庄子:出所者に働く場所を提供するだけではなく、彼らに対する一般社会の負のイメージや先入観の改善を目指したということですね

玄:その通り。敗者復活できる社会になって再犯を減らせれば、結局は被害者を生まないことにもつながる。それで、俺が代表を務める公益社団法人日本駆け込み寺とは別に、一般社団法人再チャレンジ支援機構を立ち上げ、出所者支援居酒屋を始めることにした。この構想に賛同してくれた元最高検察庁検事で弁護士の堀田力さんに、支援機構の代表を務めていただいている。

 それと、再チャレンジ支援機構では、ニート(若年無業者)や引きこもりと呼ばれている若者の社会復帰も支援している。1回や2回の失敗や挫折で社会からはじかれてしまってはかわいそうやろ。彼らももう1度社会の中に戻してやらんと。

 新宿駆け込み餃子はおかげさまで盛況で、評判を聞きつけた刑務所や少年院から働くことを希望する人たちを紹介したいとの相談も直に来ている。

  人 は つ な が り の 中 で 認 め ら れ れ ば 再 生 す る

庄子:元受刑者の方たちを採用するに当たって、何らかの基準や心がけていることなどはありますか?

玄:まず、新宿駆け込み餃子で採用できないのは、殺人や薬物、性犯罪などの重大犯罪者。ここは線を引いている。それ以外で、働きたい希望者とは、俺が一人ひとり、数カ月かけて継続的に面談・研修している。

 俺は彼らの身元引受人にもなるし、居住地の手配なども行っている。要するに出所者の“里親”。そこまで踏み込まないとね。単なる雇うだけではあかん。職場の中だけ指導・管理の眼を光らせたところで、多くはプライベートな部分でふらついてしまうのだから。

 まして歌舞伎町なら誘惑だらけや。金があればどこでも飲めるし、いろんな悪さをしようと思えば、恐らくあっさりできる。もっとも、だからこそここで働くことに意義がある。毎日が修行みたいなものだから。誘惑も多い街だけど、職務質問も毎日のようにかかるわな。

 それから、俺が一番心がけているのは、やり直そうという人間をすべて認めてあげること。過去を丸ごと受け止める。駆け込み寺で被害者だけでなく加害者対応もする中で、俺はその必要性をつくづく感じた。

 「前科三犯です」、「自分はこんな境遇で育った」、「周囲の環境がこうでした」…。こんな打ち明け話を聞いた際、俺は「分かった」と言って、すべて飲み込んでまず認めてあげることに徹する。前科者だからって日陰者にならんでええし、「罪と罰」ではないけれど、悔い改めたら罪は憎めど人は憎まずというのが俺のポリシーなので。

 誰かが一人、見守る、信じる、認めることによって、びっくりするほど人間は変わる。人はつながりの中で認められれば再生する。実際、本当にそうだから。

 新宿駆け込み餃子は元受刑者らに「研修の場」を提供することが運営の基本理念となっていることもあり、彼らが働く期間は、基本は3カ月、長くて6カ月としている。短いと感じるかもしれないが、他人に認められると、その期間だけで十分自信がついて、巣立っていける。実際、これまで駆け込み餃子のスタッフから既に何人かが “卒業”し、次の職場へと移っていった。そこで、正社員になることなどを目指している。    つづく