日 本 生 涯 現 役 推 進 協 議 会 &  
     NPO法人 ラ イ フ ・ ベ ン チ ャ ー ・ ク ラ ブ  活 動 で 
            ご  支  援  く  だ  さ  る   会  員  皆  様


日本経済新聞 電子版 2020/2/9付朝刊
ご参考URL=https://www.nikkei.com/article/DGKKZO55437400Y0A200C2EA1000/

        未踏に挑む  資 本 主 義 、次 の 進 化 促 す
                  米ブラックロックCEO ラリー・フィンク氏


資本主義が変化を迫られている。株主への利益を最優先する従来のやり方が格差を招いたと批判を浴び、世界の企業は社会や環境により配慮した経営が求められるようになった。世界最大の運用会社ブラックロックを率いるラリー・フィンク最高経営責任者(CEO)は米産業・金融界を代表する経営者として知られる。フィンク氏に資本主義の未来や今後の事業戦略について聞いた。

――経営者としていま最も懸念していることは何ですか。

「民主主義の国家がますます近視眼的になっていることだ。(米国などでは)政府や社会の反応が場当たり的になっており、企業が長期的な視野で経営するのが難しくなっている。中国が成功を収めているのは政府に長期計画があるからだ。より良い退職年金や医療保険を整えようとするなど制度の整備が進む」

「世界には十分な蓄えがないがために、退職後を不安に思う個人であふれている。健康に問題を抱えた人も少なくない。それなのに民主国家は適切な解決策を提示できず、企業にその役割を求めるようになった。社会が希望を取り戻すには、政府の強いリーダーシップと資本主義の力を組み合わせていく必要がある」

――格差拡大で資本主義に懐疑的な見方が広がっています。このまま資本主義は廃れゆく運命なのでしょうか。

「答えは『ノー』だ。資本主義は社会の変化とともに進化してきた。50年前や100年前とは資本主義に対する人々の考え方も変わった。米経営者団体ビジネス・ラウンドテーブルが昨年8月に出した声明では『企業の目的』として株主だけではなく、すべてのステークホルダー(利害関係者)の利益を追求すると宣言した。これも資本主義の進化を示している」

「世界の労働人口の約3割は(1980年代~00年前後に生まれた)ミレニアル世代だ。彼らはベビーブーマー世代と価値観が異なり、企業理念や存在意義を重視する傾向がある。世代交代は社会に大きな変化をもたらすだろう」

――世界の主要企業の株主として自ら果たすべき役割は。

「投資先との対話を通じて、企業に長期的な視野に立った経営を促すことだ。私たちはアクティビスト(物言う株主)ではないが、対話に積極的だ。これからの時代は企業が環境や社会問題に正面から取り組むと同時に、コーポレートガバナンス(企業統治)を向上させることが収益力を維持する条件になる」


「先日、中国やシンガポール、中東を相次いで訪れた。国際通貨基金(IMF)の会合でも30~40人のリーダーと話す機会があったが、環境や社会問題、企業統治に向き合う『ESG』が実に話題の半分近くを占めた」

――ESGへの取り組みは世界で広がっています。

「ブラックロックもESG投資を積極化してきた。運用業界の今後の潮流としてESGが主要な要素になるのは疑いようがない。欧州を見てほしい。環境に配慮したESG投資の視点がなければ、もはや運用会社が投資家から資金を預けてもらうことはできない」

――トランプ米政権は温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を表明しています。懸念はありますか。

「懸念はある。政治問題について発言するつもりはないが、私が言えることは米国でもESGに関心を示す投資家はかつてない規模に達しているということ。パリ協定の離脱問題にかかわらず、もはやこの流れはとまらない」

■ 中国、国家で長期戦略

――ブラックロックは中国で事業展開するグローバル運用会社で首位を目指すと宣言しました。米中の貿易摩擦は妨げになりませんか。

「世界中の地政学リスクには常に目配りしている。米中の貿易交渉が続いているさなかに中国を訪問したが、私たちが事業を進めるうえでの大きな障害は見当たらなかった。中国でリタイアメント(老後)市場についての大規模な会合を開いたときも大盛況だった」

「中国は世界でもっとも速いスピードで高齢化が進んでいる国の一つだ。中国政府の指導者たちはこの問題を認識しており、年金制度を整備して第二、第三の柱を作ろうとしている。年金の市場が拡大すれば資産運用の需要が高まり、ブラックロックにとっても大きな事業機会となる。私たちは中国での事業にとても強気だ」

――ただ、米国の対中強硬派議員は米公的年金に中国への投資をやめさせたり、中国企業の米国上場を阻止しようとしたりしています。

「議論の進展をじっと見守っているところだ。強い資本市場とは、資本の自由な移動が認められてこそ実現できる。開放的で自由な資本市場こそが米国の強みであり、私はそうした市場をずっと支持している。08年に米国を金融危機が襲ったが、欧州や日本など他の国・地域に比べて米国の立ち直りは早かった。(他国からの投資マネーを呼び込める)強い資本市場を持っていたからだ」

「あらゆる国の指導者たちと話をすると、(米国と同じように)誰もが懐の広い資本市場を作りたいと考えているのがわかる。資本市場の発展は、退職年金の成長と軌を一にしている。年金の運用ニーズをくみ取れば、資産運用の規模の拡大にもつながる」

■先端技術、運用益に直結

――ブラックロックは早い段階からテクノロジーに多額の資金を投じてきました。資産運用の世界はどう変わっていきますか。

「テクノロジーは運用業界そのものを変革する。人工知能(AI)やビッグデータといった先端技術を使うことで、どこに、どうやって投資すべきかの判断をより精緻にできる。業務運営もより効率的になり、顧客により安価で金融商品を提供できる利点もある」

――本業の運用部門に加え、自社のシステムを外販するテクノロジー部門が伸びています。

「資産運用上のリスク要因を日々探し出すソフトを提供する『アラジン』事業は68カ国、900社を超える機関投資家を顧客として抱えている。これからの外販先として期待しているのは、富裕層の運用担当者や個人投資家だ。機関投資家向けと同じレベルのリスク管理機能を使うことで、個人も投資収益を高められるようになり、より安心な老後を迎えることができる」

――ハイテク企業との協業にも前向きですね。

「マイクロソフトと組み、従業員向けに老後のための資産形成を支援するプラットフォーム(基盤)を構築する。同社のクラウドサービス『アジュール』とブラックロックの運用商品を活用することで、個々の運用の目標額達成を容易にする。中国IT(情報技術)大手テンセント・ホールディングスなど他のあらゆるテック企業とも協業について議論をしているところだ」

――中国の電子商取引(EC)最大手、アリババ集団傘下の金融子会社アント・フィナンシャルは資産運用ビジネスに進出し、成功を収めました。IT大手の進出は脅威に感じませんか。

「アントの成功は珍しいケースだ。多くの中国人が銀行口座を持っていない。そこでアリババはEC利用者向けに資金を一時的にプールするサービスを作った」

「これが(一時は世界最大規模といわれた)MMF(マネー・マーケット・ファンド)に成長した。素晴らしいアイデアだが、米国や日本を含む多くの国では、金融当局の監督下に入らない限り実現できないビジネスだ」

「テクノロジー企業は決済サービスのように手数料が高く、引き下げ余地のある分野を狙う。彼らと議論する限り、資産運用ビジネスそのものに参入する動きはなさそうだ」

「一方、あらゆる運用会社が投資信託を売ることができるポータル(玄関)サイトをテクノロジー企業が作るかもしれない。米アマゾン・ドット・コムやアリババの優れたポータルサイトを活用すれば、消費者から受け入れられるだろう」

米金融機関でトレーダーなどを経験し、1988年にブラックロックを設立。米メリルリンチや英バークレイズの資産運用部門を買収し、世界最大の運用会社に成長させた。

聞き手(New York=宮本岳則、伴百江)から/政治との距離 課題に

コメント