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      「加藤特許事務所 ~知財 とびうめ便り~」 Vol.50
発信日:2016年 9月 1日                発信者:加藤特許事務所
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★ 目 次 ★
 1.弁理士コラム
  ●悪意の商標出願について
 2.知財ニュース
  ●ノンアルコールビール特許訴訟、サントリーとアサヒの間で和解成立
  ●月桂冠、日本酒「糖質ゼロ」のパッケージ、製法特許を前面に出し一新
 3.連載 知財講座
  ●第50回:特許「発明者」
 4.事務所からのお知らせ
  ●特許出願等復興支援制度(熊本地震支援)
  ●大分市知的財産権取得促進事業補助金のお知らせ
  ●佐賀市知的財産権取得費に対する補助制度のお知らせ
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1.弁理士コラム
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●悪意の商標出願について
 最近、“海外に進出しようとしたが、自社が使っている商標が既に他国で商標登録されてしまっており、対処に苦労している”という事例が増えてきているように感じます。
 今回はこのような事例の対応策等について、お話しいたします。
(1)他人の商標が登録されていないことを利用して、第三者が不正な目的で当該商標の登録出願をすることを“悪意の商標出願”(適切かは疑問ですが、冒認出願と呼ばれることもあります。)といい、例えば、中国での無関係な第三者による「YONEX(図形)」、「無印良品」・「MUJI」、「(クレヨンしんちゃん図形)」の商標登録が挙げられます。
 悪意の商標出願は、一攫千金のための投資と捉えて個人が行う場合も多々あるようです。特にインターネットの普及により、個人でも容易に外国の商標・ブランドの情報を入手できるようになったことが、この背景にあると思われます。
 一旦商標登録されてしまうと、それを取消したり無効にするには多額の費用と手間がかかります。しかし、これを諦めて安易に商標権の買い取りを希望すると、足下を見られて過大な金額を支払う結果となるおそれがあります。
(2)これは日本のみならず、諸外国を含めた各国共通の問題です。そこで、日本国特許庁は、日米欧中韓の商標五庁(TM5)の協力枠組みにおいて、「悪意の商標出願対策プロジェクト」を主導・推進しております。
 このプロジェクトでは、悪意の商標出願に関し、各庁の制度・運用の情報交換を行うとともに、ユーザーに対してこれらの情報提供を行うことを目的として活動しております。
 このような国際的な取り組みの他、日本国特許庁は、平成28年度より、海外での悪意の商標出願に関して、異議申立や無効審判請求、取消審判請求などの、登録を取消・無効にするための費用の一部を助成する制度を設けております(補助率:2/3、補助上限枠:500万円)。
(3)以上は、外国における悪意の商標出願の問題です。
 国内ではあまり問題になっていないように見えるかもしれませんが、実はかなり深刻な問題が生じています。
 近年、ある個人・特定の企業により、他人の商標の先取りとなるような出願が大量にされています。この2者による平成27年の出願数は年間1万4千件を超え、日本全体の出願件数の約1割となっています。
 このような出願が大量にあるため、たまたまこれらの出願と類似する商標を出願した場合、先の出願の審査結果を待つ必要があり、商標登録されるまでの時間が通常よりかかってしまいます。しかも、分割出願という制度を用いて出願の延命を図っている場合もあり、弊所でも、度々、お客様へのご説明や特許庁への対応等の必要が生じており、非常に迷惑しています。
 なぜこのような大量出願が可能かというと、出願時の手数料(印紙代)を支払っていないからです。制度上、出願時の手数料を支払っていないからといって直ちに出願が却下されることはなく、救済のため一定の期間内に納付する機会が与えられます。このような制度が悪用されています。

(4)しかし、そもそも商標法の目的は、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護すること」にあります(第1条)。

 事業者が様々な思いを込めて採択した商標を自己の商品・サービスに使用し、少しでもその価値を高めようと努力をし、それにより蓄積された信用を保護するのが本来の商標制度といえます。それを当初から全く予定しておらず、商標法の趣旨を逸脱するような商標登録出願は排除されるべきです。

 上記の大量出願は、いずれにせよ手数料不納で出願却下されます。また、納付された場合でも、自己の業務に係る商品・サービスについて使用する商標ではないとした理由や、その他の条項により拒絶される可能性があります。

 特許庁も、「仮にご自身の商標について、このような出願が他人からなされていたとしても、ご自身の商標登録を断念する等の対応をされることのないようご注意ください。」との呼びかけをしております。
 本件は複雑な問題がからんでいます。ご不明な点がありましたら、お気軽に弊所までご相談ください。
                           弁理士 南瀬 透
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2.知財ニュース
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●ノンアルコールビール特許訴訟、サントリーとアサヒの間で和解成立
 サントリーホールディングスとアサヒビールは7月20日、ノンアルコールビールに関する両者間の特許訴訟について、知財高裁からの和解の勧めを受け、和解が成立したと発表しました。
 この和解に基づき、サントリーはこの訴訟を取り下げ、アサヒビールはサントリーの特許に対する無効審判請求を取り下げることになりました。その他の和解内容については、発表されていません。なお、アサヒビールが、従来通り「ドライゼロ」の製造・販売を継続することも明記されています。
 この訴訟は、サントリーHDが、自社のノンアルコールビールに関する特許(特許番号第5382758号)を侵害されたとして、アサヒビールの「ドライゼロ」の製造・販売差止め等を求めたもので、一審の東京地裁は、2015年10月、サントリーHDの特許の有効性を認めず、同社の請求を棄却する判決を下し、その後、サントリーHDが知財高裁に控訴していました。
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●月桂冠、日本酒「糖質ゼロ」のパッケージ、製法特許を前面に出し一新
 月桂冠は8月23日、糖質を極限までカットした日本酒「糖質ゼロ」のパッケージを一新して、「おいしさの秘訣 W特許製法」を目立つかたちで表示し、「1.糖質スーパーダイジェスト製法」、「2.後味スッキリ製法」なども表記した新パッケージで8月29日から発売すると発表しました。
 月桂冠「糖質ゼロ」は、日本酒で初めての糖質ゼロ商品として2008年9月に発売を開始。その後8年間に、糖質ゼロ醸造の新たな製造技術を蓄積し、その一連の製造技術は、2件の特許(特許第4673155号、「糖質スーパーダイジェスト製法」、(特許第5851957号、「後味スッキリ製法」)で押さえられているとのことです。なお、日本酒の糖質を低減する製法特許は、月桂冠のみが取得しているとしています。
 月桂冠は、この製法特許をパッケージに目立つかたちで表示することにより、特許で裏打ちされた技術力で製造する商品をお客様に強くアピールすることになります。
 月桂冠の発表の詳細は、下記のURLをご覧ください。
[URL] http://www.gekkeikan.co.jp/company/news/201608_04.html
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3.連載 知財講座
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第50回:特許「発明者」
 特許出願の願書には「発明者」を記載します(なお、実用新案では「考案者」、意匠では「創作者」を記載します。商標には同様の記載はありません。)が、昨今の職務発明の訴訟において、発明者は誰なのかについて、争われた事例が散見されます。
 そのため、発明がなされその発明を特許出願するとき、その発明者がだれかということは大きな検討事項になります。
 この発明者についてですが、特許法には定義されておらず、判例や学説等によって解釈されており、例えば、東京地裁平成27年3月18日判決(平成24(ワ)25935)では、以下のような解釈がなされております。
 「発明者とは、自然法則を利用した高度な技術的思想の創作に関与した者、すなわち、当該技術的思想を当業者が実施できる程度にまで具体的・客観的なものとして構成するための創作に関与した者を指すというべきであり、(1)部下の研究者に対し、具体的着想を示さずに、単に研究テーマを与えたり、一般的な助言や指導を行ったにすぎない者(単なる管理者)、(2)研究者の指示に従い、単にデータをまとめた者や実験を行った者(単なる補助者)、(3)発明者に資金や設備を提供するなどし、発明の完成を援助した者又は委託した者(単なる後援者・委託者)は、発明者たり得ない。」
 このような発明者を時間が経ってから認定することは、難しくなることが予想されます。権利を安定にして知財リスクを低減するためにも、発明が生まれた段階での証拠を残すことを日ごろから意識することが重要になりますし、証拠が残りにくいことも多いかもしれませんので、後々問題にならないように出願検討時から適切な認定を行うことが重要になります。
 特許出願の代理手続きを行わせていただく私たちは、残念ながら発明が生まれた場に立ち会えることはほとんどありません。私たちにとって、「発明者」は身近な問題のはずなのに、直接把握することはなかなかできませんので、特許出願を検討される際にはこれらの基本的な考え方を出願人の方にも知っておいていただけると幸いです。
 産業の発達には発明が寄与するところは大きいものです。その発明をした発明者と出願人等の双方の利益が適切に保護されることを願います。
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4.事務所からのお知らせ
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●特許出願等復興支援制度(熊本地震支援)
 日本弁理士会は、被災地の復興を支援するため、特許・実用新案・意匠の出願費用を援助します。
・援助期間: 平成31年3月31日までに申請された発明等
・援助対象者: 指定被災地(熊本県全域)に住所又は居所を有する個人・中小企業者、及び被災により指定被災地外に転居した個人・中小企業者
・援助対象となる発明: 事業化による雇用の創出等、何らかの形で被災地の復興に貢献する可能性がある出願前の発明・考案・意匠。日本弁理士会が指定する機関から推薦又は紹介を受ける必要があります。
・援助の内容: 日本国の特許出願等の手続をする際の弁理士報酬及び経費と特許庁の手数料
 詳細な情報は、以下のPDFにてご確認ください。
http://jpaa-kyusyu.jp/wordpress/wp-content/uploads/2016/08/011d77ec7576ffdf91d3f48bdac03351.pdf
<お問い合わせ先>
 日本弁理士会知的財産支援センター事務局
   TEL 0120-19-2723(受付時間:平日 9時~17時)
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●大分市知的財産権取得促進事業補助金のお知らせ
 大分市では、中小企業者(個人企業主を含む)を対象とした特許権・実用新案権の出願に要する費用を補助する制度が実施されています。
【補助対象者】
 中小企業基本法第2条第1項に規定する中小企業者(個人企業を含む)で、次の要件を全て満たす者。
 ・大分市内に本社又は主たる事業所を有していること。
 ・市税に滞納がないこと。
 ・大分市内に引き続き1年以上同一事業を営んでいること。
【補助対象経費】
 ・出願料
 ・弁理士に対する報酬
 ・電子化手数料
 ・登録料(3年分)※実用新案権のみ
 その他の詳細やお申込み等については、下記URLよりご確認ください。
[URL] http://www.city.oita.oita.jp/www/contents/1467160351691/
<お問い合わせ先>
 大分市商工労働観光部 創業経営支援課
   TEL (097)585-6029 FAX (097)533-6117
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●佐賀市知的財産権取得費に対する補助制度のお知らせ
 佐賀市では、中小企業者等が特許権または実用新案権等の取得に要する費用の一部を補助しています。
【補助対象者】
・市内に主たる事業所を有するもの、ならびに市内中小企業者を代表企業とする中小企業者の組合およびグループ(製造業、建設業、運輸業および情報通信関連事業等に該当するもの)
【補助対象経費】
・特許出願料・特許出願審査請求料・実用新案登録出願料・技術評価請求料
・意匠登録出願料・出願等に係る弁理士報酬
 その他の詳細やお申込み等については、下記URLよりご確認ください。
[URL] https://www.city.saga.lg.jp/main/2187.html
<お問い合わせ先>
 佐賀市 経済部 工業振興課 工業振興係
   TEL (0952)40-7101 FAX (0952)26-6244
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加藤特許事務所
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