幸せとは 第6部「生きる」(1)生涯現役

 少子化が進む一方、日本人の平均寿命は延び続けている。定年延長など高齢者が働く環境は大きく変化し、健康寿命を延ばす取り組みが各地で進められている。一方で、認知症や介護の課題が社会に大きくのしかかっている。超高齢化社会をどう生き抜くか。第6部では「生きる」をテーマに、高齢者の健康への取り組みや働くことの意義、さらに認知症や介護の実態をリポートする。

 10月21日午後1時、山田太郎さん(72)と岩本義一さん(65)は、JR鳥取駅南地区の環境パトロールを始めた。2人は鳥取市シルバー人材センターに登録し、週に2回、鳥取駅周辺の環境を守る仕事に従事している。

 「夏は路面が40度になり、冬は雪でごみが見えにくい。体調管理に気を付けてパトロールを続けています」

 捨てられたごみはたばこの吸い殻、缶、瓶、ペットボトル、乾電池、弁当の空き箱などさまざま。吸い殻はポイ捨て禁止区域にもかかわらず、2時間で400~700本回収する。

 「ご苦労さまですと声をかけ、自ら吸い殻を拾う女性もおられます」。鳥取市の表玄関にごみを捨てる行為を嘆く一方、温かい人情も実感する。

 元小学校教員だった山田さんは社会貢献のため、3年前にシルバー人材センターに登録。岩本さんも卸売りの仕事を退職して昨年夏に登録した。山田さんは「だれかの役に立ち、社会とつながって生きたい」と街の環境整備に汗を流す。

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 鳥取市西今在家の神谷清掃工場。同月28日午前、倉庫の一角で坂口富士男さん(75)と村田悟朗さん(74)は廃棄された小型家電から電池を取り除く作業を続けていた。

 坂口さんは13年前にシルバー人材センターに登録したベテラン。小型家電の作業は2カ月前からだが、三洋電機勤務の経験を生かして、廃棄家電から次々と電池の在りかを探り出す。

 「60歳で定年後、毎日毎日が休みだった。人との交流が人材センターに登録した理由です。週に1回の作業とはいえ、仕事があると張り合いが出て、生活にリズムが生まれます」と坂口さん。

 3年前に登録した村田さんも「仲間づくりが目的。動ける間は元気に仕事に励みたい」と黙々と作業に集中する。

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 岡野博さんは84歳。兵庫県の高校で書道教諭を務め、葬儀社での筆書きなどをへて、70歳の時にシルバー人材センターに登録した。賞状や式次第などを書く「筆耕」班のベテランとして、今でも自宅で仕事に励む。

 看板や会議用横断幕など大文字を得意とし、同センターの理事も務めた。「勤務地が主に兵庫県だったので、鳥取の知り合いが少なかった。人との触れ合い、出会い、友達づくりが目的。やめたらぼけてしまいます。目標は2020年の東京五輪まで元気でいることです」。岡野さんは“生涯現役”を貫いている。

 鳥取市シルバー人材センターの山本雅弘専務によると、高齢者の社会参加を促すため、センターの役割は福祉の受け手から社会の担い手に替わりつつあるという。

 「これまでは高齢者の生きがいづくりが中心でしたが、就業ニーズの変化や年金制度の改革などから、社会を支える側に回ります。会員を増やしていきたい」とセンターの新たな方向性を探っている。

 鳥取市シルバー人材センター 1981年、「自主・自立、共働・共助」を基本理念に鳥取県内で初めて設立。当初の会員は93人。2012年、公益社団法人に移行。10月末現在の会員数は680人。平均年齢は70・2歳で最高齢は88歳。仕事は技術、技能、事務、管理、一般作業、サービスなど多岐にわたり、受託件数は年間7千件を超える。作業の請負・委任のほか、一般労働者としての派遣や職業紹介も行っている。