生涯現役の立場で雇用問題を考える③
2013年4月14日 お仕事なるほど。長い間のさまざまなトラブルを経て、実質的には「日雇いの自動更新」のようであった契約関係が、「終身雇用」という形に変わっていった。
安藤:ただし、専門家は終身雇用という言葉は使いません。終身というと、死ぬまでと言うニュアンスがありますからね。米国では確かに終身雇用は「終身」です。本人が辞めるというまで雇い続けるという雇用契約が可能ですから。日本では多くの場合は定年が決められているので、例えば今22歳の人を雇ったら、実質的には定年が65歳なら、43年間の長期雇用、ということになるでしょう。
解雇規制を緩和して、労働市場を流動化させないと若者が職に就けないという意見もあります。
安藤:それはいろいろな場所で言われていますが、違いますね。かなりの誤解があると思います。
実は日本の解雇って、それほど厳しくないんですよ。大企業などが評判を気にするために抑制的になっているのは事実ですし、たとえばどのような時に解雇が可能なのかといった基準が不明確で、事前に予想がつきにくいという指摘は正しいのですが。一方で中小企業などでは、解雇規制なんて知るかといって平気でひどい解雇をしているという、かなり二極化された状況になっているのです。
先ほど普通解雇について話しましたが、解雇にはほかに懲戒解雇と整理解雇があります。懲戒解雇は、職場で盗みを働いた場合など、就業規則で定められた懲戒事由に該当する行為をした場合の解雇です。そして整理解雇とは、時代の変化や技術進歩、消費者の好みの変化などの理由で、仕事がなくなってしまった場合の解雇です。
整理解雇についても、整理解雇の4要素と言われる基準があり、解雇規制が厳しいなどと言われています。しかしよく見てみると、この法理は整理解雇自体を規制しているわけではありません。きちんと法律の専門家に相談して手順を踏めば、仕事がなくなった場合の整理解雇は可能なんです。それでは何を規制しているのかというと、整理解雇のふりをして恣意的な解雇をすることを規制しているのです。
整理解雇はそもそも、会社に仕事がなくなって人が余っているので、本当は辞めさせたくないけれど仕方がないから辞めてもらうという会社の都合による解雇ですから、本当に解雇が必要か、それを回避する努力をしたか、対象者の選定基準がしっかりしているか、十分な説明をしているかがチェックされます。
例えば解雇の必要性についてです。ある会社が、どんな仕事にも就く可能性がある長期雇用の労働者を整理解雇して、その直後に会社が新規採用をしたとしましょう。すると、仕事がなくなったから解雇したという理由は、真実ではないことになりますね。また回避努力として、正社員を解雇する前に新規採用を抑制し、非正規労働者を削減するよう求めています。これは正社員は一応、実質的には定年までの長期契約なのだから、契約をできるだけ守るためにも、例えば半年後に契約が終わる人がいれば、まずはそちらの人に先に辞めてもらうのが筋だ、などという意味です。
恣意的な狙い撃ち解雇を禁止しているのだが…
対象者の選定基準については、恣意的な選び方をしていないかどうかが問われます。そして十分な説明というのは、あくまで一方的な解雇なのだから、こういう理由で残念ですが、ということを十分に説明しているかが問われます。
繰り返しますが整理解雇法理は、あくまで、労働組合で活動しているから、だとか、生意気だからとか、本当は別の理由があるのに、恣意的な狙い撃ちで解雇をするのを禁止しているわけです。
まあ、働けなくなった場合の普通解雇でも仕事がなくなった場合の整理解雇でも、もう少し条件が明確になり、その内容が周知されることは必要ですね。裁判所がどのような判断を下すかについて予想がしにくいということもあり、実質解雇が難しいと思っている企業も多いからです。しかし労働契約法に書いてあるのは「客観的に見て合理的でないことや、社会通念上、変なことはしちゃいけません」ということだけなんですよ。
恣意的かどうかは判断が難しい部分も多いでしょうが、どちらにしても、身動きが取りにくい制度ではあります。
安藤:そうですね。こうした解雇の問題をクリアにするためには、原則3年までという短い有期雇用か、実質は定年までという長期雇用かという、極端な二者択一であることをどうにかしなければいけない。短期で雇うか超長期にするかを選ぶとなると、まず短期の採用が増えてしまいます。そして超長期で採用した場合も、やはり人の能力や経済環境は長期的には変わるため、解雇をしなければならなくなるケースも生まれるからです。
これに対して、たとえば契約期間については5年や10年の契約ができるなど、多様な雇用契約が可能になった場合は、そもそも解雇なんてしなくてもよくなるはずです。約束できる範囲で契約をして、約束は守る。その方が労働者にとっても先が見えやすいのではないでしょうか。
仕事や会社の中身がどんどん変わっていく時代です。このことを前提とすると、正社員として定年まで長期雇用される人というのは、今後は極めて能力が高くて順応性と学習能力を備えた人だけに限られてしまいます。この時短期雇用が増えすぎてしまうよりも、より安定した5年や10年といった中期の雇用というのがあってもいいと思います。
中期の雇用が可能になれば、労働市場の流動性も高まるということでしょうか。
安藤:労働市場の流動性を高める必要があるというのも、誤解が多い話です。まず2つの意味があって、成長産業に人を移動させる必要があるという話と、衰退している企業を身軽にするために人減らしが必要だという話があります。
前者については、景気が良くなり、新たな成長産業があれば、放っておいても人は移動します。長期雇用というのは、約束した期間内は労働者の雇用をできるだけ守るということが会社側に課される「片務的」な雇用保障であって、労働者は辞められるんです。労働市場を流動的にしないと新産業に人が移らないという話は、まあウソだと言ってよいでしょう。
ただ、退職金税制は変えた方がいいですし、年金もよりポータブルにすべきです。退職金は、労働者にとっては、普通に給料でもらうと累進課税がかかりますが、退職金には優遇税制があるので、会社に貯めておいてもらって後で受け取った方が得になります。会社も、高度成長期はよっぽど問題がある人以外は、ずっと会社にいてもらって能力を向上させてほしかった。だから会社に長くいてもらうために、退職金をニンジンとしてぶら下げて、雇用の安定を望んだわけです。 つづく
安藤:ただし、専門家は終身雇用という言葉は使いません。終身というと、死ぬまでと言うニュアンスがありますからね。米国では確かに終身雇用は「終身」です。本人が辞めるというまで雇い続けるという雇用契約が可能ですから。日本では多くの場合は定年が決められているので、例えば今22歳の人を雇ったら、実質的には定年が65歳なら、43年間の長期雇用、ということになるでしょう。
解雇規制を緩和して、労働市場を流動化させないと若者が職に就けないという意見もあります。
安藤:それはいろいろな場所で言われていますが、違いますね。かなりの誤解があると思います。
実は日本の解雇って、それほど厳しくないんですよ。大企業などが評判を気にするために抑制的になっているのは事実ですし、たとえばどのような時に解雇が可能なのかといった基準が不明確で、事前に予想がつきにくいという指摘は正しいのですが。一方で中小企業などでは、解雇規制なんて知るかといって平気でひどい解雇をしているという、かなり二極化された状況になっているのです。
先ほど普通解雇について話しましたが、解雇にはほかに懲戒解雇と整理解雇があります。懲戒解雇は、職場で盗みを働いた場合など、就業規則で定められた懲戒事由に該当する行為をした場合の解雇です。そして整理解雇とは、時代の変化や技術進歩、消費者の好みの変化などの理由で、仕事がなくなってしまった場合の解雇です。
整理解雇についても、整理解雇の4要素と言われる基準があり、解雇規制が厳しいなどと言われています。しかしよく見てみると、この法理は整理解雇自体を規制しているわけではありません。きちんと法律の専門家に相談して手順を踏めば、仕事がなくなった場合の整理解雇は可能なんです。それでは何を規制しているのかというと、整理解雇のふりをして恣意的な解雇をすることを規制しているのです。
整理解雇はそもそも、会社に仕事がなくなって人が余っているので、本当は辞めさせたくないけれど仕方がないから辞めてもらうという会社の都合による解雇ですから、本当に解雇が必要か、それを回避する努力をしたか、対象者の選定基準がしっかりしているか、十分な説明をしているかがチェックされます。
例えば解雇の必要性についてです。ある会社が、どんな仕事にも就く可能性がある長期雇用の労働者を整理解雇して、その直後に会社が新規採用をしたとしましょう。すると、仕事がなくなったから解雇したという理由は、真実ではないことになりますね。また回避努力として、正社員を解雇する前に新規採用を抑制し、非正規労働者を削減するよう求めています。これは正社員は一応、実質的には定年までの長期契約なのだから、契約をできるだけ守るためにも、例えば半年後に契約が終わる人がいれば、まずはそちらの人に先に辞めてもらうのが筋だ、などという意味です。
恣意的な狙い撃ち解雇を禁止しているのだが…
対象者の選定基準については、恣意的な選び方をしていないかどうかが問われます。そして十分な説明というのは、あくまで一方的な解雇なのだから、こういう理由で残念ですが、ということを十分に説明しているかが問われます。
繰り返しますが整理解雇法理は、あくまで、労働組合で活動しているから、だとか、生意気だからとか、本当は別の理由があるのに、恣意的な狙い撃ちで解雇をするのを禁止しているわけです。
まあ、働けなくなった場合の普通解雇でも仕事がなくなった場合の整理解雇でも、もう少し条件が明確になり、その内容が周知されることは必要ですね。裁判所がどのような判断を下すかについて予想がしにくいということもあり、実質解雇が難しいと思っている企業も多いからです。しかし労働契約法に書いてあるのは「客観的に見て合理的でないことや、社会通念上、変なことはしちゃいけません」ということだけなんですよ。
恣意的かどうかは判断が難しい部分も多いでしょうが、どちらにしても、身動きが取りにくい制度ではあります。
安藤:そうですね。こうした解雇の問題をクリアにするためには、原則3年までという短い有期雇用か、実質は定年までという長期雇用かという、極端な二者択一であることをどうにかしなければいけない。短期で雇うか超長期にするかを選ぶとなると、まず短期の採用が増えてしまいます。そして超長期で採用した場合も、やはり人の能力や経済環境は長期的には変わるため、解雇をしなければならなくなるケースも生まれるからです。
これに対して、たとえば契約期間については5年や10年の契約ができるなど、多様な雇用契約が可能になった場合は、そもそも解雇なんてしなくてもよくなるはずです。約束できる範囲で契約をして、約束は守る。その方が労働者にとっても先が見えやすいのではないでしょうか。
仕事や会社の中身がどんどん変わっていく時代です。このことを前提とすると、正社員として定年まで長期雇用される人というのは、今後は極めて能力が高くて順応性と学習能力を備えた人だけに限られてしまいます。この時短期雇用が増えすぎてしまうよりも、より安定した5年や10年といった中期の雇用というのがあってもいいと思います。
中期の雇用が可能になれば、労働市場の流動性も高まるということでしょうか。
安藤:労働市場の流動性を高める必要があるというのも、誤解が多い話です。まず2つの意味があって、成長産業に人を移動させる必要があるという話と、衰退している企業を身軽にするために人減らしが必要だという話があります。
前者については、景気が良くなり、新たな成長産業があれば、放っておいても人は移動します。長期雇用というのは、約束した期間内は労働者の雇用をできるだけ守るということが会社側に課される「片務的」な雇用保障であって、労働者は辞められるんです。労働市場を流動的にしないと新産業に人が移らないという話は、まあウソだと言ってよいでしょう。
ただ、退職金税制は変えた方がいいですし、年金もよりポータブルにすべきです。退職金は、労働者にとっては、普通に給料でもらうと累進課税がかかりますが、退職金には優遇税制があるので、会社に貯めておいてもらって後で受け取った方が得になります。会社も、高度成長期はよっぽど問題がある人以外は、ずっと会社にいてもらって能力を向上させてほしかった。だから会社に長くいてもらうために、退職金をニンジンとしてぶら下げて、雇用の安定を望んだわけです。 つづく