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日経産業新聞2018年2月13日付
URL=https://www.nikkei.com/article/DGXMZO26755400Z00C18A2905S00/
        「脳トレ」の川島隆太氏、効果を見える化

 日立ハイテクノロジーズと東北大学が2017年8月に設立したNeU(ニュー、東京・千代田)は脳波の計測装置の普及を目指している。技術開発の指揮を執る取締役最高技術責任者(CTO)の川島隆太(58)は任天堂のゲームソフト「脳を鍛える大人のDSトレーニング」の監修で知られる脳科学の第一人者。超高齢社会への処方箋として「スマートエイジング(賢い年齢の重ね方)」を提唱する。

 「集中すれば照明器が赤色に光り、リラックスすれば黄、緑、青色と変化します」。17年末のNeU本社。川島は18年秋に発売予定の脳活動を測るウエアラブル計測装置を手に被験者に説明した。頭部にバンダナの様な形状の計測装置を着けた被験者が人の話を聞いたりメモを書いたりすると、測定した脳活動データを近距離無線通信「ブルートゥース」で検知する照明器が赤く光り出した。

 大脳の前部にある前頭葉の学習前後の状態の変化を近赤外光で映し出す仕組みだ。「リアルタイムで脳の活動を視覚で把握でき、学習効率の改善や高齢者の脳トレーニングに活用できる」と川島は目を輝かせる。

 計測装置は重さ約125グラム、照明器は幅13センチメートル、高さ8センチ、奥行き8.4センチと持ち運べる大きさ。病院に設置されている磁気共鳴画像装置(MRI)のような大型装置がなくても、家庭などで気軽に脳活動を測れる。

 17年12月からはメディア・出版大手カドカワが運営する通信制高校「N高等学校」と共同で実証試験を始め、生徒約10人に自宅で使用してもらっている。教育機関のほか、福祉やフィットネス関係からも採用したいという問い合わせが寄せられる。

 川島は1985年に東北大学医学部を卒業し89年に同大大学院で医学博士号を取得して以降、一貫して脳科学研究の道を歩む。研究に没頭していた川島の目が外へ向き始めたのは、同大未来科学技術共同研究センター教授に就任した2001年以降だ。産学連携を推進する同センターで「研究成果を社会に還元するという意識を学んだ」。

 簡単な読み、書き、計算で認知症患者の認知機能を向上させる療法を開発して福祉機関に普及させ、公文教育研究会と共同で「脳を鍛える大人のドリル」シリーズを03年から出版しベストセラーを記録した。

 これらがベースとなり、任天堂社長の岩田聡(当時)から直接依頼されて05年発売のゲームソフト「脳を鍛える大人のDSトレーニング」を監修。「脳トレ」ブームの火付け役となった。

 実業の世界に関わる際に重視しているのは「願っている社会がつくられること」だ。念頭には日本が直面する超高齢社会がある。そのために脳トレを通じて子供を健全に育成し、高齢者の自立を促そうと考えている。

 NeU設立も「脳トレをもっと身近にしたい」という話題で、社長に就いた長谷川清と意気投合したのがきっかけだった。長谷川は日立製作所の社員として川島と一緒に09年から脳波の小型計測装置の開発プロジェクトに携わっていた。プロジェクトは12年に試作機を開発し、実用化に向けて医用機器を扱う子会社の日立ハイテクノロジーズに移管された。長谷川も日立ハイテクへ転籍した。

 「事業化スピードを速めるために新会社を立ち上げよう」。16年にNeU設立構想が浮上してから、川島と長谷川は資金集めに奔走した。タイミング良く、日立ハイテクと東北大が新事業を育成するためのシーズ(種)を探している時期と重なった。

 約1年後の17年8月、脳の神経回路を表すニューロ(Nuero)と、新しい価値(New)の提供を旗印にNeUの設立に至った。18年秋にも発売する脳活動によって色が変わる計測装置は、日立製作所と東北大が共同で開発した小型計測装置をたたき台にした第1弾の製品となる。

 川島は超高齢社会に向かい合い「加齢現象を否定的にとらえて抗う『アンチエイジング』ではなくて、加齢を受容して賢く対処する『スマートエイジング』を実践すべきだ」と提案する。「脳科学を応用すれば『生涯現役社会』を実現できる」。そう信じて事業を進める。=敬称略
(企業報道部 安原和枝)

 川島隆太(かわしま・りゅうた)氏 1985年東北大医卒、89年同大院博士課程修了。2006年同大加齢医学研究所教授、14年所長。17年8月からNeU取締役CTOを兼務。千葉県出身。