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日本経済新聞 2020/2/17付朝刊 経営の視点
ご参考URL=https://www.nikkei.com/article/DGKKZO55641920U0A210C2TJC000/

      「 オ ブ ジ ェ 社 員 」 を 生 む な / シ ニ ア 活 性 化 、 企 業 が 左 右   
                                     編集委員   西 條 都 夫


 「活発に活躍している方もいらっしゃるが、明らかに時間内だけ事務所にいれば、たいして頑張らなくても給料がもらえるというオーラを放つ人もいる」

 「アドバイザー的な役割しかになわず、まるでオブジェのよう」

 「あまり仕事をしない。評価に響くと警告しても、今更評価で処遇が変わるわけもなく、効き目ゼロ」

 「何をいっても、『昔の部下のおまえに指示される筋合いはない』と反発され、面倒」――。

 多摩大学大学院で人事論を担当する徳岡晃一郎教授が、役職定年を迎えた、あるいは定年延長で継続雇用されたいわゆるシニア社員についてある大手電機メーカーで周囲の評価をヒアリング調査したところ、否定的な声が大半だった。

 前の2つのコメントは職場の若手からみたシニア層の評価。後の2つはいわゆる「年下上司」の訴えで、自分の先輩を部下として抱えることのやりにくさを浮き彫りにしている。

 徳岡教授は「これは日本の多くの大企業に共通する声だ。長寿時代を迎え、従来の働き方を漫然と続けるだけでは、働く人にも会社にも幸せな結果にならない」と指摘する。

 人生100年時代といわれるが、これは誇張ではない。ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授は著書『ライフシフト』で「2007年にアメリカやフランスで生まれた子供の半分は少なくとも104歳まで生きる。日本はさらに長寿で、半数が107歳以上まで生存する」という推計を公表した。

 その結果、「子供と学生の時代が20年、仕事をする40年、リタイア後の20年」という人生の基本設計が崩れ、仕事をする年月が60年に延びる(つまり定年は80歳)という。長時間労働ならぬ「長期間労働」の時代の到来である。

 そんな時代にじっと固まったままの大量のオブジェ社員を生まないためにはどうすればいいか。政府は企業に70歳までの就業機会確保の努力義務を課す「高年齢者雇用安定法」の改正案をまとめたが、これは問題の解決ではなく、むしろ悪化させるだろう。

 政府としては働く高齢者が増えれば、年金をはじめ社会保障負担が軽くなり、財政が楽になる。だが、肝心の働き手が生き生きと仕事をできないなら、本人や周囲の同僚、企業には重荷である。職場の閉塞感が高まり、逆に企業の活力を低下させる恐れさえある。

 パーソル総合研究所の小林祐児主任研究員は「シニアの不活性の主な原因は企業にある」という。日本企業の人材投資は新入社員と管理職に集中し、そこから外れたミドル層は「言葉は悪いがほったらかしになりがち。これではやる気もわかない」と指摘する。ソニーやYKKのようにミドルシニア層を対象にしたキャリア設計研修などに力を入れる企業もあるが、まだ一握りにすぎない。

 一方で働く側の意識改革も欠かせない。社外での学習や自己啓発に取り組む会社員の比率は日本は他国に比べて非常に低い。自らのスキルや技能の「鍛え直し」「学び直し」に主体的、戦略的に取り組む姿勢が重要になるだろう。

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