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  J.I.メールニュース No.786 2016.12.08 発行 太平洋戦争開戦記念日  
 「今こそローカリズム・日本の祭シリーズ 第十九弾 知立(ちりゅう)祭」
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<巻頭寄稿文>
   「今こそローカリズム・日本の祭シリーズ 第十九弾 知立(ちりゅう)祭」 
        至学館大学・伊達コミュニケーション研究所長 石田 芳弘
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知立市の出しているパンフレット類はすべて「まつり」とひらがなで書いてある。

祭の字の下の部分「示」は三方の形、上は肉月で生贄と野菜の供え物を意味する。すなわち、祭という漢字そのものが神に捧げものをする時の象形文字である。「祭」と必ず漢字で書いて欲しいものだ。これは由緒ある知立神社の権威に関わることだ。

知立祭を主宰する知立神社の由緒は古い。熱田神宮、三島大社と並び東海道三社に数えられていた歴史がある。筆頭ご祭神はウガヤフキアエズ(鵜草葺不合)。鵜の羽の上でお生まれになったと聞いた時、犬山の鵜飼に熱中していた私には親近感を覚えた神、初代天皇神武の父であり、神話世界最後の神だ。

知立祭は5月2・3日に行われる。日付が固定してあることも嬉しい。というのは、全国どこの神社も観光客に配慮して例祭日に近い日曜日に毎年毎年祭の開催日を変更する。要するに、観光向けの祭になりつつある。祭の権威を測る尺度として、このことを頭の片隅に置きたい。祭の原点はその土地のご先祖との邂逅である。神となった先祖を迎え、五穀豊穣や厄除けを願った信仰そのものであった。その点で知立神社は権威を保っている。

知立祭には5台の山車(ダシ)と呼ぶ曳山が繰り出す。「担ぎ上げ」といって、巡行中町角へ来ると、高く大きな山車の一方を担ぎ上げて回す。かなり傾くので見物しているものはハラハラする。担ぎ手である若い衆が格好良く見える祭の見せ場であろう。

祭には厳粛な神事と、喧騒な行事が共存する。酒を飲んで騒ぐことは神もお喜びになるという解説を正統な神職から聞いたことがある。祭の行事の中で風流(ふりゅう)とか練物(ねりもの)と呼ばれるものは今で言う所のパレードであり、何でもありでいいのだ。祭に伴う騒ぎに大衆文化の歴史的絵巻を見る。

5台の山車の1台はからくり人形だが、4台は文楽を奉納する。この人形浄瑠璃が知立祭の白眉であろう。私は数年前、この文楽を語る義太夫を聞いたが、その語り手は90過ぎの方だった。感情移入され高揚した語りの声と、ベンベンと重く低く響く太三味線のハーモニィが知立神社の社に木霊し、日本音楽の美を耳に留めている。

邦楽の世界では70過ぎてから声も技術も上達するという話を聞いたが、それは正座という姿勢が体の使い方にロスを生まないからだそうだ。

とにかく、日本の文化と欧米の文化は根本からその考え方と様式が違うという事を、祭をやっていると思い知らされる。

日本人はその様式とその奥にある思想を明治以降捨て去り、忘れてしまったのではないかと思えてならない。

2014年の知立祭は「全国山・鉾・屋台保存連合会」の総会と兼ねて開催された。この連合会に所属する32の祭※が、ユネスコの無形文化遺産になる可能性が出てきたからである。

※その後、伊賀市の「上野天神祭」が加わり33箇所になる
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【石田 芳弘(いしだ よしひろ)氏プロフィール】
愛知県議会議員、犬山市長、衆議院議員など、地方、中央の政治と行政を経験。特に教育、文化行政に力を入れた。「まちは生涯学習の最良の教室である」というのが持論であり、学校教育も生涯学習の一環であると考え、市民が教師の総合学習や全市博物館構想を推進。また、シンクタンクの研究員として先進国の地方議会を視察、研究。我が国地方議会も議院内閣制を導入すべしという、地方議会改革論議のオピニオンリーダーである。
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☆「山・鉾・屋台行事」は、2016年12月1日、ユネスコの無形文化遺産に登録されました。