NEC presents 『Crossroad』 第40回
   常 識 を 変 え た 靴 磨 き 
          人 気 行 列 店 ・ 千 葉 ス ペ シ ャ ル
Link People, Link Business WISDOM編集部 2016年04月22日
【参考URL=https://www.blwisdom.com/linkbusiness/linktime/crossroad/item/10480-40/10480-40.html?mid=w55500300001164955&limitstart=0

 有楽町の一角に開店から閉店まで行列が途切れない靴磨き店「千葉スペシャル」があります。代表を務めるのが、靴磨き職人・千葉尊さん(60歳)。スタッフは、洒落たジャケットにベスト、蝶ネクタイとハンチング帽で決めた英国紳士の出で立ちです。お客さんを迎える椅子も、これまた英国風の柔らかい本革。従来の靴磨きにはなかった独自のスタイル。「靴の使いこなしかたがヘタクソ」とお客さんに対して話す千葉さんは、スタイルは英国風ながら、精神は頑固な職人さんそのものです。
 なにより、お客さんを満足させるのは、その仕上がり。先端がボロボロになった靴が、片方5分で輝きを取り戻し、新品の頃のツヤとヌメリ感が甦りました。しかも、値段はたったの1000円。今やスタッフ4人で年間5万足を磨き上げる会社の社長となった千葉さんも、一時は職を転々とし、無一文となったこともあったそうです。靴磨きの常識を変え、路上から這い上がった波乱の人生。男はなぜ、靴磨きに執念を燃やすのか?

 「別格」と称される千葉スペシャルの技術

 足早な勤め人たちが行き交う午前8時。有楽町の東京交通会館前に、いつものように「千葉スペシャル」のワゴン車が現れました。営業に必要な道具一式は、すべてこの一台の中にあります。店がオープンしたのは2012年9月。有楽町店のほかに、東京八重洲にもう1店舗。千葉さんを慕って集まった弟子は全部で6人、そのほとんどが別の仕事からの転職組です。

 靴磨きには可能性があるはず。弟子にそう思わせてきたのが師匠の千葉さん。しかし、なにより彼らを惹きつけてきたのは、路上で磨いていた頃と変わらない彼の信念です。

 「社会的地位をあげれば、(靴磨きも)それなりの職業だと認められます」(千葉さん)

 そう話すだけあって、開始時間も仕事もきっちり。途切れない行列は、千葉さんへの信頼の証なのです。まずは、お客さんのスボンの裾が汚れないようにビニール袋を用意。膝には寒さ対策の毛布をかけるところから仕事が始まります。靴ひもの長さも調整し、足にフィットさせてからの作業。お客さんが来ても、千葉さんが顔を見ることはほとんどありません。靴を甦らせることだけに、集中するのです。

 用意したのは、特製のクリームにアルコールを混ぜたもの。ブラシで靴に付着した余計なものを取り除きます。ここからの道具は、人差し指と中指だけ。二本の指に布を巻きつけ、特製クリームを直接革に塗り込んだ後、今度は先ほどのものより固めのクリームを塗っていきます。これで仕上げかと思いきや、またまた固さを変えたクリームを丁寧に塗り込む。数種類の固さのクリームには、どんな意味があるのでしょうか?

 「順番通りやっていくと、固まる速度が速くなるんです」(千葉さん)

 違う固さのクリームを塗り込むこの手順が、1足10分という短時間の仕上がりを可能にしているのです。道具箱の中には、あらゆる色の靴に対応できるクリームがぎっしり。こうして磨き上げた靴に、千葉さんの姿が映ってきました。片方にかける時間は、およそ5分。わずか10分で、できる男の靴へと早変わりします。「鏡面磨き」と呼ばれる艶やかさが、千葉さんの真骨頂です。

 気になるのがクリームの正体ですが、それは企業秘密なのだそう。とにかく開店から途絶えない行列。それでも、この店がいいと思わせる理由はただ一つ。

 「ここは別格ですよね」(男性客)

 「他の磨き屋さんと全然違う」(別の男性客)

 その「スペシャル」な磨きにかかせない二本の指は、他の指とは違って手袋から出ています。 そこに布を巻きつけて磨くのですが、そうしないと「感覚が鈍って、いいツヤが出ない」のだとか。ほかに、どのような秘密があるのでしょうか?

 独自に編み出した靴磨きフォームの理由

 「千葉スペシャル」の技術を探るべく、強引にも千葉さんの自宅兼事務所を訪ねると、取材に根負けしてか、靴磨きのコツを教えてくれました。実は千葉さんの実家は材木店。若い頃はカンナの刃を石で研ぐ作業を手伝っていました。

 「カンナの刃を研ぐ角度と一緒。角度が悪いとツヤがでないんですよ」(千葉さん)

 それ以外にも、これまで経験したあらゆる仕事の要素が取り入れられていました。

 「まずは左官屋さんの塗り方、ペンキの溶き方。非破壊検査で溶剤の使い方を覚えたのが役に立ちました」(千葉さん)

 さらに磨きのフォームにもこんな秘密が。

 「私はゴルフをやっていたんですが、ゴルフっていうのは軸がぶれると、スコアが上がらないんです。それと同じで、磨きながら体を動かしてはダメ。上体を動かさないで、手の動きだけでやらないと」(千葉さん)

 上体を動かさず、靴を体の中心に置き、指の芯で革を磨く。これが独自に編み出した靴磨きのフォームです。

 それにしても、あらゆることに携わってきた千葉さんは、なぜ靴磨きを本業にしたのでしょうか?        つづく