読売新聞(YOMIURI ONLINE) 2016年09月19日/地域欄関西(大阪)発
URL=http://www.yomiuri.co.jp/local/osaka/news/20160918-OYTNT50315.html

 19日は敬老の日。一般的に高齢者は65歳以上の人とされ、府内では2015年10月1日現在で、229万8500人が該当する。全体に占める割合を示す高齢化率は26・5%。全国平均の26・7%とほとんど変わらない。とはいえ長寿社会の今、65歳の人を高齢者と呼ぶには違和感を覚える人もいるだろう。「定年退職」といった言葉とは無縁で、第一線に立ち続ける2人の男性の姿から“元気”を感じ取っていただきたい。
******************************************************************
 ◆ デ ザ イ ン 6 0 年  あ の 番 組 も・・・
                  竹 内  志 朗 さ ん 83
竹内さんが手がけた題字には、関西人にとって
                  おなじみのテレビ番組が多数(大阪市)

 「仕事が好きでたまらない。まだまだ若い人には負けへん」。大阪市中央区瓦屋町の美術デザイナー、竹内志朗さんは、映画やテレビなどのタイトル文字などを手がける手書き文字職人だ。昭和8年生まれで、この道60年余りになる。

 母親に連れられ、中学時代、劇場でよく芝居を見た。そのうち舞台芸術の美しさに心奪われ、高校では勉強はほどほどにして、デザイン会社の職人に弟子入りし、絵や文字のデザイン技術を一心に学んだ。

 1956年、大阪テレビ放送(現・朝日放送)の開局とともにタイトルデザイナーとしてスタートを切った。ニュースのテロップやドラマの題字を手書きで完成させる。これまでに仕上げたテロップは250万枚以上にもなる。

 「新婚さんいらっしゃい!」「探偵!ナイトスクープ」「鬼平犯科帳」。誰もが頭に浮かぶタイトル文字も実は竹内さんが手がけたものだ。「番組内容を聞いて頭に浮かんだイメージを形にする。そう難しいことじゃない」。さらりと語る。

 90年代に入ると、テロップもコンピューターでの打ち込みに変わった。手書きテロップの時代は終わったのか……。だが竹内さんは「それならば」と闘志を燃やし、演劇舞台のデザインにも手を広げた。還暦を過ぎた頃だ。個別に依頼を受けた映画の題字などの傍ら、「吉本新喜劇」や「必殺仕事人」の舞台装置デザインでも活躍し、若い頃と変わらず忙しい日々を過ごす。

 大ベテランになった今でも“壁”にぶつかることが多々あるという。「『何でできへんねん』と、この年齢でも悔しくなる。もっともっと、うまくなりたい」。壁さえも自らの活力にしているようだ。(内本和希)
******************************************************************
◆ 「 す ご い も ん 彫 る 」 心 意 気・・・
                  高 橋  達 也 さ ん 78
              「やっぱり仕事が一番」と話す高橋さん(松原市)

 のみを握り続けて60年余り。その指は太くて、ごつごつしている。「仕事をさせてもらえる。それだけで幸せですわ」。欄間を中心にだんじりや寺社の彫刻なども手がける松原市新堂の伝統工芸士、高橋達也さんの周りはいつも笑いが絶えない。

 和歌山県出身で15歳の時、木工関係の仕事をしていた父に連れられ、大阪市内の欄間工房を見学に訪れた。終戦から7年がたち、戦後復興が加速する頃。「もう、言われるままやった」と遠い目をするが、その日から住み込みで働き始め、兄弟子たちの仕事を盗み見て技術を磨いた。40歳になる頃、独立して松原の今の場所に工房を構えた。

 仕事が一段落し、のみを下ろすと、真剣だった表情が一変して柔和に。父の背中を追い、今は同じ職人として一緒に工房を切り盛りする長男の昌也さん(53)は「仕事を取ったら、寝込むんとちゃいますか」と笑う。

 それでも「この歳やから適当に遊ばんといかんけど、やっぱり仕事が一番やもんね」と達也さん。「50年先、100年先に『こんなすごいもんを作ってたんか』と言われるような仕事ができたら職人冥利に尽きる」と、今なお向上心をたぎらせている。(門脇統悟)