こうきしん  シリーズ版生涯現役塾を開設した初期の25年ほど前に、「生涯現役」に興味を持ってもらうためには「話し方教室ABC」程度の基礎知識は必要だろうと、痛感していた。

  そこで、ともに学んだ友の一人がクラブ会員のW氏である。初級コースで中止した自分とは異なり、W氏は司会役の専門中級コースもマスターして、その終了後の生涯現役塾専門司会役を長らく熱心に担当していただいたことを今も深く感謝している。

  その教室でのABC冒頭で「人はどういう話をききたがるのか?」という初歩の常識チェックポイントの押さえが不十分なまま、後の祭りで反省することが何と多いことか・・・と準備不足に嘆くなかれと自戒する謙虚さが欲しい。

【生涯現役の話を聞きたがるのか?】

① 自分に関係のあることなのか?
  「生涯現役」には大部分の人が総論賛成を示してくれるが、さて各論で自分とどう関わるのかイメージできない人には、関係ないと立ち止まって話を聞く姿勢は見せてくれないのが当然かもしれない。だから、自分の「生涯現役と生きがいづくり」を滔々としゃべっても、余程平素から「生涯現役」に関心を持ち、研究新がある人でないと、まずは耳を傾けまい。
  個別に相談で来られる人は、まず聞く耳を持っておられるが、それでも人はまず自分に関わりがあることなら顔にもその表情が現われるから、特に若い人たちには、親や知り合いの年長近親者が人生後半の生涯現役的な生きがい人生観がどうかなど尋ねることから、自分にも生涯現役人生観は若い時からが必要なものとの意識を持つ自覚ができるよう心静かに祈ってあげるのがよいだろうと思う。

② 自分に利益になることなのか?
  物事を善悪の立場で考え行動するよりも、戦後の経済社会で育てられた人たちは多分におカネ本位に考える損得の立場で決断する傾向が強い。「生涯現役」の話は一体自分にはどう利するのか、総論で賛成者が多いということは、ほぼ善悪・損得の両面で「生涯現役」は利益になると理解できるのだろう。だが、各論になると損得面で仕事の収入は大いに歓迎するとしても、無償の社会奉仕などはご苦労なこと、何とかご免こうむりたいという人も多かろう。
  「生涯現役」の受け取り方は人さまざまだが、それが利益になるかどうかはご本人の「生き様次第」だと悟らない限り、単なる言葉だけでは何の力(利益)にもならないということだ。生きる最大限の能力を発揮するために人生目標を確立して「生涯現役」に取り組めば、限りない利益になると分かる人なら申し分ない。

③ 知識欲を満たすものなのか?
  単なる知識欲を満たすことならば、「生涯現役」よりもむしろ「生涯学習」の方がより効果的だといいたい。学校で習得する学習能力は、知識力を高め知識欲満たしてくれるが、それだけで自己実現の人生を必ずしも保証するものではない。知識欲を十分に満たしてくれた筈の高学歴者の人が、社会の現実面で適応能力不足など災いして、特に人生後半定年後の生きがいづくりに折角の知識欲が活かしきれないことも多い。
  頭脳学習型の「生涯学習」から、人間社会行動型の「生涯現役」へと進化すれば、単なる知識欲を満たす「生涯学習」に止まらない社会参画の行動能力を発揮するようになるからである。だから「生涯現役」は知識欲を満たすだけではなく、自ら知識欲を行動や実践へと展開できる社会活性力の発揮につながり得る可能性に満ちている。

④ 新しいもの、珍しいなのか?
  21世紀の超高齢社会時代を迎えて、「生涯現役」は少しも新しいもの、珍しいものではなくなった。4半世紀以前の生涯現役塾発足当初の頃は、「生涯現役と生きがいづくり」をテーマに、首都圏主要鉄道各沿線で私たちが「生涯現役・社会参加の各地域集会」を次々と創設していた。「生涯現役」の看板でどれほど新奇な活動を始めるのか、物珍しさもあって地域マスコミが盛んに宣伝の一役をになってくれたことから、人集めにも苦労がなかった。
  しかし「生涯現役」名称に寄せるもの珍しさは、集まる人たちもその活動自体にさほど他の地域集団と変わらない実態となれば、人が人を呼ぶ相乗効果などとても望めなくなる。斬新さはないかもしれないが、人生達人のプロ領域を活かしている生涯現役実践家といえる人たちの核心が見られるようになって、初めて人は多少なりとも聴く姿勢を持ち始めたように感じるし、参加者全員の主役研鑽道場が成り立つともいえよう。

⑤ 好奇心をそそるものなのか?
  「好奇心」というのは、自分がまだ知らないものに対して、その意味や理由を知りたいと誰もが思う。特に「知的好奇心」というのは、好奇心の対象が真面目な調査や学習を必要とするようなものに対する欲求だといわれる。だから知的好奇心をそそるものには前述の③項や④項とも多少関わるが、「生涯現役」という未知のイメージに好奇心をそそる魅力があり、夢や希望を生み出す可能性をもっているから、これまで生涯現役塾が永続できている要因があるのかもしれない。
  ただ、「生涯現役」というだけで誰もが好奇心をしめすとは限らない。大切なことは「生涯現役」が自分の人生研究や実践体験に役立つ価値があるかどうかの好奇心をホンネで実感してくれる話を伝えられる人が身近に存在することにある。人生は百人百様の「生涯現役」を描けるから、人に関心を示せる人ほど「生涯現役」に好奇心をそそる内容を人生先輩から後輩に伝える義務を痛感している。