「 パ ー パ ス ・ ブ ラ ン デ ィ ン グ 」 と い う 潮 流

 日 本 生 涯 現 役 推 進 協 議 会  &
    NPO法人 ライフ・ベンチャー・クラブ ご 関 係 の 皆 様

いつもお世話になっております。
  今年6月に米サンディエゴで開かれた「サステナブル・ブランド国際会議(SB)2016」を訪れました。会場に掲げられたメインテーマは「アクティベイティング・パーパス(Activating Purpose)」という文言でした。(編集長コラム:森 摂)
  この国際会議は現在、コペンハーゲンやバルセロナ、シドニーなど世界12都市で開かれています。2017年3月に日本で開かれる予定の「第1回サステナブル・ブランズ国際会議in 東京」でも、他の11都市と同様、「アクティベイティング・パーパス」がテーマになります。
  ところで、この「パーパス」という言葉は多くの日本人にとって少々分かりにくいかもしれません。受験英語では「目的」「意図」「用途」と訳されることが多いですが、この場合は少し違います。
そして、この「パーパス」を使ったブランディングが、海外では数年前から注目されているのです。
  米ハーバード・ビジネス・レビューのオンライン版に「あなたの会社のパーパスは、ビジョンでもミッションでもバリューでもない」という記事が載っています。(2015年9月3日付け。筆者はグラハム・ケニー氏)。
  この記事で「パーパス」と、「ビジョン」「ミッション」「バリュー」との違いが分かりやすく書かれているので、少し紹介しましよう。
  【ビジョン】組織(企業)が「何年か後にこうありたい」という姿。通常、経営層によって、日々の業務より長期のスパンの中で、明確で覚えやすい方法で思考するために書かれることが多いのです。
  【ミッション】その組織(企業)のビジネスが今どこにあり、どこを目指しているのかを書くもの。経営層や社員に対して、よりフォーカスされた姿を明示することが目的です。
  【バリュー】は、望ましい企業文化です。例えばコカ・コーラでは、バリューは社員の行動規範として機能しています。
  【パーパス】社員やスタッフが良い仕事ができるように、組織が顧客(企業の場合)や、学生(学校の場合)や、患者(病院の場合)の生活にどんな(良い)インパクトを与えられるのかを‪明確に表現するものです。(引用終わり)
  このグラハム・ケニー氏の定義は、彼独特の表現も入っているものの、いくつかの示唆があります。
  第1には、「ミッション」はより「一人称」としての視点が強いのです。「私はこうしたい」「私はこうありたい」という思いです。キリスト教でよく使う「ミッション」も、一人称としての使命感が強くにじみ出ています。
  一方、「パーパス」は、「社会やコミュニティの中で、こうありたい」というスタンスが強いように思えます。いわば「第三者的な視点」が加えられているのです。
  第2には、社外(組織外)に対する明確なメッセージである以上に、社内に対する力強いメッセージであることが多いのです。いわば「インナー・ブランディング」のツールとしての機能です。
  第3には、ビジョンやミッションが一般的に未来に向けた「方向性」(ベクトル)を表すものであるのに対し、パーパスは「原点」を表すことが多いのです。
  パーパスでは、ミッションやビジョンのように「今から何をしよう」「こうありたい」ではなく、「何のために私たち(の企業/組織)は存在しているのか」ーーが強く問われます。
  P&Gは、実は世界でも最も早く「パーパス」を導入した企業の一つです。1987年に生まれた、同社の最初のパーパスは「自社製品に最高のクオリティと価値を与え、世界中の顧客のニーズを満たすこと」でした。P&Gで「パーパス」が体系化された理由は、当時、ヴィックスやマックスファクターなどを買収し、これら子会社の社員にP&Gという企業への理解を深めてもらうことが背景にあったといわれています。
  このパーパスが、サステナビリティ(持続可能性)とブランディングの統合を目指す「サステナブル・ブランド国際会議」で大きく取り上げられました。その背景には、持続可能性を追求していくためには、やはり「第三者視点」が重要であることと無関係ではないでしょう。
   持続可能性を抜きにしたビジネスが世界で存在し得なくなった現在、ブランディングに「パーパス」の視点を取り入れる企業は今後も増えるとみられます。日本ではまだ事例は少ないですが、パーパス・ブランディングの流れは今後、確実に日本に根ざしていくでしょう。
  ちなみに、サステナブル・ブランド国際会議の共通テーマ「アクティベイティング・パーパス」とは、オルタナ45号(2016年8月号)の特集記事で、「存在意義を揺り起こせ」と訳しました。「パーパス」に興味を持たれた方は読んで頂ければ幸いです。