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朝日デジタルご参考2017年11月20日11時00分
URL=http://digital.asahi.com/articles/ASKCM6QZFKCMUBQU014.html?rm=415
    長寿のひけつは口の中の清潔 歯科医らが高齢者を訪問
                           小浦 雅和

口の中を健康に保ち、長生きを――。高齢化率が34%を超える福岡県豊前市が「生涯現役の社会づくり」を掲げて始めた口腔(こうくう)ケア事業が3年目を迎えた。歯科医師らが高齢者らの自宅を回って検査や指導をし、口の中や体全体の健康状態についてデータを蓄積する。行政と歯科医師会、大学が連携した全国でも珍しい取り組みだ。

「高齢者こそ肉食を」 貧血防ぐ食事の注意点は

自宅訪問でデータ蓄積

 「はーい、口を大きく開けて」

 14日午後、豊前市の有吉克己さん(84)宅に、九州歯科大(北九州市)の安細(あんさい)敏弘教授ら歯科医師2人と、歯科衛生士が訪れた。

 歯の状態をチェックし、綿棒で舌から唾液(だえき)を取って測定器で細菌数を測定。指先ほどの大きさの風船のような器具を口に入れ、舌の筋力を示す「舌圧」も測った。のみ込む力があるかどうか調べるためで、のどに聴診器をあてて正常にのみ込めるかどうかも調べた。あわせて、身長、体重、握力や体脂肪、筋肉量、骨密度などのデータも取った。

 ログイン前の続き有吉さんは3度の脳梗塞(こうそく)を経験し、言葉の不自由などの後遺症がある。歯科医師らは「腕は上がりますか」「外出や電話はできますか」「歯磨きはしていますか」といった問診に加え、事前に記入してもらった服用薬や認知症、うつ、社会参加などについて尋ねる質問票をもとに、健康状態や生活も確認した。

 続いて同市の染野博さん(85)方でも同様の検査を実施。それぞれ次回の訪問日を決めて、40分ほどで終わった。染野さんは「口をきれいにすることで、さらに元気に過ごせるなら本当にありがたい」と語った。

大学と歯科医師会が連携

 事業は2015年に市と豊前築上歯科医師会、九州歯科大が連携協定を結んで本格化した。大学と歯科医師会が歯科医師を派遣し、報酬や交通費などは市が負担する。厚生労働省によると、歯科医師会や大学と連携したこうした取り組みは全国的にも珍しいという。

 市は毎年、原則として40歳以上で歯科に行くのが困難な在宅の高齢者らを対象に、数十人ほどの訪問先を公募。3カ月間に1人あたり最大で10回訪問する。訪問先の自己負担はない。今年度の事業費は約500万円で、50人の訪問を予定している。

 初回と最終回は歯科医師と歯科衛生士、管理栄養士らが詳しく検査。途中の回は歯科衛生士が訪問し、口の中を清潔に保つ方法や、舌圧を改善する顔の体操法などを指導。3カ月で歯の衛生状態や舌圧などがどれだけ改善したか確認する。虫歯や歯周病が見つかれば医療機関での受診を促す。

 市によると、15年度は61人のデータが集まり、半数以上の人の舌圧が改善した。16年度は21人のうち4割ほどで口臭が改善、7割で舌圧が上がった。滑舌が良くなったり、朗らかになったりした人もいたという。

 県議時代から口腔ケアに関心があり、市長就任後にこの事業を始めた後藤元秀市長は「健康の源は口腔内を健全にすること。対象を全世代に広げていきたい」と語る。

 歯科医師会の筒井修一会長も「歯科医療も、治すだけから、健康を支えることに変わりつつある。口の中の健康と体の健康をあわせて見ていくことで、適切なアドバイスにつながるデータが集められるかもしれない」と話す。

口腔ケアで高齢者の肺炎予防を

 厚労省などによると、日本人の死因の3位は肺炎。特に高齢者は、病気や加齢で嚥下(えんげ)(のみ込み)がうまくできなくなり、食べ物や細菌が気管から肺に入ってしまうことによる誤嚥性肺炎が多い。

 近年の研究で、口の中の細菌には、血管障害や心臓病、糖尿病などを引き起こすものもあることが分かってきた。

 そこで、口の中の有害な菌を減らし、虫歯の治療や舌圧の改善などで不具合を治療する口腔ケアは、広く注目を集めるようになってきた。06年の介護保険制度の見直しでは、「口腔機能の向上」も介護予防サービスの一つに盛り込まれた。

 日本口腔衛生学会の理事で、学会誌の編集委員長も務める安細教授は「行政、医師会、大学がスクラムを組み在宅の人のデータを蓄積して生かすのは画期的。学会でも成果を紹介していきたい」と話している。
http://www.asahi.com/apital/medicalnews/focus/(小浦雅和)