日 本 生 涯 現 役 推 進 協 議 会 &  
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   大 学 の 無 償 化 に は 反 対
――教育の無償化には賛成ですか、反対ですか。

小泉:誰もがタダで大学に行ける社会がいいとは思いません。もちろん学ぶ意欲があるのに、家庭や金銭の理由でチャンスをつかめないなら、そこはちゃんと支援する必要がある。給付型の奨学金はそのためです。

 仮に高等教育を無償化するなら、無償化する価値のある教育にしなければいけない。つまり大学改革が不可欠です。子供は減るけど大学は増える。仮に、そのオーバーユニバーシティ状態のなかで国債を突っ込んで無償化するというのは、ただの大学の温存。全く理解されないでしょう。

小林:そもそも大学の無償化の考え方は、「大学に行くのが英雄」、という第一創業期の時代の考えです。そうではなくて、個人の生き方があって、高校に進まずに職人など専門的なスキルを身に付けるという選択肢もある、本人側に選択権があるというのが第二創業期の考え方です。

   年金をもらわなくてもいい人がもらえる制度が悪い

村井:若者世代を応援することが自分たちにもプラスで、自分たちも社会の仕組みにお世話になって今がある、ということを高齢者にわかってもらう必要があります。年金が受給できるのは、将来の働き手である子どもたちが負担を背負ってくれるからでしょう。その仕組みに思い至らない人が増えたのは、受益ばかりを強調し、国民としての負担の必要性や重要性を訴えてこなかった政治の責任です。

小泉:僕も政治に責任があると思う。経団連や経済同友会の会員企業の役員には、年金をもらわなくても大丈夫な人がたくさんいる。もらっている人が悪いのではなく、そういう人がもらえてしまう制度になっていることが悪い。

 だから今回の提言には、富裕層が年金を辞退するインセンティブになる制度を導入してはどうかとも書きました。こうしたアイデアは恐らく、これまで全く議論されてきませんでしたが、検討に値すると思っています。

小林:政治はインフラを提供するのが大事ですが、「俺はいらないから必要な人に回してあげて」という助け合いの仕組みが、今はありません。政治のモデルが徐々に変わってきて、今は政府が消費税を集めて国民に還元するようなモデル、いわばB to B to Cですが、より直接的に企業から国民=B to C、国民から国民、つまりC to Cにお金を回すモデルにすれば、権利を返上した人と受益者の関係は、これまでより見える化できます。それによって、権利を放棄するインセンティブも出てきます。

 こども保険は貯められることなく、必ず子供たちにいくので、払った分と恩恵が明確に見える。これまでの仕組みは複雑すぎて、見えないからこそ不安だったり負担するのが嫌だったりした。それを見える化することが、シルバー民主主義のなかで人々の気持ちを変えていくことにつながるのではないでしょうか。

   ヤマト値上げと社会保障改革は似ている

村井:シルバー民主主義も問題ですが、政治不信も深刻です。税金を取られるが、何に使われるかわからない。その点、こども保険は“入りと出”が明確で政府が介在する余地はほとんどない。国民も理解しやすいと思います。

小泉:確かに、社会保障改革を進めるためにも、政治不信は乗り越えなければいけないポイントです。そういえば、最近話題のヤマト運輸の料金値上げと社会保障改革は、構造は似ています。でも人々の反応は全く異なるなと感じています。

 ヤマトは「人手不足でこのままでは運べなくなるから、料金を上げさせてください」とお願いしていますよね。ヤマトがそういうと、「なんか、そうだよね」と同情する(笑)。これだけネットで注文してるんだから、値上げも仕方ないと思ってしまいます。

 社会保障改革も構図は一緒で、「少子高齢化でもう持たないからご負担お願いします」とお願いするわけです。しかし、ヤマトみたいに「そうだよね」とはなりません。それは、政治が無駄遣いをしているのではないかと、国民から信頼されていないからです。

 こうした状況ですから、僕は社会保障改革は、もう根本から変えないと無理ではないかと思います。

 例えば、余裕がある人には年金が支給されないように、手を上げなければ支給されないという原則にするとか。医療費についても、今は年齢によって自己負担率が3割か2割か決まりますが、そもそも、年齢によって弱者かどうかを決めるのが正しいのでしょうか。真に困った人は、若者にも高齢者にもいます。年齢でなく、例えば基本的な保険料は一律でとり、あとは所得に応じて負担率を変える原則にするとか。

 結果がどうなるにせよ、一度、原則を変えるような大激論をやってみるべきです。相当なハレーションが起こるでしょうが、やらないと進みません。自民党内でコンセンサスは取れないだろうけど。

小林:ただし、今こそそれができるタイミングでしょう。イノベーションによって、一人ひとりに合ったサービスを提供できる技術基盤が整ってきました。基本は3割負担で、それぞれの努力や状況に応じて負担を軽減できるはずです。新しい制度を作り上げるための社会変化は、既に起きています。

   こども保険に対案を持ってきた人はいない

村井:党内でも、政調会長に議論を引き取ってもらい、「人生100年時代の制度設計特命委員会」が設置されました。原則の転換を含めて議論する舞台装置は整いました。

小泉:我々の提案には、いろんな批判もありますよ。党内含めてね。だけど、例えばこども保険について、対案を持ってきた人は一人もいません。代表的な批判の一つは、子どもがいない人には不公平だと。しかし、実は我々のメッセージは、まさにそこにあるのです。

 消費税から逃げるなという批判もあります。これも大きい。だけど、この批判に対しては、逆に消費税に逃げるなともいえる。8%から10%に予定通り上がるのは2年後。仮に予定通り上がるとしても使い道はもう決まっています。消費税を財源に新しいことをやるには、10%以上の増税の議論をしなければいけない。それはいつ実現できるのか。少子化対策は待ったなしの状況で、悠長なことは言っていられません。

 こども保険も完璧ではないけれど、ほかに案があるのなら、どこから財源を持ってくるかも含め、実現可能な対案は示されるべきです。

 社会保障の担い手は、将来保険料を支払うことになる、子どもたちです。今、社会保障全体の持続性が危機的な状況の中で、子どもがいる、いないに関係なく、子育てを社会全体で応援する社会を作ろうというメッセージを訴えているのです。しかも、それを主張している僕も小林さんも子供がいないというね。

   改 革 に 残 さ れ た 時 間 は 少 な い

――人口が多く、投票率も高い高齢者の声は、民主主義の中で必然的に大きくなります。それでも、「高齢者優遇」を是正していけるのでしょうか。

小泉:僕は一概に悲観していません。確かに20代の投票率は低いですが、10代では19歳より18歳のほうが高い。高校で主権者教育をやった成果でしょう。今の投票率は60~70代が高くて20代が一番低いのですが、将来、これが逆転するのも夢ではないかもしれません。

小泉:3月下旬に地元で、ゼロ歳から参加できる活動報告会というのをやったんです。赤ちゃんが泣いてもいい、子どもが走り回ってもいい。政治を身近にしたいから、演説会に来てみませんか、と。塗り絵とかベビーカー置き場を用意して、来場した800人のうち1割が子どもでした。

 ずっと塗り絵をやっていた女の子が、最後お母さんと帰るとき、「あー塗り絵楽しかった。また来よ」と言っていて、大成功だと思いました。きっとその子は進次郎のことも政治のことも覚えてないけど、いつかテレビで僕を見たときに、「塗り絵楽しかった時の人が、なんで?」と思って政治に興味をもつこともあると思う。

 ただ、改革に残された時間はあまりありません。25年にすべての団塊の世代が、後期高齢者になりますから。こうした状況で、全世代型の社会保障にかじを切るには、相当な努力と覚悟が必要です。

 僕らはもう子供にはなりませんが、誰もが高齢者になるのです。この自然の摂理が、シルバー民主主義の底流に流れています。高齢者になったとき、誰もがいい思いをしたい。しかし、その給付を支えるのは子供の世代です。世代間で支えあっていることを、理解しないといけません。

村井:今回こども保険や社会保障改革を若手メンバーで打ち出した時、高齢者からどういう反応が返ってくるだろうという恐怖感はありました。それでも「俺はこうしなければいけないと思う」と覚悟をもって訴えれば、有権者の考え方を変えられると信じるしかありません。小泉さんを中心に様々な政治家が説明をしてくれる中で、これならいけるかもしれないという確信に近いものを感じています。

小林:だから、地元の盆踊りや公民館を回って、「人生100年の時代が来ますよ」「こども保険やらなきゃダメなんです」と、説得しているんです。高齢者にも協力したい気持ちは確実にあります。

小泉:逆説的だけどね。僕は高齢者を信じたい。シルバー民主主義というのは、シルバーに耳障りのいいことを言うことではなくて、本当はシルバーの人たちに覚悟をもって真正面からぶつかっていくことなんだと思う。結局は、シルバー世代のことを、若者世代が信じられるのかどうかなのかもしれない。この日本が、保育園の建設に反対するような高齢者ばっかりだったら悲しいでしょう。