このメールは 日本生涯現役推進協議会 様宛にお送りしました。
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    J.I.メールニュース No.683 2014.12.04発行 
 「債権法改正について ―そんなに急いで、どうするの?―」
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 「債権法改正について ―そんなに急いで、どうするの?―」
               立教大学法学部 教授  角 紀代恵
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皆さんは、現在法務省が民法の「債権法」について改正作業を行っていることをご存知でしょうか。

平成21年以来、法制審議会民法(債権関係)部会※1で検討が行われ、今年8月に概要を取りまとめた「要綱仮案」を決定しました。来年の通常国会への法案上程を目指しているようです。

債権法とはざっくり言って、契約に関するルールです。条文を読む機会はほぼありませんから、一般国民にはなじみがありません。しかし、生活には密接に関わっています。

抜本的に見直した項目は約200。債権法については、民法制定以来はじめての大改正です。

民法が制定されてから120年。時代の変遷とともに変えた方が良い点がでてくるのは当然です。しかし、今回の改正は、不具合を修理するというよりも、改正のニーズがないところまで、土台からの全とっかえを目指したものでした。

今の法律では困ると言っている人はそんなにいないわけですから、検討を主導してきた法律学者が法律の体系としての美しさを重視したためとも言えます。そのため、23年4月の中間論点整理においてピックアップされた論点は500にも達し、3.11震災直後に行われたパブリック・コメントにおいては、改正すること自体の是非を問う多くの意見が寄せられました。

さて、改正の内容を見てみましょう。

たとえば、今回の改正の目玉ともいうべき「保証」です。

そもそもは、借金の保証人の自殺などの被害をなくすため、保証人保護の掛け声の下で作られた改正案です。

中小企業が事業資金を借り入れる場合、金融機関は、保証人をたてることを要求することが、ままあります。そこで、頼み込まれてしぶしぶ保証人になる人が出ないようにするために、「金融庁による監督指針」は、保証人になれる第三者(経営者以外の者)を、「積極的に保証を申し出た事業の協力者や支援者」に限定しています。それにもかかわらず「要綱仮案」は、保証意思があることを公正証書※2にサインすれば、どんな第三者であっても、保証人になれるとしています。

「要綱仮案」では、公正証書の作成というハードルが第三者保証の歯止めになると考えているものと思われます。しかし、公正証書を作りに公証役場に行くのは、融資が決まってからです。保証人となる人が、公正証書の作成を拒否すれば、融資の話はフイになります。このような状況で、公正証書の作成を拒否できる人は何人いるでしょうか?

さらに、せっかく保証人を公証役場に連れて来たのだからと、債権者は、保証人との間で、強制執行認諾文言付保証契約書(債務者が借金を返せない場合、債権者は訴訟をしなくても保証人に、即、強制執行できる)を作成する可能性が大です。これでは、保証人の保護は、現行法よりも悪化してしまうことになりかねません。

今回の債権法改正は学者主導で行われ、現場の意見を十分に反映したものとはいえません。改正が私達の生活や社会に与える影響について、十分な関心が向けられ、討論もなされたとは言えません。また、「要綱仮案」は、中間試案からかなりの修正が行われているにもかかわらず、パブリック・コメント手続も予定されていません。

このままでは、国民が何も知らないままに、国民生活に重大な影響を及ぼす債権法改正が行われてしまいます。

債権法改正は、急を要する課題ではありません。もっと、時間をかけて行うべきです。十分な国民的議論のために、いったん手を止めることを望むものです。

※1 法務大臣の諮問に応じて、民事法、刑事法その他法務に関する基本的な事項を調査審議すること等を目的とする。

※2 公証人が法令に従って法律行為その他私権に関する事実について作成した証書。法律上完全な証拠力をもつ。 

参照 角教授「債権法改正について」詳細資料→(http://www.kosonippon.org/mail/20141204.pdf
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【角 紀代恵(かど きよえ)氏:プロフィール】
富山大学経済学部助教授、筑波大学社会科学系助教授、成城大学法学部助教授を経て、平成7年より立教大学法学部教授。専門は担保法。著書に、『手続法から見た民法(共著)』『受取勘定債権担保金融の生成と発展』『基本講義 債権総論』他
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