東洋経済ONLINE7/1付 URL=http://toyokeizai.net/articles/-/123797で、『一番でも本流でもない人が組織を強くする』/蝶野正洋氏の「期待がないからこそ自分が出せる」というサイトを見かけた。

 「スポーツの世界は弱肉強食」とイメージする人も多いかもしれない。ところが、『生涯現役という生き方』(KADOKAWA)の著者の一人でもあるプロレスラー・蝶野正洋は「1番になることだけが正解じゃない」と語っているのである。

 1984年にデビュー以降、武藤敬司、橋本真也と並ぶ、「闘魂三銃士」として活躍し、現役を貫く傍ら、アパレルブランド「アリストトリスト」の代表取締役も務める彼にその真意を聞いたところ、下記の通りの『生涯現役プロデューサー』仮登録諸兄姉にも、ぜひ参考にしていただきたい人生観を学べると思うのである。
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 今 の 仕 事 や 生 き 方 は 自 分 に 合 っ て い る か ?

 俺の経験上、必ずしも一番上を目指すことが、仕事において正解ではないと思う。誰だって王道を歩きたいもの。だけど、それは自分の中でそう思えればいいのであって、仕事上の立ち位置は、必ずしもそうでなくていいと俺は考える。

 それよりも、その仕事や生き方が自分に合っているかの方が、何倍も大事だよ。

 そう考えるようになったきっかけは、まさに俺が、組織の一員として勤めていた新日本プロレスを、また自分の仕事を大局的にとらえられるようになったから。

 新日本プロレスでトップを目指せば、それはおのずと創業者かつ、唯一無二の大エースでもあったアントニオ猪木さんと比較される。でも、藤波さん、長州さん、前田日明さん……みんな猪木さんにはなれなかったよね。

 だから俺は、「猪木さんにはなれないな」と、早めに見切りをつけていた。もともと俺は猪木さんの付き人を長くやっていたし、ずっと近くで見てきたこともあってね。

 「えぇっ?! 蝶野さん、新日本でトップを獲る気はなかったんですか?」と問われたら、「ハイ、そうです」と言うしかない。今だから明かせることだけど。


 じゃあ俺が、どう生きる術を選んだかというと、同じ闘魂三銃士の武藤や橋本の対抗勢力としての存在だった。さしずめ、彼らが与党なら、俺は野党だよ。それにより、言うなれば正道を見せる必要もないから、気持ちが少しラクになった。大会場のセミファイナル以下の試合に指定されても、全然気にならなかった。

 メインはやはりチャンピオンが出るべきだからね。でも、それは逃げじゃない。

 大会場以外の興行は、俺たちが盛り上げているんだという自負がすごくあったんだ。与党のトップは、会社の本流だから、いろいろなお膳立てもある。広報戦略もそれに入るかも知れないね。

 しかし、野党の自分たちには、当然そういった会社側からのバックアップはない。だからこそ、自分たちが、どれだけちゃんとした内容のものを見せられるかを意識していたし、それができていたからこそ、「自分たちの力で成し遂げている」という達成感も得られたんだ。

 上からの言いなりじゃない。自分たちから喧嘩を仕掛けているという自負心もあった。

 皆さんも記憶にあるかもだけれど、2000年代は、総合格闘技ブームというものがあった。プロレスも比較対象になったわけだけど、総合には、地方をくまなく回って戦うというフォーマットがない。プロレスの利点は逆にそこだったし、そこで尽力していたのは、ビッグイベントでメインを張る主流派じゃなく、サイドストリートの俺たち。つまりは、「オーソドックスなプロレスを引き受けている」という誇らしさもあったんだよ。

 トップを目指さなかった俺だからこそ言っておきたい。
「自分の仕事をしっかりこなせば、地位は関係ない」とね。

  あ な た が そ こ に い る 理 由

 こういった考え方の背景は、俺の若いころの苦い経験が影響しているかも知れない。

 俺は10代のころ、プロのサッカー選手に憧れていた。でも、その夢が破れて、次に目指したのがプロレスラーだった。 

 この過程は、俺の中に一種の謙虚さみたいなものを生んだと思う。今度こそ、マジメに打ち込んで、絶対モノにするんだというね。

 会社選びや仕事においても、「そこしかなかったから」「それしかできなかったから」と言うと、それは選択の余地がなかったように思われがちだけど、その分、気持ちを持ってのぞめると俺は思う。

 だって、その会社があなたを認めたから、あなたはそこにいるわけだからね。                          
                                               つづく