本2014.5.26日付の毎日新聞ニュースでの論説、およびNGO現地代表者との対談を下記に転載紹介させていただきます。
【①のURL=http://mainichi.jp/opinion/news/20140526k0000m070128000c.html
【②のURL=http://mainichi.jp/select/news/20140526k0000m010140000c.html
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①【社説:視点】
  集 団 的 自 衛 権  対 中 戦 略  対 抗 だ け で は 危 険 だ
毎日新聞 2014年05月26日 02時30分     ◇論説委員 坂東賢治

 集団的自衛権を必要とする安全保障環境の変化として強調されるのが中国の軍事力、影響力の増大だ。中国公船の恒常的な領海侵入などに脅威を感じる国民が増えていることは確かだろう。しかし、外交戦略が見えないまま、軍事的論議だけが先行することはおかしくないか。
 「対話や信頼醸成措置がないまま、事態をエスカレートさせるのは深刻な誤りだ」。4月に訪日したオバマ米大統領は安倍晋三首相に外交的努力を促した。しかし、忠告を真剣に受け止めたような動きは見えない。
 中国は首相の歴史認識と自衛隊の軍事的役割拡大を目指す動きを結びつけて「地域の安全と繁栄を危機にさらしている」(崔天凱駐米大使)と批判する外交戦を仕掛けてきている。
 20日に上海で行われた中露首脳会談では日本を念頭に「歴史の歪曲(わいきょく)や戦後国際秩序を破壊するたくらみに反対する」と明記した共同声明を発表した。
 日本は「中国と違い、一度も戦闘で銃を撃ったことがない」(佐々江賢一郎駐米大使)などと戦後日本の平和国家としての歩みを強調して反論してきた。説得力のある論理だが、集団的自衛権の容認はその流れに沿うものなのか。
 昨年末の靖国神社参拝で「首相の歴史観が米国人の認識と衝突する危険性がある」(米議会調査局報告書)などと懸念する声が出た。「戦後レジームからの脱却」を掲げてきた安倍首相の過去の言動を考えれば、ナショナリズムの発露ではないかという危惧が消えない。
 日本も米国も中国と切っても切れない経済関係を有している。冷戦期と違い、軍事的抑止だけで安全が保たれる状況にはない。日米安保体制の下で集団的自衛権を対中抑止に結びつけて考えようとすれば、米中衝突時の米軍支援を想定することになる。米国はそんなことを望んではいまい。
 中国も一枚岩ではない。タカ派も国際協調派も存在する。中国軍内からはすでに「自衛隊の軍事的役割が強化されるなら、軍備をいっそう強化すべきだ」との声が出ている。信頼醸成など国際協調の動きを引き出す外交戦略がないと危険だ。
 中国の大国化が国際環境を大きく変えたことは確かだ。対抗だけの冷戦思考ではなく、中国を取り込みながら地域の安定、繁栄を図る新思考こそ必要なはずだが、現在の論議からはそうした構想力が見えない。
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 集団的自衛権について論説委員それぞれの視点で、随時シリーズで考え掲載予定とのことです。
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②  集 団 的 自 衛 権 : 中村 哲氏、
    「 N G O を 道 具 」 と 首 相 批 判
毎日新聞 2014年05月26日 07時15分

 アフガニスタンで医療や農業の支援活動をしている福岡市の非政府組織(NGO)「ペシャワール会」の中村哲現地代表が一時帰国し、25日、同市内で毎日新聞のインタビューに応じた。安倍晋三首相が海外のNGOのために自衛隊の任務拡大の必要性を唱えたことに「NGOを道具にしている」と批判。首相が集団的自衛権の行使容認に踏み切れば、現地での危険は増すとして撤退を検討せざるをえないとの考えも示し、非軍事による国際貢献の重要性を訴えた。
 ペシャワール会は1984年からアフガンやパキスタンで医療活動を開始。米軍のアフガン攻撃開始後も活動を継続し、同地の干ばつ対策として農業用の用水路建設にも取り組んでいる。
 中村氏によると、欧米諸国がアフガンに軍隊を出したことから現地住民の憎しみや怒りが増幅。欧米のNGO関係者は現在、テロの標的となる危険が高まったことから活動拠点のジャララバードから撤退した。それでも同地に残るペシャワール会について、中村氏は「憲法9条を持つ日本は『戦闘に参加しない国』という信頼感があり、それが私たちの活動を守っている」と強調。「欧米のように軍事力を使い、日本人というだけでターゲットになれば当然私は逃げる」と述べた。
 首相が15日の記者会見で「限定的な集団的自衛権の行使」と説明したことについては「戦場に行ったことのない人間の発言。武器を持って衝突すれば、互いに恐怖心や防衛心が強くなり歯止めはなくなる」として、ひとたび行使を認めれば際限がなくなると警告した。
 一方、首相は海外で活動するNGOを救出するためとして、自衛隊の駆け付け警護を認めることの正当性を唱えた。だが、これは集団的自衛権と関係ない武器使用の問題で、中村氏は「自らの主張を通すためにNGOを道具としている。集団的自衛権行使に賛成させるためにこじつけている印象は拭えない」と不快感を示し、「国民の危機感をあおるのでなく、外交努力で不必要な敵はつくらないことこそ内閣の責任だ」と訴えた。  【井本義親】