東瀧 邦次さま

いつもお世話になっております。
(ご案内資料は次の転載ご参考URL=http://www.alterna.co.jp/14116 です。)
-----------------------------------------------------------------------------------------------------
【Altarna誌:編集長 森 摂】

  リンゴを切ると、淡く黄色がかった果肉が露わになる。ごく当たり前のことだ。ところがこのリンゴは、中の果肉までもが赤い。青森県五所川原市で18年ぶりの新品種となった「栄紅」(えいこう)だ。これを地元が世界にも通用するリンゴとして育て、売り出そうとしている。プロジェクトをサポートしているのは、日立製作所だ。
  「栄紅」はただ果肉が赤いだけではなく、糖度は「ふじ」と同程度で、ポリフェノールがふじの8倍含まれているなど、栄養面でも優れている。11月22日に地元で開いた初めての一般向け試食会では「王林やジョナゴールドのような味で、さっぱりしている」などの声が上がり、好評だった(11月23日付け東奥日報)。
  栄紅は現在、苗木の育成中で、5年後の2019年に初の出荷を目指している。それまでに栄紅のファンを増やそうと、いまは「応援サポーター」を募集中だ。今年10月の豊洲マラソン(東京)にも五所川原のブースを置き、サポーターを募った。来年からは、栄紅の「オーナー制度」も始める計画だ。
  普及品のリンゴが1個80円以下のところ、栄紅は1個800~1000円を目指す。五所川原農林高校(五農高)の佐藤晋也校長(60)は「栄紅を2015年のミラノ万博に持って行きたい。そして世界に広めたい」と期待を込める。
  五農高の佐藤校長は、五所川原で農業を中心とした地域活性化に心血を注ぐ、地元のキーパーソンの一人だ。2012年に「五所川原6次産業化推進協議会」を立ち上げ、五農高のほか、地域の生産者、農協、津軽鉄道、日立製作所や行政、大学をつないだ。
  リンゴやコメのほか、コメ粉メン、みそドーナツ、ぶどう酢のドリンク「酢チューベン酢」などを地元企業と共同開発し、津軽鉄道の駅で販売する試みも始まった。
  佐藤校長が進めるのは、「就農就労型6次産業」だ。過疎が進む農村地域で雇用を生み出し、地域を活性化する。五農高から食糧供給産業を生み出し、環境保全と市民の健康を考える「環境健康研究センター」を目指している。
  来年早々には新会社を設立し、ここで五農高と日立製作所ががっぷり四つに組む。すでに登録制ウェブサイトをつくり、生徒たちの課題研究や、レシピ開発、ITと農業の連携などを進めている。
  ウェブサイトには生産者ら約100人と生徒492人、職員90人が参加し、情報を交換する。これで親近感を持ってもらい、ファンを広げていく。今後は、マーケティングや商品開発、さらには農産物の直接購入もできるようにする。(「五農高アグリコミュニティサイト」はこちら) 
プロジェクトを進める中で、日立製作所側からライブカメラのアイデアが出た。五農高の敷地内にある水田やリンゴ園、野菜畑や花のビニールハウスにライブカメラを置き、いつでも様子が分かるようにした。定点観測によって、気象データの蓄積や生産技術の共有ができるようになった。
  日立製作所側のリーダーは、情報・通信グループ・社会イノベーション事業開発室の川上裕二主任技師(54)。川上氏の専門は金融システムで、もともとは農業とはまったく縁がないキャリアだった。
  新分野開発のきっかけはリーマンショック。「金融市場のシステムはほぼ出来上がった。金融の次を考えると、地域通貨の可能性は十分あるが、日本では地域でモノとお金がまだ地域内で循環していない」。「そこで、どうすれば地産地消できるかを考え、農業に行き着いた」という。
  五所川原の産品を売り出すルートを探したところ、有機農産物の販売で名高いスーパーの福島屋(東京都羽村市、福島由一社長)に行き着き、取り扱いの了承を得た。
  佐藤校長はこう振り返る。「六次産業のプロジェクトは日立がいなかったら大変だった。ITの使い方、消費者への入り込み方を教えてもらった。ウェブで滞在時間やリピーターが分かる。そこから割り出していける」。
  栄紅は、生産者だけではなく、消費者のクラブ組織化を目指している。作る人と売る人が同じネットワークで情報を共有し、売り買いをする。こうしたプラットフォームの構築を日立製作所が担っている。
  川上氏は「私たちの視点は、実は農業ではない。6次産業だ」と話す。第3次産業であるITがいかに第一次産業である農業を活性化できるか。その掛け算にビジネスチャンスを見出す。
  その第一は「流通」で、モノだけではなく、情報の流通も指す。売り手と買い手をいかにつなげるかだ。特にデータベース化が重要という。二つ目は、ロボティックス。生産者が高齢化する中で、ロボット技術でも貢献を目指している。
  ロボットによる鳥獣被害への対応や、無人ヘリによる観測も視野に入れる。これにより、衛星写真よりも安価で収穫時期や病虫害のタイムリーな把握ができる。
  今後の活動について、佐藤校長は「ポイントは、子どもたち(生徒)をどう参画させるかだ」と言い切る。ネットワークを、自分たちの仕組みとしてとらえられるか、就農・就労を実現し、地域で活躍し、活性化させるか。(オルタナ編集長 森 摂)

(この続きは、朝日新聞社WEBRONZAの筆者連載コーナーと月刊誌「月刊総務」連載コラムに近日掲載します)