「生涯現役」以外に最適な人生戦略?(前)
2016年3月5日 お仕事【意見をつなぐ、日本が変わる/BLOGOS 】
関連URL=http://blogos.com/article/164308/】
記事 シェアーズカフェ・オンライン 2016年03月03日 05:00
高 齢 化 社 会 へ の ヒ ン ト
「 ど う せ な ら 、 楽 し く 生 き よ う 」(前)
中泉 拓也(関東学院大学 経済学部教授)
最近ブロガーとして有名な橘玲さんがtwitterでもfacebookでもツイートを連投していて、周りでは盛り上がっています。特に以下の2つのツイートは私も昨年来重要だと思っていたことです。
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橘 玲 @ak_tch
「人生90年」の高齢化社会においては、人的資本をできるだけ減耗させない「生涯現役」以外の最適戦略はない。「定年後の悠々自適」は破滅への道。一般技能とは無関係の会社の慣習や文化や精神論の習得に貴重な時間を費やすのがどれほど危険か、真剣に考えた方がいいのでは。 2016年2月23日 17:54
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健康寿命を延ばし、80まで働けるような社会設計は、我が国において、サステナブルな唯一の解決策ではないかと思うこの頃です。
しかしながら、この唯一の解決策とも言える「80まで現役」には大きな問題点があります。それは、私が2014年度のベスト論文に推薦したいスタンフォード大学教授のLazear先生と北京大学のLiang教授 とWang教授による「Demographics and entrepreneurship」(注1)で示されているように、高齢者が若者の就業機会を奪うため、若者の起業の機会が奪われてしまうことです。
起業には若い世代の新しい発想が不可欠でしょう。高齢化で、そもそも若者の比率が少なくなること自体、起業の減少につながり、経済の停滞をもたらします。高齢者の就業は、そもそも少なくなった若者の起業の比率自体を下げてしまうのです。
「80まで現役」には、「でも若者の足を引っ張らない」という必須条件が付いていると考えています。では、実際どうすればいいのでしょうか。そもそも働けるが権限は縮小するというのが制度的な方向だと思います。その意味で、東京大学経済学部教授の柳川先生の40歳退職提言は特筆に値すると思います。制度的な検討も今後進めなくてはならない課題だと思います。
また、「若者の足を引っ張らない」働き方を考えることも重要ではないでしょうか。それには橘さんのもう一つのツイートが参考になります。
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橘 玲 @ak_tch
20歳から50~60年働くことを考えれば「好きを仕事に」という戦略しかありません。これは理想論ではなく、きわめてリアルな話です。なかなか理解してもらえませんが。 2016年2月23日 19:02
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これには私は大賛成で、自分が好きなことをしている方が、過干渉を抑えるにも有効だと思います。
米国在住のエッセイストで、書評家でもある渡辺由佳里さんの著書「どうせなら、楽しく生きよう」(参考文献)は、まさにそういった生き方を示した画期的な啓発本です。ここでは、「好きを仕事に80まで現役」という生き方のススメとして、本書を紹介したいと思います。
■ こ れ ま で の 仕 事 観 と 離 れ て
タイトルの「どうせなら、楽しく生きよう」、正直、最初にこのタイトルを聞いた時、私自身がタイトル自体に投げやりな感じを受けてしまいました。しかし、それ自体が、日本社会、ひいては現代社会の問題の核心をついているのではと思います。産業革命以降、オートメーション化と流れ作業で、人が好き好んで出来ない仕事が一般的になってしまったのは頑然とした事実でしょう。そういった社会で生きるためには、むしろ好き好んで出来ないことをいかに行うかということが、仕事観の形成でも最大の課題となったのではないでしょうか。実際、経済学の基本モデルでも、仕事は賃金をもらうための不の満足を生む(不効用の)作業と定義され、仕事以外から満足(効用)を得ることが前提になっています。
しかし、仕事は自己実現の手段でもあります。また、IT技術や人口知能(AI)等の技術の進歩は、単純労働以外の仕事の重要性を高め、創造性が高いクリエイティブな仕事の重要性を高めたとも言えます。現代の先進国では、創造性の高く、楽しくできる仕事こそが高付加価値をもたらし、社会的にも重要になっているということができるでしょう。本書は、好きを仕事にすることの意義が、説得力をもって描かれています。それは、クリエイティブで創造性の高い、付加価値を生む仕事を80まで続けるための大きなヒントにもなると思います。
また、労働に対して不効用のみならず、効用が一部発生した場合、その分賃金が低くても良いため、その分競争力が高まることを意味します。そのため、企業の側も労働者を好きな仕事に配置させるインセンティブを持ちます。
■ 一 番 に な る こ と
ところで、本書の13章にも言及されているように、好きを仕事にすることができれば、それはだれもがそうしたいのではないでしょうか?むしろ、それができないからこそ、諦めて、別の仕事観を探っているというのが実情だと思います。そのため、本書の第2章のエイミーチェアによる子育て回想録「Battle Hymn of the Tiger Mother」のように、如何に能力を高め、競争に勝ち抜くかという観点のみからの教育論を論じた本が受け入れらるのでしょう。第2章で述べられているように、「Battle Hymn of the Tiger Mother」では、好きなことを仕事にするためではなく、1番になるためということが目的になっています。
本書はこれに対して、「タイガーペアレント」に育てられた子供が、将来払わねばならない「心理的なツケ」の大きさを警告し、書評の執筆を断った、ポー=ブロンソンの手紙を紹介しています。
■ 徹 底 的 に や る こ と
しかしながら、やりたくないことを全く行わないで済む仕事は先ずないでしょう。そこは折り合いをつけざるを得ません。また、特に教育上、嫌いなことも行う必要があることを教えることも重要だと思います。特に嫌いなことでもできる若いうちは、将来好きなことをするための十分な準備があったほうがいいでしょう。
でも、辛いことがあっても、好きなことをしているのだからやり切れるという意味もあります。その点、好きでやっている部分が多いほど、そういった折り合いもつけやすいと思います。また、好きな仕事に就くための競争も生まれるかもしれません。好きな仕事に就くためには、その競争の準備も必要で、そのためにはむしろ若い時に苦労しなければいけないかもしれません。
そのための準備で重要なのは、徹底的に何かしっかり行うことだと思います。私が本書で特にハッとしたのは、Kindle版の「12章 遊ぶことに罪悪感を覚える」の以下の一文です。「けれども、スポーツであれ、芸術であれ、学問であれ、熟練と達成への近道は「夢中になること」なのです。」
夢中にならなくても、「徹底的にやる」ということは、どんな仕事でも、作業でも、熟練と達成には不可欠だと思います。「徹底的にやるために、好きで、夢中にすることができるというのは一番幸せなことではないでしょうか。この本のタイトルはまさにそれを意味していると思います。 つづく
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記事 シェアーズカフェ・オンライン 2016年03月03日 05:00
高 齢 化 社 会 へ の ヒ ン ト
「 ど う せ な ら 、 楽 し く 生 き よ う 」(前)
中泉 拓也(関東学院大学 経済学部教授)
最近ブロガーとして有名な橘玲さんがtwitterでもfacebookでもツイートを連投していて、周りでは盛り上がっています。特に以下の2つのツイートは私も昨年来重要だと思っていたことです。
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橘 玲 @ak_tch
「人生90年」の高齢化社会においては、人的資本をできるだけ減耗させない「生涯現役」以外の最適戦略はない。「定年後の悠々自適」は破滅への道。一般技能とは無関係の会社の慣習や文化や精神論の習得に貴重な時間を費やすのがどれほど危険か、真剣に考えた方がいいのでは。 2016年2月23日 17:54
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健康寿命を延ばし、80まで働けるような社会設計は、我が国において、サステナブルな唯一の解決策ではないかと思うこの頃です。
しかしながら、この唯一の解決策とも言える「80まで現役」には大きな問題点があります。それは、私が2014年度のベスト論文に推薦したいスタンフォード大学教授のLazear先生と北京大学のLiang教授 とWang教授による「Demographics and entrepreneurship」(注1)で示されているように、高齢者が若者の就業機会を奪うため、若者の起業の機会が奪われてしまうことです。
起業には若い世代の新しい発想が不可欠でしょう。高齢化で、そもそも若者の比率が少なくなること自体、起業の減少につながり、経済の停滞をもたらします。高齢者の就業は、そもそも少なくなった若者の起業の比率自体を下げてしまうのです。
「80まで現役」には、「でも若者の足を引っ張らない」という必須条件が付いていると考えています。では、実際どうすればいいのでしょうか。そもそも働けるが権限は縮小するというのが制度的な方向だと思います。その意味で、東京大学経済学部教授の柳川先生の40歳退職提言は特筆に値すると思います。制度的な検討も今後進めなくてはならない課題だと思います。
また、「若者の足を引っ張らない」働き方を考えることも重要ではないでしょうか。それには橘さんのもう一つのツイートが参考になります。
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橘 玲 @ak_tch
20歳から50~60年働くことを考えれば「好きを仕事に」という戦略しかありません。これは理想論ではなく、きわめてリアルな話です。なかなか理解してもらえませんが。 2016年2月23日 19:02
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これには私は大賛成で、自分が好きなことをしている方が、過干渉を抑えるにも有効だと思います。
米国在住のエッセイストで、書評家でもある渡辺由佳里さんの著書「どうせなら、楽しく生きよう」(参考文献)は、まさにそういった生き方を示した画期的な啓発本です。ここでは、「好きを仕事に80まで現役」という生き方のススメとして、本書を紹介したいと思います。
■ こ れ ま で の 仕 事 観 と 離 れ て
タイトルの「どうせなら、楽しく生きよう」、正直、最初にこのタイトルを聞いた時、私自身がタイトル自体に投げやりな感じを受けてしまいました。しかし、それ自体が、日本社会、ひいては現代社会の問題の核心をついているのではと思います。産業革命以降、オートメーション化と流れ作業で、人が好き好んで出来ない仕事が一般的になってしまったのは頑然とした事実でしょう。そういった社会で生きるためには、むしろ好き好んで出来ないことをいかに行うかということが、仕事観の形成でも最大の課題となったのではないでしょうか。実際、経済学の基本モデルでも、仕事は賃金をもらうための不の満足を生む(不効用の)作業と定義され、仕事以外から満足(効用)を得ることが前提になっています。
しかし、仕事は自己実現の手段でもあります。また、IT技術や人口知能(AI)等の技術の進歩は、単純労働以外の仕事の重要性を高め、創造性が高いクリエイティブな仕事の重要性を高めたとも言えます。現代の先進国では、創造性の高く、楽しくできる仕事こそが高付加価値をもたらし、社会的にも重要になっているということができるでしょう。本書は、好きを仕事にすることの意義が、説得力をもって描かれています。それは、クリエイティブで創造性の高い、付加価値を生む仕事を80まで続けるための大きなヒントにもなると思います。
また、労働に対して不効用のみならず、効用が一部発生した場合、その分賃金が低くても良いため、その分競争力が高まることを意味します。そのため、企業の側も労働者を好きな仕事に配置させるインセンティブを持ちます。
■ 一 番 に な る こ と
ところで、本書の13章にも言及されているように、好きを仕事にすることができれば、それはだれもがそうしたいのではないでしょうか?むしろ、それができないからこそ、諦めて、別の仕事観を探っているというのが実情だと思います。そのため、本書の第2章のエイミーチェアによる子育て回想録「Battle Hymn of the Tiger Mother」のように、如何に能力を高め、競争に勝ち抜くかという観点のみからの教育論を論じた本が受け入れらるのでしょう。第2章で述べられているように、「Battle Hymn of the Tiger Mother」では、好きなことを仕事にするためではなく、1番になるためということが目的になっています。
本書はこれに対して、「タイガーペアレント」に育てられた子供が、将来払わねばならない「心理的なツケ」の大きさを警告し、書評の執筆を断った、ポー=ブロンソンの手紙を紹介しています。
■ 徹 底 的 に や る こ と
しかしながら、やりたくないことを全く行わないで済む仕事は先ずないでしょう。そこは折り合いをつけざるを得ません。また、特に教育上、嫌いなことも行う必要があることを教えることも重要だと思います。特に嫌いなことでもできる若いうちは、将来好きなことをするための十分な準備があったほうがいいでしょう。
でも、辛いことがあっても、好きなことをしているのだからやり切れるという意味もあります。その点、好きでやっている部分が多いほど、そういった折り合いもつけやすいと思います。また、好きな仕事に就くための競争も生まれるかもしれません。好きな仕事に就くためには、その競争の準備も必要で、そのためにはむしろ若い時に苦労しなければいけないかもしれません。
そのための準備で重要なのは、徹底的に何かしっかり行うことだと思います。私が本書で特にハッとしたのは、Kindle版の「12章 遊ぶことに罪悪感を覚える」の以下の一文です。「けれども、スポーツであれ、芸術であれ、学問であれ、熟練と達成への近道は「夢中になること」なのです。」
夢中にならなくても、「徹底的にやる」ということは、どんな仕事でも、作業でも、熟練と達成には不可欠だと思います。「徹底的にやるために、好きで、夢中にすることができるというのは一番幸せなことではないでしょうか。この本のタイトルはまさにそれを意味していると思います。 つづく