J. I. Mail News No.834・政治のPDCA
2017年11月19日 お仕事日 本 生 涯 現 役 推 進 協 議 会 &
NPO法人 ラ イ フ ・ ベ ン チ ャ ー ・ ク ラ ブ 活 動 で
ご 支 援 く だ さ る 会 員 皆 様
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J.I.メールニュース No.834 2017.11.16 発行
「特ダネではないけれど(20) 政治のPDCA」
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<巻頭寄稿文>
「特ダネではないけれど(20) 政治のPDCA」
新聞記者 松浦 祐子
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まさに台風来襲のように衆院選がやって来て、去って行った。でも、台風一過の青空は見えない。
なぜだろう、と考えてみた。
「PDCA」という企業や行政で言われて久しい言葉がある。
「Plan(計画)」、「Do(実行)」、「Check(評価)」、「Act(改善)」のサイクルを回しながらより良くしていこうという考えだ。さて、日本の政治で、ちゃんとPDCAは回っているだろうか?
まずは、各党にしっかりと練られた「Plan」、つまり公約やマニュフェストは作られたか?そして、その「Do」がなされたか? その結果を見て、有権者は「Check」(選挙での投票)ができたか?
そしてその結果が「Act」につながっているか?
私は「否」だと思う。多くの有権者は、具体的な公約は示されない中、過去の実績も十分に評価できる時間を与えられず、投票せざるを得なかった。
日本の政治でPDCAが回らない大きな要因の一つが、首相の解散権だと思う。日本では首相の心一つで次の衆院選の時期が決まるので、マスコミでも衆議院4年の任期の半分ほどが過ぎると、「いつ、解散か」とそわそわし始める。永田町でも霞が関でも、解散時期が一大関心事になってしまう。そこで、次の選挙に向けた公約の議論が活発に行わるようになれば良いけれど、たいてい話題の中心は「いつの選挙ならば、我が党に有利なのか」という党利党略の皮算用だ。
日本では、「伝家の宝刀」とも言われ、もてはやされがちな首相の解散権だが、憲法上は、明確な規定があるわけではなく、解釈でそのように言われているだけだ。諸外国を見てみると、英独などでは、法律で解散権にしばりをかけて、為政者が自由に行使できないように制限をかけるようになっている。「宝刀」はやたらと抜くものではないのだ。
選挙日程を決めている国もある。米国大統領選は4年に1度、11月の第1月曜日の次の火曜日。この日に向けて各党の候補者の選出過程なども含めて、2年がかりで広義の選挙戦を繰り広げる。
スウェーデンでは、国と県(ランスティング)、市(コミューン)の議会選挙は統一選挙で、4年に1度9月の第2日曜日と決まっている。選挙をするためにはお金(税金)もかかるので、効率的だろう。現地の知り合いに聞いたところによると、選挙の年の前年あたりから、各党が公約の原案を示し始め、テレビや新聞紙上で討論をし、批判があった部分は改善して正式な公約を作り上げていく。議論の中で、各党が目玉とする政策のメリットとデメリットが浮き彫りになっていくという。
選挙のときだけ出来もしない大風呂敷を広げても、実現できなければ、次の選挙で、有権者から厳しい審判をうけることになる。それゆえに、任期4年では解決できない年金のような長期の課題については、選挙で争点化せず、議会で超党派による合意形成をしていく(つまり、政権が変わっても大きな変更はしない)といった政党間の知恵も生まれていく。
私も選挙の年にスウェーデンを訪れたことがあるが、駅前や広場に各党が「選挙小屋」と呼ばれる北欧の家屋を模した色鮮やかな小屋を設け、そこで市民らにコーヒーなどを出しながら公約を説明したり、議論をしたりしていた。完全に比例代表の選挙制度なので、各候補が選挙カーで自分の名前を連呼するといったことはないが、街角はちょっとしたフェスティバル、イベントといった感じになっていた。
結果として投票率は80%ほどと、高い。
各党の公約をじっくりと吟味できる有権者たちを、うらやましく思った。また、時間をかけて選んだ政権だからこそ、有権者の側も政治が順風満帆でなくても4年間は耐え、次のCheck(評価・投票)につなげていく姿勢が育っていくのだと感じた。
もちろん選挙制度は民主主義の土台となるもので、各国ごとに理念も、歴史も異なる。日本は日本の仕組みを作り上げていくしかない。それでも、政治のPDCAの最初のPをおざなりにさせる首相の解散権は、なんとかならないものかと思う。
安倍首相は、少子高齢化などを例に挙げて「国難突破解散だ」と言った。
一方スウェーデンでは、高齢化が進み始め、付加価値税(消費税)の増税が避けられない状況になった時、2院制だった議会を1院制に変えるという議会の大改革も実行している。そういう政治側の努力が、政治と国民との間の信頼の背景にあることも、日本ではあまり知られていないので、付記しておきたい。
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松浦 祐子 (まつうら ゆうこ):1974年 神戸市生まれ。大学院修了後、1999年新聞社に入社。和歌山、高知での地方勤務、東京での雇用、介護分野、厚生労働省、財務省担当、新潟で県政取材などを経て、今は内閣府担当。
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J.I.メールニュース No.834 2017.11.16 発行
「特ダネではないけれど(20) 政治のPDCA」
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<巻頭寄稿文>
「特ダネではないけれど(20) 政治のPDCA」
新聞記者 松浦 祐子
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まさに台風来襲のように衆院選がやって来て、去って行った。でも、台風一過の青空は見えない。
なぜだろう、と考えてみた。
「PDCA」という企業や行政で言われて久しい言葉がある。
「Plan(計画)」、「Do(実行)」、「Check(評価)」、「Act(改善)」のサイクルを回しながらより良くしていこうという考えだ。さて、日本の政治で、ちゃんとPDCAは回っているだろうか?
まずは、各党にしっかりと練られた「Plan」、つまり公約やマニュフェストは作られたか?そして、その「Do」がなされたか? その結果を見て、有権者は「Check」(選挙での投票)ができたか?
そしてその結果が「Act」につながっているか?
私は「否」だと思う。多くの有権者は、具体的な公約は示されない中、過去の実績も十分に評価できる時間を与えられず、投票せざるを得なかった。
日本の政治でPDCAが回らない大きな要因の一つが、首相の解散権だと思う。日本では首相の心一つで次の衆院選の時期が決まるので、マスコミでも衆議院4年の任期の半分ほどが過ぎると、「いつ、解散か」とそわそわし始める。永田町でも霞が関でも、解散時期が一大関心事になってしまう。そこで、次の選挙に向けた公約の議論が活発に行わるようになれば良いけれど、たいてい話題の中心は「いつの選挙ならば、我が党に有利なのか」という党利党略の皮算用だ。
日本では、「伝家の宝刀」とも言われ、もてはやされがちな首相の解散権だが、憲法上は、明確な規定があるわけではなく、解釈でそのように言われているだけだ。諸外国を見てみると、英独などでは、法律で解散権にしばりをかけて、為政者が自由に行使できないように制限をかけるようになっている。「宝刀」はやたらと抜くものではないのだ。
選挙日程を決めている国もある。米国大統領選は4年に1度、11月の第1月曜日の次の火曜日。この日に向けて各党の候補者の選出過程なども含めて、2年がかりで広義の選挙戦を繰り広げる。
スウェーデンでは、国と県(ランスティング)、市(コミューン)の議会選挙は統一選挙で、4年に1度9月の第2日曜日と決まっている。選挙をするためにはお金(税金)もかかるので、効率的だろう。現地の知り合いに聞いたところによると、選挙の年の前年あたりから、各党が公約の原案を示し始め、テレビや新聞紙上で討論をし、批判があった部分は改善して正式な公約を作り上げていく。議論の中で、各党が目玉とする政策のメリットとデメリットが浮き彫りになっていくという。
選挙のときだけ出来もしない大風呂敷を広げても、実現できなければ、次の選挙で、有権者から厳しい審判をうけることになる。それゆえに、任期4年では解決できない年金のような長期の課題については、選挙で争点化せず、議会で超党派による合意形成をしていく(つまり、政権が変わっても大きな変更はしない)といった政党間の知恵も生まれていく。
私も選挙の年にスウェーデンを訪れたことがあるが、駅前や広場に各党が「選挙小屋」と呼ばれる北欧の家屋を模した色鮮やかな小屋を設け、そこで市民らにコーヒーなどを出しながら公約を説明したり、議論をしたりしていた。完全に比例代表の選挙制度なので、各候補が選挙カーで自分の名前を連呼するといったことはないが、街角はちょっとしたフェスティバル、イベントといった感じになっていた。
結果として投票率は80%ほどと、高い。
各党の公約をじっくりと吟味できる有権者たちを、うらやましく思った。また、時間をかけて選んだ政権だからこそ、有権者の側も政治が順風満帆でなくても4年間は耐え、次のCheck(評価・投票)につなげていく姿勢が育っていくのだと感じた。
もちろん選挙制度は民主主義の土台となるもので、各国ごとに理念も、歴史も異なる。日本は日本の仕組みを作り上げていくしかない。それでも、政治のPDCAの最初のPをおざなりにさせる首相の解散権は、なんとかならないものかと思う。
安倍首相は、少子高齢化などを例に挙げて「国難突破解散だ」と言った。
一方スウェーデンでは、高齢化が進み始め、付加価値税(消費税)の増税が避けられない状況になった時、2院制だった議会を1院制に変えるという議会の大改革も実行している。そういう政治側の努力が、政治と国民との間の信頼の背景にあることも、日本ではあまり知られていないので、付記しておきたい。
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松浦 祐子 (まつうら ゆうこ):1974年 神戸市生まれ。大学院修了後、1999年新聞社に入社。和歌山、高知での地方勤務、東京での雇用、介護分野、厚生労働省、財務省担当、新潟で県政取材などを経て、今は内閣府担当。