J.I.Mail News:予算辻褄合わせではなく
2018年1月18日 お仕事日 本 生 涯 現 役 推 進 協 議 会 &
NPO法人 ラ イ フ ・ ベ ン チ ャ ー ・ ク ラ ブ 活 動 で
ご 支 援 く だ さ る 会 員 皆 様
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J.I.メールニュース No.842 2018.01.18 発行
「特ダネではないけれど(22) 予算のつじつま合わせではなく」
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<巻頭寄稿文>
「特ダネではないけれど(22) 予算のつじつま合わせではなく」
新聞記者 松浦 祐子
新年1月。みなさんの中には仕事や勉強、または旅行などの楽しい事柄について、今年1年の計画を立てた方もいらっしゃるのではないでしょうか。政府も今年は財政健全化に関する計画を見直し、夏までに新たな計画を作ることにしています。政府の計画というと自分には関係ないように感じられる方が多いかもしれませんが、財政を改善するための方法は、基本、歳出(支出)を減らすか、歳入(収入・税や社会保険料)を増やすか、両方やるかしかありません。どのやり方でも、我々のお財布や生活に影響を与える重要な議論です。
計画を作る場合、短期、中期、長期の視点をもって具体化していくことが効果的です。日本の財政は今後の少子高齢化、人口減少という人口の動きと深く関わります。ですから、団塊の世代と団塊ジュニア世代という人数の多い二つの世代の人口の動きに合わせて、以下の三つの期間に分けて考えると、分かりやすいのではないかと考えています。
<1>短期=今から2021年度まで
団塊の世代が75歳になり始めるまでの期間
<2>中期=2022年度から2040年ごろ
高齢人口(65歳以上)が増える一方で、生産年齢人口(15~64歳)が減少。団塊ジュニア世代が、支える側の中核になるべき時期。
<3>長期=2040年以降から2060年ごろ
団塊ジュニア世代が65歳以上になるが、高齢人口は頭打ちに。生産年齢人口は減少を続ける時期。
<1>の短期の期間にまず、やるべきことは、社会保障の仕組みを年齢で分けるのではなく、負担できる能力(所得や資産)に応じて変えていくことだと思います。例えば、医療機関の窓口で支払う負担は原則70歳未満は3割負担、70~74歳は2割負担、75歳以上は1割負担になっています。大きな人口の塊である団塊の世代が75歳以上になり、1割負担の対象者が一気に増えれば、医療保険財政は維持が難しくなってしまいます。それを年齢ではなく、負担能力に応じた仕組みに変えていけば、支え手である働く世代の負担を重くせずにすみます。
このような改革は団塊の世代が75歳になり、いったん1割負担の軽い負担を経験した後では反発が強まり、合意を得るのが難しくなってしまいます。今ならば、低所得者への配慮は必要ですが、大半の人にとっては2割負担を継続するだけになり、負担感も少なくてすみます。まさに、今こそ議論し、結論を得るべき課題です。
<2>の中期は支えられる側(高齢者)が増え、医療や介護のニーズが高まる一方で、支える側(働く世代)が減っていくという最も厳しい時期になります。しかも支える側の中核となるべき団塊ジュニア世代は、バブル経済崩壊後の就職氷河期や雇用の非正規化の影響を受けて、非正規労働者のまま年を重ねている人の割合が高くなっています。ということは、税金や保険料は所得に応じて支払うものですから、支え手の数が減るだけでなく、一人ひとりが拠出する額も少なくなり、財政面が脆弱になることが考えられます。
また非正規労働者の待遇では、自分自身の老後に向けて十分に備えるのが難しいのが現実です。それゆえに、この時期には正社員と非正規労働者の賃金格差を縮めるとともに、非正規労働者であっても勤め先の企業の健康保険や厚生年金に加入できるような待遇面での改革が求められます。右肩上がりの高度経済期の仕組みが現実の社会に合わなくなっているのです。今の時代の働き方に合わせた構造改革を行うことは、この時期だけでなく、将来にわたる財政と暮らしの安定化につながるはずです。
<3>の長期のころには、医療や介護の施設やサービスを増やす必要はなくなります。高齢人口さえも増えなくなるためです。ただ、現状のままでは、支える側(働く側)は減少を続けるばかりです。だからこそ、今から少子化対策に取り組んでおく必要があります。逆に言えば、今、行っている少子化対策の取り組みは、すぐには結果が出ないものであっても、遠い先の将来を見据えて続けていかなければならない長期間の取り組みとなります。
財政健全化というのは、ただ単に、予算のつじつまを合わせれば良いというものではありません。安倍総理自身が「少子高齢化は日本の最大の壁である」と言っています。ますます厳しくなる人口動態に対応できる計画をつくっていかなければならないと思います。そして心に留めておかなければいけないのは、1千兆円もの借金をかかえるこの国の財政は、様々な面でリスクを抱えているということです。景気の悪化や金利の上昇で、財政が破綻するという悪夢が起こる確率は決して低いとは言えず、残された時間も多くはありません。悪夢が現実にならないようにするためにも、新しくつくる財政健全化計画が中身のあるものとなるように、議論を注視してもらいたいと思います。
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松浦 祐子(まつうら ゆうこ)記者略歴:1974年 神戸市生まれ。大学院修了後、1999年新聞社に入社。和歌山、高知での地方勤務、東京での雇用、介護分野、厚生労働省、財務省担当、新潟で県政取材などを経て、今は内閣府担当。
NPO法人 ラ イ フ ・ ベ ン チ ャ ー ・ ク ラ ブ 活 動 で
ご 支 援 く だ さ る 会 員 皆 様
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J.I.メールニュース No.842 2018.01.18 発行
「特ダネではないけれど(22) 予算のつじつま合わせではなく」
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<巻頭寄稿文>
「特ダネではないけれど(22) 予算のつじつま合わせではなく」
新聞記者 松浦 祐子
新年1月。みなさんの中には仕事や勉強、または旅行などの楽しい事柄について、今年1年の計画を立てた方もいらっしゃるのではないでしょうか。政府も今年は財政健全化に関する計画を見直し、夏までに新たな計画を作ることにしています。政府の計画というと自分には関係ないように感じられる方が多いかもしれませんが、財政を改善するための方法は、基本、歳出(支出)を減らすか、歳入(収入・税や社会保険料)を増やすか、両方やるかしかありません。どのやり方でも、我々のお財布や生活に影響を与える重要な議論です。
計画を作る場合、短期、中期、長期の視点をもって具体化していくことが効果的です。日本の財政は今後の少子高齢化、人口減少という人口の動きと深く関わります。ですから、団塊の世代と団塊ジュニア世代という人数の多い二つの世代の人口の動きに合わせて、以下の三つの期間に分けて考えると、分かりやすいのではないかと考えています。
<1>短期=今から2021年度まで
団塊の世代が75歳になり始めるまでの期間
<2>中期=2022年度から2040年ごろ
高齢人口(65歳以上)が増える一方で、生産年齢人口(15~64歳)が減少。団塊ジュニア世代が、支える側の中核になるべき時期。
<3>長期=2040年以降から2060年ごろ
団塊ジュニア世代が65歳以上になるが、高齢人口は頭打ちに。生産年齢人口は減少を続ける時期。
<1>の短期の期間にまず、やるべきことは、社会保障の仕組みを年齢で分けるのではなく、負担できる能力(所得や資産)に応じて変えていくことだと思います。例えば、医療機関の窓口で支払う負担は原則70歳未満は3割負担、70~74歳は2割負担、75歳以上は1割負担になっています。大きな人口の塊である団塊の世代が75歳以上になり、1割負担の対象者が一気に増えれば、医療保険財政は維持が難しくなってしまいます。それを年齢ではなく、負担能力に応じた仕組みに変えていけば、支え手である働く世代の負担を重くせずにすみます。
このような改革は団塊の世代が75歳になり、いったん1割負担の軽い負担を経験した後では反発が強まり、合意を得るのが難しくなってしまいます。今ならば、低所得者への配慮は必要ですが、大半の人にとっては2割負担を継続するだけになり、負担感も少なくてすみます。まさに、今こそ議論し、結論を得るべき課題です。
<2>の中期は支えられる側(高齢者)が増え、医療や介護のニーズが高まる一方で、支える側(働く世代)が減っていくという最も厳しい時期になります。しかも支える側の中核となるべき団塊ジュニア世代は、バブル経済崩壊後の就職氷河期や雇用の非正規化の影響を受けて、非正規労働者のまま年を重ねている人の割合が高くなっています。ということは、税金や保険料は所得に応じて支払うものですから、支え手の数が減るだけでなく、一人ひとりが拠出する額も少なくなり、財政面が脆弱になることが考えられます。
また非正規労働者の待遇では、自分自身の老後に向けて十分に備えるのが難しいのが現実です。それゆえに、この時期には正社員と非正規労働者の賃金格差を縮めるとともに、非正規労働者であっても勤め先の企業の健康保険や厚生年金に加入できるような待遇面での改革が求められます。右肩上がりの高度経済期の仕組みが現実の社会に合わなくなっているのです。今の時代の働き方に合わせた構造改革を行うことは、この時期だけでなく、将来にわたる財政と暮らしの安定化につながるはずです。
<3>の長期のころには、医療や介護の施設やサービスを増やす必要はなくなります。高齢人口さえも増えなくなるためです。ただ、現状のままでは、支える側(働く側)は減少を続けるばかりです。だからこそ、今から少子化対策に取り組んでおく必要があります。逆に言えば、今、行っている少子化対策の取り組みは、すぐには結果が出ないものであっても、遠い先の将来を見据えて続けていかなければならない長期間の取り組みとなります。
財政健全化というのは、ただ単に、予算のつじつまを合わせれば良いというものではありません。安倍総理自身が「少子高齢化は日本の最大の壁である」と言っています。ますます厳しくなる人口動態に対応できる計画をつくっていかなければならないと思います。そして心に留めておかなければいけないのは、1千兆円もの借金をかかえるこの国の財政は、様々な面でリスクを抱えているということです。景気の悪化や金利の上昇で、財政が破綻するという悪夢が起こる確率は決して低いとは言えず、残された時間も多くはありません。悪夢が現実にならないようにするためにも、新しくつくる財政健全化計画が中身のあるものとなるように、議論を注視してもらいたいと思います。
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松浦 祐子(まつうら ゆうこ)記者略歴:1974年 神戸市生まれ。大学院修了後、1999年新聞社に入社。和歌山、高知での地方勤務、東京での雇用、介護分野、厚生労働省、財務省担当、新潟で県政取材などを経て、今は内閣府担当。