宮内義彦氏Blog:「人口減への対処」紹介
2014年9月26日 お仕事2014/9/12 7:00 日本経済新聞 電子版
人 口 減 へ の 対 処 (宮内義彦氏の経営者ブログ)
日本の人口減少に関する活発な議論があちこちで交わされるようになりました。日本創成会議は5月、20~30代の女性の減少により2040年までに全国896市区町村が消滅する可能性があるとの推計結果を公表。政府の専門調査会「選択する未来」も、出生率が今の水準のまま推移すれば日本の総人口は50年後、現在の3分の2の8700万人まで落ち込んでしまい、地方自治体の4分の1以上が消滅する可能性があるという中間報告書をまとめました。
こうした指摘に現政権も強い危機感を持っているようです。内閣官房に「まち・ひと・しごと創生本部」を設け、今月から本格的な対応策の検討に着手するとのこと。子供を産む・産まないという他人が口を挟むべきではない話題、高齢者支援の財源をどうするかなど、重すぎて一般受けしないテーマが数多く含まれるため、これまでは本格的な議論が避けられがちでしたが、とうとう現実を直視せざるを得ない状況まで追い込まれたということでしょう。タブーは一切なしで、我々みんなで解を探さなくてはなりません。
そもそもの話になりますが、この日本の国土にはどの程度の人口が適切なのでしょうか。江戸時代に推定3000万人程度だったのが、数々の大きな戦争があったにもかかわらず医療を含む科学の進歩の恩恵で、2008年には1億2808万人のピークにまで達しました。「長い歴史で見れば今が特殊なのであり、人口減少は恐れることではない」との論調もあり、私もそういった側面も一部はあると思います。
ただ、現在のインフラや文化水準を維持するのに江戸時代と同じ3000万人で済むわけはありませんし、50年で3分の2になるような急激な人口の減少は社会システムの崩壊をもたらします。そう考えると、1億人ぐらいが適正なのではないでしょうか。
この1億人と言う数字は決して良い記憶ではありませんが、戦時中スローガンとして「一億一心」と言うのがありました。この時には今より日本列島の人口は少なかったようです。また、耕地面積が16%といわれ、国土は急峻(きゅうしゅん)な山林が多い。例えば英国やフランスなどの平地面積の多い国とを比較すると1億人程度が豊かでおだやかな生活をするのには限界なのかもしれません。なぜそう感じるかというと、私は経済面で日本が目指すべきは国内総生産(GDP)全体を上げることではなく、1人当たりGDPを上昇させ、世界に誇れる豊かさを実現することだと思っているからです。
そして、重要なのはその1億人の構成です。「世話をする人」が多く「世話になる人」が少ない状態なら問題はないのですが、その逆の事態である「少子高齢化」が速足で進行しているところに日本の課題があります。
高齢化は、医療を含む科学の進歩で寿命が伸びた結果であり、本来めでたいことです。なぜ、ネガティブに受け止められるかというと、高齢者の増加が社会の負担になると考えられているからです。医療、介護、年金など社会保障にかかるコストがどんどん膨らみ、それを少なくなる若い人たちに押しつける。制度的な対策が必要で、まず高齢層の過保護を見直し、若年層の過負担を緩和しなければなりません。
余裕がある高齢者は、「世話になる立場」から「世話をする立場」に回る必要があります。高所得者や多額の資産を持つ高齢者は、一部の社会保障の枠組みから外れてもらう。健康で働ける人も外れてもらう。本当にセーフティーネットが必要な人だけ社会が支える仕組みにする。これで、若年層の負担は相当軽くなるでしょう。
高齢者に働いてもらう一つの方策として、定年制の廃止も検討課題です。強い言い方になりますが、私は常々、定年は社会に表だって残っている「最後の差別」だと思っています。ビジネス上の評価は能力と成果で測るべきで、年齢を基準にするのはおかしなことです。
もう一つの課題である少子化ですが、日本の今の少子化対策はまったく不十分に感じます。やれることはためらわず、即やらないと、出生率低下に歯止めをかけることはできません。海外で少しでも成果を上げている政策があるのなら、片端から全部まねをする位の気持ちで制度化してみるのはどうでしょうか。
例えば、子供をたくさん産んだ人に多額の祝い金を出すといった施策は「個人的なことに公金を使うのか」「金で子供を買うのか」といった批判がつきまといますが、それでもまずはやってみる。このぐらいの覚悟とスピードが必要です。
そして、高齢化、少子化それぞれに手を尽くした上で、それでも人口減少が止まらず労働力が足りなくなるのであれば、最後はやはり海外の人々を受け入れるしかないでしょう。本当に人口が1億人を大きく下回り8000万人台にまで減ってしまうのであれば、移民は「受け入れ」ではなく「不可欠なので来ていただく」ことになります。労働力不足を移民に助けてもらって時を稼ぎながら、出生率回復による人口増を待つのが現実的な選択なのではないでしょうか。
この「時を稼ぎながら」というところが政策的には一番難しいのかもしれません。日本社会の良いところを殺すようなことにならない形で、とにかく経済力を維持していく。そのために海外から移民を受け入れ、労働力供給源として使わせてもらう。微妙な政策展開と国民の理解が必要となってくるでしょう。難しいですが、今のままではもっと大きな試練が訪れることは間違いありません。まずは「人口問題」を最も大きな社会的課題としてタブー視せず議論をすべきだと思われてなりません。
【宮内義彦氏(みやうち・よしひこ):プロフィール】
1935年神戸市生まれ。米国に渡って学んだリースを手始めに、不動産、生命保険、銀行などと事業領域を広げてきた金融サービス界の重鎮。最高経営責任者の在任期間は30年を超え、企業経営に関する著書も複数ある。語り口はソフトながら、世の中の動きを分析する視点は鋭く、時に厳しい。マクロ経済についての関心も高く、規制改革にも長く取り組む。野球好きで知られ、球団オーナーの顔も持つ。現在は「シニア・チェアマン」として経営への助言を続けている。
人 口 減 へ の 対 処 (宮内義彦氏の経営者ブログ)
日本の人口減少に関する活発な議論があちこちで交わされるようになりました。日本創成会議は5月、20~30代の女性の減少により2040年までに全国896市区町村が消滅する可能性があるとの推計結果を公表。政府の専門調査会「選択する未来」も、出生率が今の水準のまま推移すれば日本の総人口は50年後、現在の3分の2の8700万人まで落ち込んでしまい、地方自治体の4分の1以上が消滅する可能性があるという中間報告書をまとめました。
こうした指摘に現政権も強い危機感を持っているようです。内閣官房に「まち・ひと・しごと創生本部」を設け、今月から本格的な対応策の検討に着手するとのこと。子供を産む・産まないという他人が口を挟むべきではない話題、高齢者支援の財源をどうするかなど、重すぎて一般受けしないテーマが数多く含まれるため、これまでは本格的な議論が避けられがちでしたが、とうとう現実を直視せざるを得ない状況まで追い込まれたということでしょう。タブーは一切なしで、我々みんなで解を探さなくてはなりません。
そもそもの話になりますが、この日本の国土にはどの程度の人口が適切なのでしょうか。江戸時代に推定3000万人程度だったのが、数々の大きな戦争があったにもかかわらず医療を含む科学の進歩の恩恵で、2008年には1億2808万人のピークにまで達しました。「長い歴史で見れば今が特殊なのであり、人口減少は恐れることではない」との論調もあり、私もそういった側面も一部はあると思います。
ただ、現在のインフラや文化水準を維持するのに江戸時代と同じ3000万人で済むわけはありませんし、50年で3分の2になるような急激な人口の減少は社会システムの崩壊をもたらします。そう考えると、1億人ぐらいが適正なのではないでしょうか。
この1億人と言う数字は決して良い記憶ではありませんが、戦時中スローガンとして「一億一心」と言うのがありました。この時には今より日本列島の人口は少なかったようです。また、耕地面積が16%といわれ、国土は急峻(きゅうしゅん)な山林が多い。例えば英国やフランスなどの平地面積の多い国とを比較すると1億人程度が豊かでおだやかな生活をするのには限界なのかもしれません。なぜそう感じるかというと、私は経済面で日本が目指すべきは国内総生産(GDP)全体を上げることではなく、1人当たりGDPを上昇させ、世界に誇れる豊かさを実現することだと思っているからです。
そして、重要なのはその1億人の構成です。「世話をする人」が多く「世話になる人」が少ない状態なら問題はないのですが、その逆の事態である「少子高齢化」が速足で進行しているところに日本の課題があります。
高齢化は、医療を含む科学の進歩で寿命が伸びた結果であり、本来めでたいことです。なぜ、ネガティブに受け止められるかというと、高齢者の増加が社会の負担になると考えられているからです。医療、介護、年金など社会保障にかかるコストがどんどん膨らみ、それを少なくなる若い人たちに押しつける。制度的な対策が必要で、まず高齢層の過保護を見直し、若年層の過負担を緩和しなければなりません。
余裕がある高齢者は、「世話になる立場」から「世話をする立場」に回る必要があります。高所得者や多額の資産を持つ高齢者は、一部の社会保障の枠組みから外れてもらう。健康で働ける人も外れてもらう。本当にセーフティーネットが必要な人だけ社会が支える仕組みにする。これで、若年層の負担は相当軽くなるでしょう。
高齢者に働いてもらう一つの方策として、定年制の廃止も検討課題です。強い言い方になりますが、私は常々、定年は社会に表だって残っている「最後の差別」だと思っています。ビジネス上の評価は能力と成果で測るべきで、年齢を基準にするのはおかしなことです。
もう一つの課題である少子化ですが、日本の今の少子化対策はまったく不十分に感じます。やれることはためらわず、即やらないと、出生率低下に歯止めをかけることはできません。海外で少しでも成果を上げている政策があるのなら、片端から全部まねをする位の気持ちで制度化してみるのはどうでしょうか。
例えば、子供をたくさん産んだ人に多額の祝い金を出すといった施策は「個人的なことに公金を使うのか」「金で子供を買うのか」といった批判がつきまといますが、それでもまずはやってみる。このぐらいの覚悟とスピードが必要です。
そして、高齢化、少子化それぞれに手を尽くした上で、それでも人口減少が止まらず労働力が足りなくなるのであれば、最後はやはり海外の人々を受け入れるしかないでしょう。本当に人口が1億人を大きく下回り8000万人台にまで減ってしまうのであれば、移民は「受け入れ」ではなく「不可欠なので来ていただく」ことになります。労働力不足を移民に助けてもらって時を稼ぎながら、出生率回復による人口増を待つのが現実的な選択なのではないでしょうか。
この「時を稼ぎながら」というところが政策的には一番難しいのかもしれません。日本社会の良いところを殺すようなことにならない形で、とにかく経済力を維持していく。そのために海外から移民を受け入れ、労働力供給源として使わせてもらう。微妙な政策展開と国民の理解が必要となってくるでしょう。難しいですが、今のままではもっと大きな試練が訪れることは間違いありません。まずは「人口問題」を最も大きな社会的課題としてタブー視せず議論をすべきだと思われてなりません。
【宮内義彦氏(みやうち・よしひこ):プロフィール】
1935年神戸市生まれ。米国に渡って学んだリースを手始めに、不動産、生命保険、銀行などと事業領域を広げてきた金融サービス界の重鎮。最高経営責任者の在任期間は30年を超え、企業経営に関する著書も複数ある。語り口はソフトながら、世の中の動きを分析する視点は鋭く、時に厳しい。マクロ経済についての関心も高く、規制改革にも長く取り組む。野球好きで知られ、球団オーナーの顔も持つ。現在は「シニア・チェアマン」として経営への助言を続けている。