラムゲストです)
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自然な最期というのは何なのだろうと、高齢者医療の終末期に関わるなかでいつも考えてきました。
もしかしたら医療が、死の最期に良かれと思ってすることが、死に逝く人に過分な負担をかけ、徒にこの往生の際を引き伸ばしてしまっているのではないか、と考えてしまう経験を多くしてきました。
死 に 支 度 い た せ い た せ と 桜 か な
桜の花の散り際の潔さ(いさぎよさ)や儚さ(はかなさ)に、時に私達は自分の人生を重ねます。出来れば誰にも迷惑をかけずに、自分の人生は自分の手で幕を引きたい。そう考える人が、歳をとるにしたがって多くなってくるように思います。
そう遠くない将来、高齢者爆発による多死社会が来ます。その時今のように9割近くが病院で亡くなる社会では、おそらく乗り切る事が出来ないでしょう。
「何処で死ぬのかを選べる時代」にしなくてはなりません。とはいえ、今は選択肢がほとんどないのです。
自宅で死にたいという方は多いですが、実際は家族介護力の不足や療養する部屋の確保という住宅問題、老老夫婦介護や独居、最近では老老親子介護という問題もあり、在宅での最期がすべて良いものとは限りません。そして何より、治す事を目的とした「医学」だけではなく「死」というものを視野に入れた社会的実践行為としての「医療」が必要になってきます。
そんな中、在宅や病院・施設でもない「第3の場所」を作ろうと思って活動を始めたのが、もう10年そして5年前に独立し、医療法人社団ナラティブホームを設立しました。
ナラティブとは「ものがたり」という意味です。
病気というものはその人の一側面を見ているだけです。長い人生の中で私たちはいろいろな事情を抱え、自分なりの価値観をもって生きています。病気という一面だけで終末期ケアはできません。
私達の人生はまさに物語です。
また日々の生活も「語る」ということによって成り立っています。語ること/語られることを大事にし、終末期の方の最期の時間(人生)を生ききっていただきたいという思いで「ナラティブホーム」という造語を作りました。
そして富山県砺波市に「ものがたり診療所」という小さな在宅療養支援診療所と訪問看護、居宅介護支援センター、訪問ヘルパーステーションを開設しました。隣接する「ものがたりの郷」という15室の賃貸住宅を中心に、終末期の方に在宅の包括的チームケアを提供しています。「ものがたりの郷」は、がんに限らないすべての方の終末期に対応するホスピスと考えていただければよいかと思います。
がん疾患はもとより、経口摂取困難だが胃瘻造設を望まない方、慢性呼吸不全、慢性腎不全、慢性心不全等の末期などに対応しています。もちろん一般在宅での終末期にも対応しています。
次週「ヤシナヒビト」へ つづく
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【 佐 藤 伸 彦(さとう のぶひこ)氏:プロフィール】
1958年東京生まれ。富山大学薬学部、医学部卒業。成田赤十字病院内科、麻生飯塚病院神経内科を経て高齢者医療に携わり、市立砺波総合病院地域総合診療科部長を経て、平成21年4月に医療法人社団ナラティブホー ムを立ち上げ、平成22年4月1日「ものがたり診療所」を開設。平成24年は度厚生労働省在宅医療連携拠点事業所として地域医療と終末期医療をキーワードに包括チーム医療を実践。ナラティブホームの物語」を医学書院から2015年3月に刊行。
J.I.メールニュース No.709 2015.06.11 発行
「 ひ と り ひ と り の 物 語 ~ これからの終末期医療~ 」
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<巻頭寄稿文>
「 ひ と り ひ と り の 物 語
~ こ れ か ら の 終 末 期 医 療 ~ 」
ものがたり診療所所長
佐 藤 伸 彦(今月のフォーラムゲストです)
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自然な最期というのは何なのだろうと、高齢者医療の終末期に関わるなかでいつも考えてきました。
もしかしたら医療が、死の最期に良かれと思ってすることが、死に逝く人に過分な負担をかけ、徒にこの往生の際を引き伸ばしてしまっているのではないか、と考えてしまう経験を多くしてきました。
死 に 支 度 い た せ い た せ と 桜 か な
桜の花の散り際の潔さ(いさぎよさ)や儚さ(はかなさ)に、時に私達は自分の人生を重ねます。出来れば誰にも迷惑をかけずに、自分の人生は自分の手で幕を引きたい。そう考える人が、歳をとるにしたがって多くなってくるように思います。
そう遠くない将来、高齢者爆発による多死社会が来ます。その時今のように9割近くが病院で亡くなる社会では、おそらく乗り切る事が出来ないでしょう。
「何処で死ぬのかを選べる時代」にしなくてはなりません。とはいえ、今は選択肢がほとんどないのです。
自宅で死にたいという方は多いですが、実際は家族介護力の不足や療養する部屋の確保という住宅問題、老老夫婦介護や独居、最近では老老親子介護という問題もあり、在宅での最期がすべて良いものとは限りません。そして何より、治す事を目的とした「医学」だけではなく「死」というものを視野に入れた社会的実践行為としての「医療」が必要になってきます。
そんな中、在宅や病院・施設でもない「第3の場所」を作ろうと思って活動を始めたのが、もう10年そして5年前に独立し、医療法人社団ナラティブホームを設立しました。
ナラティブとは「ものがたり」という意味です。
病気というものはその人の一側面を見ているだけです。長い人生の中で私たちはいろいろな事情を抱え、自分なりの価値観をもって生きています。病気という一面だけで終末期ケアはできません。
私達の人生はまさに物語です。
また日々の生活も「語る」ということによって成り立っています。語ること/語られることを大事にし、終末期の方の最期の時間(人生)を生ききっていただきたいという思いで「ナラティブホーム」という造語を作りました。
そして富山県砺波市に「ものがたり診療所」という小さな在宅療養支援診療所と訪問看護、居宅介護支援センター、訪問ヘルパーステーションを開設しました。隣接する「ものがたりの郷」という15室の賃貸住宅を中心に、終末期の方に在宅の包括的チームケアを提供しています。「ものがたりの郷」は、がんに限らないすべての方の終末期に対応するホスピスと考えていただければよいかと思います。
がん疾患はもとより、経口摂取困難だが胃瘻造設を望まない方、慢性呼吸不全、慢性腎不全、慢性心不全等の末期などに対応しています。もちろん一般在宅での終末期にも対応しています。
次週「ヤシナヒビト」へ つづく
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【 佐 藤 伸 彦(さとう のぶひこ)氏:プロフィール】
1958年東京生まれ。富山大学薬学部、医学部卒業。成田赤十字病院内科、麻生飯塚病院神経内科を経て高齢者医療に携わり、市立砺波総合病院地域総合診療科部長を経て、平成21年4月に医療法人社団ナラティブホー ムを立ち上げ、平成22年4月1日「ものがたり診療所」を開設。平成24年は度厚生労働省在宅医療連携拠点事業所として地域医療と終末期医療をキーワードに包括チーム医療を実践。ナラティブホームの物語」を医学書院から2015年3月に刊行。