昨19日付Blogにつづく

4. 福 岡 県 に お け る 7 0 歳 現 役 社 会 づ く り
  ここで、「生涯現役社会の実現に向けた雇用・就業環境の整備に関する検討会」報告書においても高齢者の就業促進の先進事例としてとりあげられている、福岡県の取り組みを紹介したい。
(1) これまでの経緯
  福岡県では、少子高齢化が進展する中、活力ある社会であり続けることが検討されていた。働きたい者が年齢にかかわりなく個々の希望や能力に応じて働き、いきいきと活躍し続けることができる社会づくりが必要であるとの考えのもと、2010年6月、「福岡県70歳現役社会づくり研究会」が創設された。
  創設当初、活動の中心は就業促進と考えられていた。しかし、検討を重ねるなかで、高齢者のニーズには、就業以外にもボランティアなどによる社会参加があることから、「70歳現役社会」の実現に向けた施策として、「いきいきとはたらくことができる仕組みづくり(就業の促進)」と「共助社会づくりへの参画(社会参加の促進)」が2つの大きな柱とされた。
  同研究会の報告書では、「70歳現役社会」を推進するための方策として、官民一体となった推進体制の構築、高齢者のニーズに幅広く応えることができるワンストップ機能を持った総合支援拠点の設置などが示された。それを受け、2011年9月、経済団体、労働者団体、高齢者関係団体、NPO団体、行政を含めた17団体(注2※)が一体となった「福岡県70歳現役社会推進協議会」が設立された。そして、2012年4月、福岡市に「福岡県70歳現役応援センター」(福岡県所管の公益社団法人福岡県雇用対策協会が運営)が開設された。
(2) 福岡県70歳現役応援センター
  「70歳現役社会」実現のために開設された、福岡県独自の総合支援拠点である「福岡県70歳現役応援センター」を紹介する(図表9※ 省略)。
A. 体制など
  2012年4月、博多駅から徒歩約5分の場所に福岡オフィスが開設された。翌2013年5月に北九州市、2015年6月には久留米市及び飯塚市にそれぞれ拠点が設けられ、現在は4拠点体制となり、より訪問しやすくなっている。
  同センターを訪れた利用希望者は、サービス内容の説明を受けた後、住所、氏名、連絡先、訪問の動機などを登録する。公共職業安定所(以下「ハローワーク」)の求職申込書の記入項目と比べると必要項目はかなり少ない。このように、アクセスのしやすさ、利用登録の簡便さにより、高齢者にとって身近で敷居の低い施設となっている。
B. 特徴
a. 専門相談員による多様な選択肢の提案
  高齢者が「やりたいこと」は本格的な就業から、有償・無償のボランティア活動、起業などきわめて幅広い。また、就業などの目的も、生活のため、生きがいのため、あるいは生活のリズムを崩したくないためなど様々である。さらに、「週3日勤務で30万円もらえる仕事を希望します」など再就職市場に対する認識も十分ではないようだ。
  このため、まずはハローワークOBなどの豊富なキャリアを持つ専門相談員が、高齢者一人ひとりの経歴、技能、「これから何をしたいのか」「どのような活動がしたいのか」といった希望を丁寧に聴き取る。そのうえで、一人ひとりの実情にあったアドバイスやカウンセリングを実施することにより、今後の「進路」を高齢者と一緒に決めていく。
  同センターは、シルバー人材センターなど就業支援団体からNPO・ボランティア団体まで幅広く連携していることから、再就職、派遣、創業・起業、NPO活動、ボランティアなど高齢者の活躍場所の情報が一元化されている。また、シルバー人材センター、高齢者専門の派遣を行う高齢者能力活用センターの窓口も設置されている。こうした強みを活かし、専門相談員から多様な選択肢を提案してもらうことができる。
b. コーディネーターによる就業支援
  専門相談員のきめ細かな対応により「進路」を決定した高齢者のうち、就業を希望する高齢者は、コーディネーターから就業先を紹介してもらう。コーディネーターは、高齢者の希望に応じた就業先を紹介するのはもちろんのこと、就業日数や就業する曜日、就業時間といった条件などを企業と調整したり、高齢者の企業訪問に立ち会うこともある。こうしたきめ細かい対応が、高齢者が希望する就業に結びつくと同時に、企業が求める人材の採用にもつながり、高齢者・企業双方が満足する結果をもたらしている。
  高齢者の希望がハローワークの求人にマッチしている場合は、ハローワークに取り次がれる。また、ハローワークを訪れた高齢者が同センターに誘導されるなど、ハローワークとの連携も密になっている。さらに、コーディネーターは、高齢者向けの求人開拓を独自に行っている。
  これは、高齢者が「やりたいこと」は幅広いとはいっても、利用登録者の9割以上は就業を希望しており、高齢者が活躍できる場を確保していくことが欠かせないからだ。高齢者と企業をマッチングする中で培われた、コーディネーターの企業との信頼関係が求人開拓においても好影響をもたらしている。
  これまで見てきたように、「福岡県70歳現役応援センター」において、高齢者への対応を「専門相談員」と「コーディネーター」に明確に分けた意義は大きいと考える。これにより、求められる特性も明確となり、それぞれの職種の効率的な採用につながる。また、「高齢者への対応」「就業先(企業)への対応」というように、注力すべき方向が限定されることで、「専門相談員」「コーディネーター」それぞれの役目に集中しやすい環境が整備されている。
c. 70歳現役社会づくりの啓発
  「70歳現役社会」を実現するためには、採用される高齢者、高齢者を採用する企業、双方の意識改革も必要になってくる。同センターでは、双方に対し、次の取り組みをしている。まず、企業の経営者・人事担当者を対象に、高齢者を雇用するメリット、高齢者雇用環境整備に対する助成制度の活用方法などを説明している。そして、定年を控えた中高年従業員を対象に、職業能力開発セミナーを開催し、「能力の棚卸し」(得意分野、不得意分野の再確認)や、職場・地域で必要とされる能力の維持・向上の方法について、意識づけを図っている。
(3) 取組実績
  2012年度の同センター開所から2015年度末までの4年間の取り組み実績は図表10のとおりである。この間、4拠点体制になったこともあり、相談件数は5,028件から16,597件へ約3.3倍、進路決定率は22.2%から52.1%へ約2.3倍に増加している。単純な比較はできないが、ハローワークの2015年度の就職率( 注3※ )は33.5%であり「福岡県70歳現役応援センター」の進路決定率が高いことがうかがえる。
  また、2015年度進路決定者には、80歳以上の方が3名含まれていることも同センターの特徴と言えよう。ちなみに、2名は清掃業務、1名は筆耕・宛名書きに就いている。高い進路決定率、80歳を超える方の就業が実現した要因について、福岡県福祉労働部労働局新雇用開発課にたずねたところ、「高齢者と専門相談員が一緒になって本当にやりたいことを見つける」、「高齢者とコーディネーターが一緒になって企業を訪問し、両者の橋渡しをする」といった、きめ細かい対応の賜物ではないかとの回答があった。             つづく