「 財 政 破 綻 」 は 実 際 に ど う い う こ と な の か
夕 張 市 長 鈴 木  直 道(1) (1/3ページ) 2014/1/7 6:30 記事保存
参考URL=http://www.nikkei.com/article/DGXBZO64609980W3A221C1000000/

 2007年、353億円の赤字を抱えて事実上破綻した北海道夕張市。行政サービスは切り詰められ、人々の生活は大きく変わり、若者は街を出ていきました。そんな夕張を何とかしたいと市長になったのが、東京都から職員として出向していた鈴木直道さんです。就任当時30歳だった青年市長は手取り20万円に満たない全国最低レベルの俸給にもめげず、文字通りの公僕として戦い続けてきました。市長となって3年目の今を語ります。

鈴 木  直 道(すずき・なおみち)
1981年埼玉県生まれ。1999年東京都入庁。2004年、都庁に勤めながら4年で法政大学法学部法律学科を卒業。2008年夕張市へ派遣。2010年11月、夕張市市長選の出馬を決意し東京都庁を退職。2011年4月、夕張市長に就任。

 夕張市は北海道のほぼ中央に位置する都市です。夕張メロンでご存じの人も多いと思います。かつては明治24年の炭鉱開始以来、炭鉱の町として栄え、最盛期の人口は12万近くを数えていました。しかし、昭和40年代に入り、産業のエネルギー源は石油に変わります。炭鉱は次々に閉山し、人口も今は1万人を切りました。そして現在夕張市は、自治体の倒産にも等しい「財政再生団体」になった唯一の都市です。

 【注】財政再生団体とは財政が事実上破綻し、国の厳しい管理下で財政再建に取り組む地方自治体のことです。2009年4月に完全施行した地方財政健全化法に基づき、総務省が毎年認定します。同年秋、北海道夕張市が初認定されました。健全性の目安として「実質赤字比率」「連結実質赤字比率」「実質公債費比率」の3指標を使い、1つでも基準より悪いと財政再生団体となり、住民に市町村民税や公共料金の引き上げなどのしわ寄せがいきます。総務相の同意がなければ原則地方債を発行できず、予算編成の変更を求められることもあります。

【読者の皆さんのコメントを募集中です】

 先ごろも米デトロイト市の例がありましたので、自治体にも破綻があるのだということはおわかりだと思います。では借金が膨らみ、自治体が「倒産」したら人々の生活はどうなるのでしょうか。

 「 第 2 の 夕 張 に な る な 」 と 口 に す る 政 治 家 も い る よ う で す が 、 実 際 に ど う 変 わ る の か 、 分 か っ て い な い 人 が 多 い よ う に 思 い ま す 。

■ 破 綻 す る と こ こ ま で 変 わ る

 破綻すると今まで当たり前で、空気のようなものだった「行政」を嫌でも意識します。最近、千葉市が2月からごみの収集を有料化し、1リットルあたり0.8円にすることを決めました。住民からは「生活できない」と苦情が殺到したそうです。このごみの収集、実は夕張ではその倍以上の1リットルあたり2円です。

 生活に絶対必要な水も、私が東京にいたころ住んでいた目黒区の水道料金と比べると、倍くらいです。軽自動車は、コストが安く若い世代に魅力的な移動手段のひとつです。軽自動車の税金は自治体ごとに決められるのですが、夕張では破綻後に1.5倍になりました。

 生活をしていれば徴収される市民税や道民税も、法律である程度上限があるとはいえ、ほかの自治体より上乗せされました。日本で一番高い設定になっています。

 それだけではありません。仕事が終わったあと同僚とフットサルでもやろう、と施設を借りるとします。仮に利用料が今まで100円だったとしましょう。全国で同じ規模のフットサルコートが300円だとわかれば、夕張は破綻した自治体なんだから300円にしましょう、と施設利用料をあげられる。割安と思われるような料金はすべて高いところに倣って、上げられるのです。夕張は「全国で最高の負担、最低の行政サービス」といわれました。何も恩恵はなく、負担だけが増えたのですから当然でしょう。 

 財政が厳しいなら議員報酬をカットして身を切るべきじゃないか、ということもよくいわれます。夕張は260人いた市職員を半分以下の約100人にまで減らし、議員数も18人から9人に減らし、報酬も40%カットしています。身を切るところも徹底的にやったけれど、まだ足りない。だから市民に負担してもらっているというのが夕張の現実です。

■ 日 本 で 唯 一 の 「 財 政 再 生 団 体 」

 夕張が日本で唯一の「財政再生団体」といわれるわけを説明しましょう。

 地方公共団体の財政が苦しくなったときに備えて、50年以上前に作られた「地方財政再建促進特別措置法」という法律がありました。07年に破綻した夕張市はこの法律に基づき、353億円の赤字を18年間かけて返済する計画を立てました。計画に沿い、まず31億円を返すのです。

 しかし、その後、夕張市だけでなく地方公共団体が厳しい財政状況にあることが相次いで発覚しました。そこで09年、総務省は前の法律を見直しました。財政の悪化が深刻になる前に早めの対策を取れるような、新たな法律を作ったのです(地方公共団体の財政の健全化に関する法律=地方財政健全化法)。

 この法律では赤字比率などが一定の基準に超えた自治体は「再生計画」を作るよう定めています。この計画に沿って運営される自治体を「財政再生団体」と呼びます。

 この新しい基準で10年初めて「財政再生団体」になったのが夕張、というわけです。

 古い法律のもとで「財政再建団体」になった自治体は夕張以外にもたくさんありました。ただ、夕張は抱えた赤字の金額が半端ではなかったのです。自治体が自分たちの裁量で使える財源の8倍の借金を抱えていたのです。

■ 行 政 サ ー ビ ス は 空 気 の よ う な も の

 基本的に行政サービスの存在は辛い立場になった人のほうが感じやすいものだと思います。普通に暮らせているうちはあまり意識しないけれど、体を壊して働けなくなって生活保護を受けたり、介護認定を受けてデイサービスを頼んだりするなど、ピンチを迎えたときに意識するわけですね。

 税金を納めていても、日常生活のなかで私たちが「行政はサービスを提供するもの」と感じることは少ない。ところが夕張は、ひごろ意識もしなかった空気のような「サービス」が急に薄くなってしまったわけですね。だからみんなが“呼吸困難”を覚え、いろいろな場所から悲鳴が出てきたのです。       つづく