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     J.I.メールニュース No.638 2014.01.23発行
      「世界で個人としても通用する人間に」
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【1】<巻頭寄稿文>
   「 世 界 で 個 人 と し て も 通 用 す る 人 間 に 」
                         安田信事務所社長   安田 信

  日本人にとって、こんなに住み心地の良い国はない日本である。日本の企業も、そこに勤めている人たちにしてみると一生の“住み家”にしたい素晴らしい組織とチームワークだ。即ち、国単位、企業単位、チーム単位が日本人の得意とする単位なのだ。日本人個人個人にとってベストのものは、チームの一員として一番よく発揮される。一般論として、個人一人でのベストというものが出にくい。

  これだけ素晴らしい国であり企業なのだが、構成分子である日本人個人個人を引き出してみると、異文化の外国人と個人として友達付き合いをする人が極めて少なく、世界と繋がっていない。今世界ではITの猛烈な進歩や、英語が世界語として定着したこともあり、人々は国境に関係なく個人個人が益々直接繋がっている。内向きな日本人にはこのことはよく見えないのだが、この傾向は怒涛の様なものでもう後戻りしない。

  世界の個人個人が繋がっていくということは、国際社会の中で民主主義ベースの個人パワーが強くなったということであり、もはや国や企業だけの単位ではものが動かない、考えられない、判断出来ない世界になってきているということだ。日本人のチームに依る、日本人のアプローチが得意の日本人にとっては、今は難しい流れなのだ。

  更に心配なのは、我が日本人が世界に個人個人のつながりがないということは、世界の個人個人の感情や常識と感覚がつかめないまま時が過ぎていくということだ。国単位、企業単位の箱の中だけに居ては、個人のつきあいから必然的に得られる感覚と相手のセンシティヴィティーを感じることが出来にくくなる。

  例えば、12月暮れに安倍総理が靖国を参拝されたことだ。国の為に散った200万有余の無辜の兵士の魂への感謝と総理の平和尊重の気持ちは、世界中に充分理解されているだけに、残念でならない。その気持ちは他の色々な形でも表示できるのに、この参拝は今の時点で必要なかったことであり、これに依って残念ながらこれからの日本の外交を難しくすると言われている。せっかく安倍総理の一年の政治が内外から大きく賛美されていただけに残念だ。何とか過去を認める勇気を持ち、A級戦犯の方々を分祀してから後に、堂々と靖国に行って頂きたかった。

  この感覚は国単位ではなく、個人個人として世界の友人と付き合っていないと理解出来ないかも知れないのだ。

  更に、日本では外国に対して内向きであるのみならず、同じ日本人の中でも組織やチームの中に於いて目の前の内なる人間関係が(他の事が犠牲になっても)何より大事になる傾向がある。この傾向と戦後の日教組の何が何でも平和・平等の教育の成果が合算されて、益々内向きとなり、“チームの和を乱すような決断”は出来ない、従って意思決定の遅さ、リーダーシップよりもコンセンサス、公正よりも上司との関係、人間関係の為の曖昧さや本音と建て前の横行、適材適所よりもチームの和、“異なるもの”は中に入れたくない、等々が世界から見て日本の企業文化の特徴みたいに言われる、誠に恥ずかしい事態になっている。

  今の日本人がもっと成熟する為には、日本人であることを誇りにし、所属するチームを大事にしながら、同時に肩書やどこどこの誰様でなく、一人一人が国内でも国外でも魅力ある個人として通用するにはどうしたら良いかをよく考えてみる必要がある。自分の信念とプリンシプルを持つ、広い視野を持ち、異人も異文化も尊重出来る、個人としても友人になれる、日本語でも英語でも自分の信念を(それが異論であっても)明確に発信できる、そしてPut yourself in the others’ shoes(自分を相手の立場にも置いてモノが考えられる公正さ)等が不可欠だ。そして何より、自分の所属する組織の人間関係だけが全てでなく、プリンシプルや公正感、正義感、そして志の詰まった箱も、頭の中にもう一人の上司・相談相手として入れておくことが大事だろう。
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  安田 信 (やすだ まこと)
  1937年生まれ。学習院大学卒業、米イリノイ大学大学院修了(会計学修士)。山武ハネウェル(日米合弁会社)に勤務した後、日・米・欧州・豪・加のトップ企業243社の共同事業で、アジアにおける健全な民間企業育成が目的だったPICA(アジア民間投資会社)に約20年勤務。同社のExecutive Vice President(取締役副社長)として、アジアの企業の設立、育成、M&A(企業の合併吸収)などに多数従事。多国籍企業の世界で40年を超えるキャリアを持つ。87年、安田信事務所設立。国内外企業の社外取締役やアドバイザー、社団法人、財団法人などの理事も多数務める。
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  安田信さんは、国際的なビジネスの舞台で40年を超えるキャリアをお持ちです。その安田さんが、「世界で通用する日本人であるために」(同文館出版)を出版されました。

  ここで書いて頂いた問題意識、日本人よ頑張ってくれ!という熱い思いを背景に、実践的なビジネスルールやコミュニケーションのとり方など氏が長年にわたって蓄積、熟成してきた知恵が満載の本です。是非ご一読をおすすめします。(構想日本 加藤 秀樹)

  【書 名】「これからのビジネスリーダーに贈る45の視点 世界で通用する日本人であるために」
  【出版社】同文館出版
  【著 者】安田 信
   ご興味のある方は、書店かこちらへ http://www.dobunkan.co.jp/pub/search/002412.html