東瀧 邦次さま

いつもお世話になっております。
  橋下徹・大阪市長の「従軍慰安婦発言」を巡っては海外にも騒動が飛び火し、収束にはまだ相当の時間が必要なようです。
  発言内容はさておき、今回がなぜ国際的な問題になったのでしょうか。その根底には、「コンプライアンス問題」があります。
  といっても、「コンプライアンス=法令順守」と丸暗記されている方には、ご理解頂くのは難しいかも知れません。
  オルタナ読者の大半はご存知の通り「コンプライアンス=法令順守」は誤訳なのです。かいつまんで申し上げると、英語の動詞 comply の原義は、「相手と対話し、相手のニーズを汲み上げ、理解すること。慮(おもんぱか)ること」です。
  つまり、「社会やステークホルダーの考え、ニーズを知り、それに応えていくこと」です。「単に法律を守ればそれで良い」ということでは決してありません。
  いまだに誤訳をベースに、コンプライアンス委員会などの組織を置く企業は少なくありません。
  もしそのミッションが単なる「法令順守」であるならば、組織の名称を「法令順守委員会」に変えた方が良いと思います。
  CSRのResponsibility も、単なる「責任」ではなく、response(応える)ability(能力)を指すと言います。社会やステークホルダーのニーズや要請に答えることが、CSRの根幹なのです。
  そして、SR(Social Responsibility)とは、企業だけに求められているものではありません。行政、学校、警察、病院・・・。あらゆる組織に必要なものです。
  さて、最初の話に戻りますが、橋下市長に欠けていた「コンプライアンス感覚」とは、「こう言えば、相手はこう反応するだろう」を読む能力です。
  常日ごろから相手と対話していないと、この感覚は研ぎ澄まされません。おそらく、橋下市長は外国人とこのような会話を今までしたことがなかったのでしょう。あるいは、外国人をステークホルダーとして捉えていなかったと想像できます。
  こう書くと、企業経営者や公人の方たちは「微妙な問題は怖くて公の場で話が出来ない」と萎縮することも容易に予想できます。
  猪瀬直樹・都知事も「イスラム発言」で非難を浴びた後、しばらくは海外に関した発言は慎むように周囲から求められているはずです。
  これは誤った選択肢で、微妙な問題でも、相手との「対話」を重ねていけば、相手に受け入れられ、ともに未来を目指せるような前向きな発言ができるはずです。
  企業人にとっても、政治家にとっても、外部ステークホルダーとの「対話」はとても重要な要素であり、是非、今からでも「対話」の練習に励んでもらいたいものです。
  経団連の米倉弘昌会長も、その意味で、対話の姿勢や能力に欠けた人物と見受けられます。
  米倉会長は福島原発事故後、一貫して「1日も早く原発を再稼働させることが日本国民にとって、経済界にとって最優先である」という主旨の発言を繰り返してきました。その言動に、「原発を抱える地方や住民と話し合おう」という姿勢は感じられません。
  最近では、米倉会長の出身企業・住友化学が生産する「ダントツ」など、ネオニコチノイド系農薬について、欧州委員会が今年12月から2年間の使用禁止(モラトリアム)を決定しました。【参考記事: EUがネオニコ農薬禁止へ、日本は野放し】
  欧州委員会の使用禁止決定は、世界的に問題になっているミツバチの大量死問題(CCD)において、ネオニコチノイドとの関係が疑われていることが背景にあります。そして日本でネオニコ農薬は野放しになっているのが実情です。
  この欧州委員会の決定に対して、住友化学は早々と反論文書を出しました。参考記事: 住友化学、「EUのネオニコ規制は行き過ぎ」と反論
  EUの多くの国が賛成した決定について、日本の一企業が一方的な反論文書を出すということ自体が異例ですが、さらには、そこに「対話」の姿勢が見えないことが残念です。
  日本でネオニコを使っている農家がたくさんある一方で、その使用に反対している人たちもたくさんいます。その双方と、真摯な対話を重ね、正しい方向性を導き出すことが、企業にも行政にも政治家にも求められているのではないでしょうか。
  従軍慰安婦も、原発問題も、ネオニコ農薬も、ジャンルは全く異なるように見えて、実は根は同じ。それは「真のコンプライアンス=対話」なのです。
  ちなみに、住友化学のホームページ「コンプライアンス遵守事項」には、下記のような表現がありました。
  「よき地球市民として、地球環境との共生に向け、地球環境の保全を目指し自主的、積極的な取組みを行い、企業としての社会的な責任を果たさなければなりません」
(オルタナ編集長 森 摂)
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