日 本 生 涯 現 役 推 進 協 議 会 &  
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2018/3/3付 日本経済新聞 夕刊
URL=https://www.nikkei.com/article/DGKKZO27669980T00C18A3MM0000/
      スキルアップ 時間もカネも 会社持ち
           人 手 不 足 で 教 育 熱 再 び
  
  仕事のスキルアップに励む社員を、会社が積極的に後押しし始めた。社外の教室に通う費用を負担したり、学ぶ時間を勤務内とみなしたりする例が増えている。終身雇用の揺らぎやコスト削減で、日本企業は教育訓練費を削ってきたため、自己研さんに身銭を切る社員も増えていた。「働き方改革」や人手不足が企業の目を再び人材投資へと向かわせている。
   
 「このソフトを使ったことがある人はいますか?」
 2月中旬、データ分析のブレインパッドが都内で開いた「データサイエンティスト入門研修」でまばらに手が挙がった。25人の受講生の大半は初心者だ。音楽事業大手に勤める40代の山田真一さんもその一人。2日半、計20時間の受講費は20万円かかるが「会社が出してくれた」。
 ブレインパッドが講座を始めた2013年当時は、勤務先から促されて受講する人は2割程度にすぎなかった。それが今は8割に達する。人気が高く定員枠がすぐ埋まってしまうため、今年から開催数を年5回へと1回増やした。
 「これからは中国語」。PwCコンサルティング(東京・千代田)の浅野絢子さん(29)は、昨年末から語学教室「ベルリッツ」に通う。中国事業への関わりは薄いが、言葉ができれば仕事の幅を広げられると考えた。会社に中国語研修の費用補助があることを知り、利用した。

    一 週 間 語 学 留 学
 浅野さんのように会社の補助を使う人だけでなく「企業自体からの語学研修の依頼もこの1年で増えた」と教室を運営するベルリッツ・ジャパン(同・港)は説明する。
 留学支援の留学ジャーナル(同・新宿)にも企業の問い合わせがここ3年で倍増した。人気は「安・近・短」のフィリピン英語留学。加藤ゆかり社長は「1週間でも成果が期待できる、と社員を送り出す企業が増えた」と話す。
 厚生労働省が16年、約7300社を対象に実施した調査で、最近3年間に正社員への職場以外での訓練を「増やした」と答えた企業は全体の24%。今後3年間に「増やす」との回答も37%に達した。
 背景にはビジネス環境の変化がある。世界的な好況で業績は拡大し、上場企業だけで100兆円規模の現預金が積み上がった。一方、働き方改革で社員の残業時間は減る傾向にある。余裕が生まれたお金と時間をどう使うか。向上心のある社員と、それを生産性向上などに結びつけたい企業の思いが重なっている。

    授 業 は 平 日 昼 間 
 社会人が学び直す「リカレント教育」を政府も成長戦略のひとつに掲げる。18年度の税制改正で教育訓練費を増やす企業の優遇策を盛り込み、背中を押す。
 費用だけでなく「時間」の支援も効果的だ。
 高齢者施設向けの給食サービス会社、ナリコマホールディングス(大阪市)で栄養士として働く植村素子さんは、明治大学が主催する「女性のためのスマートキャリアプログラム」に通う。「管理職になり、経営を系統立って学んでみたかった」という。
 マーケティングや財務、ブランド管理などを週3~4日、半年間じっくり学ぶ。ただし授業は平日昼間。会社が勤務の一環とみなしてくれたことで通学が可能になった。「費用は自分で捻出できても、時間はそうはいかなかった」と感謝する。
 1991年のバブル崩壊後、日本企業は人員削減や業務の外部委託に走り、社員教育は手薄になりがちだった。厚労省によると企業が負担する社員1人当たりの教育訓練費はその91年の月額1670円をピークに減少へ転じ、11年には1038円まで下がった。ただ16年は1112円と再び増える兆しがある。
 人手不足が常態化し、社員に魅力が乏しい企業は優秀な人材を確保できなくなる。グローバル化やデジタル化に適用するスキルも求められ、企業は再び社員教育に本腰を入れざるを得なくなっている。(福山絵里子)
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      学 び 直 し 、 日 本 は 出 遅 れ
  日本企業で再び人材教育の機運が高まってきたが、世界の中では出遅れている。人材サービスのランスタッド(東京・千代田)が世界33カ国・地域で調査したところ、企業が負担する研修などを受けている社員の割合で日本は最下位。経済協力開発機構(OECD)によると大学で学ぶ社会人の割合も先進国で最低水準だ。
  企業や個人の意識だけでなく、制度の整備も必要だ。リカレント教育の先進地として知られるスウェーデンは、1974年に就学休暇と仕事復帰の権利を保障した「教育休暇法」を制定した。
  同国の事情に詳しい一橋大学の太田美幸教授は「社会全体で合意が形成され、大学教育も実践的な内容が多い。日本でも漠然と大学院に送り出すのではなく、誰が時間や費用を負担し、どんな能力を培うのか議論が必要」と話す。