朝日Digital:財界自民献金これでいいか
2015年11月28日 お仕事 資金面で自民党「1強」を支える企業・団体献金。支持率が安定する安倍晋三首相のもと、自民党は強気で企業を回り、献金を集めようとする。政権への影響力を高めたい経団連も呼応し、企業・団体ごとに寄付額を割り振る「奉加帳」も復活した。自民と財界の蜜月が再び深まりつつある。
自 民 へ の 企 業 献 金 2 2 億 円 1 3 % 増、
下 野 前 水 準 に 戻 る
2014年初め、東京都千代田区にある貿易系の東証1部上場企業の応接室。政治担当の役員が、自民党経理局長(当時)の山口泰明衆院議員と向き合っていた。
山口氏は持参した文書を役員に手渡した。そこに書かれた「3千万円」という数字に役員が目を通すと、こう口にした。
「今年はできればこの金額でお願いしたい」
この企業は前年の13年、自民党の政治資金団体である「国民政治協会」(国政協)に約2千万円を寄付した。それより約1千万多い。
「ずいぶん強気に来たな」。内心、そう感じた役員は「社内で検討させていただきます」と伝え、山口氏らを見送った。結局、同社は14年分の寄付額を13年分から300万円だけ上積み。後日、山口氏に「満額回答」できなかった理由を「資源安で、海外での投資事業に悪影響が出て業績が悪いから」と伝えた。
山口氏は朝日新聞の取材に「献金してもらうわけだから、丁寧にぜひよろしくと言う。無理をしたら長続きしない」と語る。年1、2回、党財務委員長と分担して企業や団体を訪ね、寄付を依頼するという。
ログイン前の続き日本建設業連合会によると、国政協から毎年2月ごろ2通の文書が郵送されてくる。1通は安倍晋三総裁(首相)名で、前年の党の政策実績が羅列されたもの。もう1通は国政協の会長名で、寄付の要求額が記されているという。
非鉄金属系企業でつくる日本鉱業協会は13年、国政協に対し、自民党が下野する前と同額の1800万円を寄付すると決めていた。だが、国政協から「選挙があるので協力してもらえませんか」と電話で要請があり、300万円上乗せして計2100万円を寄付した。14年も衆院解散後、同じように求められ、300万円増やした。
自民党の経理局長経験者は明かす。
「あまり強引なことはできないが、増額はお願いする。『今年は空前の利益ですから……』などと言って」(中村信義、西村圭史)
■ 経 団 連 が 仲 介 、 銀 行 も 検 討
こうした自民と大手企業を仲介するのは経団連だ。昨年6月に榊原定征会長が就任して以来、安倍政権との蜜月ぶりが際立つ。
前任の米倉弘昌会長は、安倍首相の金融緩和策を「無鉄砲」と批判するなど、両者の仲はしっくりいっていないとされた。首相官邸が主宰する主要な会議メンバーに経団連会長が選ばれないなど、「経団連外し」(大手企業幹部)さえ起きた。
米倉氏に代わって就任した榊原氏は、法人税減税など財界が望む政策の実現もにらみ、政権との関係修復を図る。元経団連事務総長の中村芳夫氏を内閣官房参与に送り、昨年9月には、会員企業に対して、事実上の自民側への献金呼びかけを5年ぶりに再開した。出身の東レは6年ぶりに4千万円を国政協に寄付し、会員企業も呼応した。
ある会員企業の政治資金担当者は、経団連が矢面に立つことで「会社としては献金の大義名分が立ちやすい。役員会や株主総会でも説明できる」と話す。
巨額の公的資金注入を受けたことで長く献金を自粛してきた銀行業界も、乗り遅れまいと動く。公的資金の完済や法人税納付の再開を受け、15年以降の献金を検討。ある大手行幹部は「献金は入場チケット。なければ政府や与党にモノが言えない」と話す。様々な規制を課せられる業界にとっては、政治献金を通じた自民とのパイプは「身を守る手段だ」と割り切る。
一方で、経団連の会員企業の中には「赤字の時には(自民は)何も助けてくれないのに、黒字になったから献金せよというのは納得がいかない」(素材メーカー)との不満もある。(小林豪、内山修)
■ か つ て の 「 奉 加 帳 」 が 復 活 か
自民と経団連を献金でつなぐ具体的な仕組みや人脈も復活しつつある。
自民の経理局長経験者は「安倍政権発足から3年近くたち、かつての『奉加帳』がだいたい復活した」と明かす。「奉加帳」とは、各企業や団体から国政協を通じて自民に献金する際、売り上げ規模などに応じて寄付額を割り当てるシステムだ。1970~80年代に経団連事務総長を務め、「財界の政治部長」といわれた故・花村仁八郎(にはちろう)氏が確立した。
献金全体の1割ずつを占める日本自動車工業会や日本鉄鋼連盟は「1割団体」と呼ばれた。また、個別企業への割当額は、経団連に納める会費が目安になったという。会費は経団連の中で就く役職が重くなるほど格が上がって増える。格上のポストを得るために会費も寄付も多めに払う会社があるといい、大手商社の幹部は「経団連の役職にもつながるので下手に値切れない。自民もそこをうまく突いて要求してくる」と話す。
自民も財界とのパイプをさらに太くしようと努める。12年衆院選で政権に返り咲いてからは、法人税減税などの陳情に再び来るようになった各業界幹部と関係修復を図った。
また国政協は14年8月、経団連専務理事として政界などを担当していた田中清氏を理事に迎えた。大手企業幹部は「田中さんは経団連の各会員企業に顔がきく。自民党の献金システムは経団連と一体ということだ」と語る。
14年は自民に22億円の企業・団体献金が集まった。(小寺陽一郎、久木良太)
自 民 へ の 企 業 献 金 2 2 億 円 1 3 % 増、
下 野 前 水 準 に 戻 る
2014年初め、東京都千代田区にある貿易系の東証1部上場企業の応接室。政治担当の役員が、自民党経理局長(当時)の山口泰明衆院議員と向き合っていた。
山口氏は持参した文書を役員に手渡した。そこに書かれた「3千万円」という数字に役員が目を通すと、こう口にした。
「今年はできればこの金額でお願いしたい」
この企業は前年の13年、自民党の政治資金団体である「国民政治協会」(国政協)に約2千万円を寄付した。それより約1千万多い。
「ずいぶん強気に来たな」。内心、そう感じた役員は「社内で検討させていただきます」と伝え、山口氏らを見送った。結局、同社は14年分の寄付額を13年分から300万円だけ上積み。後日、山口氏に「満額回答」できなかった理由を「資源安で、海外での投資事業に悪影響が出て業績が悪いから」と伝えた。
山口氏は朝日新聞の取材に「献金してもらうわけだから、丁寧にぜひよろしくと言う。無理をしたら長続きしない」と語る。年1、2回、党財務委員長と分担して企業や団体を訪ね、寄付を依頼するという。
ログイン前の続き日本建設業連合会によると、国政協から毎年2月ごろ2通の文書が郵送されてくる。1通は安倍晋三総裁(首相)名で、前年の党の政策実績が羅列されたもの。もう1通は国政協の会長名で、寄付の要求額が記されているという。
非鉄金属系企業でつくる日本鉱業協会は13年、国政協に対し、自民党が下野する前と同額の1800万円を寄付すると決めていた。だが、国政協から「選挙があるので協力してもらえませんか」と電話で要請があり、300万円上乗せして計2100万円を寄付した。14年も衆院解散後、同じように求められ、300万円増やした。
自民党の経理局長経験者は明かす。
「あまり強引なことはできないが、増額はお願いする。『今年は空前の利益ですから……』などと言って」(中村信義、西村圭史)
■ 経 団 連 が 仲 介 、 銀 行 も 検 討
こうした自民と大手企業を仲介するのは経団連だ。昨年6月に榊原定征会長が就任して以来、安倍政権との蜜月ぶりが際立つ。
前任の米倉弘昌会長は、安倍首相の金融緩和策を「無鉄砲」と批判するなど、両者の仲はしっくりいっていないとされた。首相官邸が主宰する主要な会議メンバーに経団連会長が選ばれないなど、「経団連外し」(大手企業幹部)さえ起きた。
米倉氏に代わって就任した榊原氏は、法人税減税など財界が望む政策の実現もにらみ、政権との関係修復を図る。元経団連事務総長の中村芳夫氏を内閣官房参与に送り、昨年9月には、会員企業に対して、事実上の自民側への献金呼びかけを5年ぶりに再開した。出身の東レは6年ぶりに4千万円を国政協に寄付し、会員企業も呼応した。
ある会員企業の政治資金担当者は、経団連が矢面に立つことで「会社としては献金の大義名分が立ちやすい。役員会や株主総会でも説明できる」と話す。
巨額の公的資金注入を受けたことで長く献金を自粛してきた銀行業界も、乗り遅れまいと動く。公的資金の完済や法人税納付の再開を受け、15年以降の献金を検討。ある大手行幹部は「献金は入場チケット。なければ政府や与党にモノが言えない」と話す。様々な規制を課せられる業界にとっては、政治献金を通じた自民とのパイプは「身を守る手段だ」と割り切る。
一方で、経団連の会員企業の中には「赤字の時には(自民は)何も助けてくれないのに、黒字になったから献金せよというのは納得がいかない」(素材メーカー)との不満もある。(小林豪、内山修)
■ か つ て の 「 奉 加 帳 」 が 復 活 か
自民と経団連を献金でつなぐ具体的な仕組みや人脈も復活しつつある。
自民の経理局長経験者は「安倍政権発足から3年近くたち、かつての『奉加帳』がだいたい復活した」と明かす。「奉加帳」とは、各企業や団体から国政協を通じて自民に献金する際、売り上げ規模などに応じて寄付額を割り当てるシステムだ。1970~80年代に経団連事務総長を務め、「財界の政治部長」といわれた故・花村仁八郎(にはちろう)氏が確立した。
献金全体の1割ずつを占める日本自動車工業会や日本鉄鋼連盟は「1割団体」と呼ばれた。また、個別企業への割当額は、経団連に納める会費が目安になったという。会費は経団連の中で就く役職が重くなるほど格が上がって増える。格上のポストを得るために会費も寄付も多めに払う会社があるといい、大手商社の幹部は「経団連の役職にもつながるので下手に値切れない。自民もそこをうまく突いて要求してくる」と話す。
自民も財界とのパイプをさらに太くしようと努める。12年衆院選で政権に返り咲いてからは、法人税減税などの陳情に再び来るようになった各業界幹部と関係修復を図った。
また国政協は14年8月、経団連専務理事として政界などを担当していた田中清氏を理事に迎えた。大手企業幹部は「田中さんは経団連の各会員企業に顔がきく。自民党の献金システムは経団連と一体ということだ」と語る。
14年は自民に22億円の企業・団体献金が集まった。(小寺陽一郎、久木良太)