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日本経済新聞 朝刊 2019/3/13付 <駆ける投資家魂>(2)


     <駆ける投資家魂>(2)
      バフェット流を日本に  農林中金系ファンドCIO 奥野一成氏 」
           真の価値見抜き利益享受

 米国の著名投資家、ウォーレン・バフェット。企業の強さを見極めて厳選投資し、長期的なリターンをめざす手法で知られる。この投資哲学に共鳴し、「日本のバフェット」との呼び声が高まる男がいる。農林中央金庫グループの投資ファンドで、最高投資責任者(CIO)を務める奥野一成(49)だ。

 「レタスのシャキシャキ感が格段に上がったな」。2月上旬、奥野は米テキサス州ダラスにあるセブン&アイ・ホールディングスの米国本社を訪れていた。

 1階のコンビニエンスストアで買ったターキーサンドを一口食べ、こう確信した。「やっぱりこの会社は強い」

 セブン&アイは奥野の運用する日本株ファンドの投資先のひとつだ。多くの投資家は、セブン&アイの強さを連結営業利益の7割を占める国内事業だとみている。だが、奥野は「米国事業での成長余地だ」と言い切る。

 おいしい総菜や弁当を手ごろな価格でいつでも買える。こうした便利さが「日本の4倍とされる米国市場で広まれば、確実にセブン&アイの企業価値は高まる」。

 奥野が在籍する農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)は高い運用成績を誇る。同社によると2009年2月から18年末の約10年間の日本株ファンドの運用収益率は年14.7%。同じ期間の東証株価指数(TOPIX、配当込み)の8.8%を大きく上回る。

 奥野は「高付加価値」「競合優位」「長期的な成長」を基準に20社前後に厳選投資している。こうした手法は米国のバフェットと重なる。奥野の性格の面白さは、バフェットを尊敬しつつもライバル視している点だ。

 奥野は日本長期信用銀行(現・新生銀行)の出身。だが1998年に長銀が破綻し、在籍していた証券部門はUBS証券に吸収される。

 そうしたなか、奥野は30歳でロンドンに赴任する。バフェットの投資理論に出合ったのはその頃だ。「短期的な株価の上げ下げでなく、企業価値そのものに着目するというスタイルに大きく共感した」

 奥野は帰国後、農林中金に転職。07年に外部から資金を集める形での長期投資プロジェクトをスタートさせた。当初は資金集めに苦労したが、徐々に理解者の輪が広がっていった。

 「若者に投資を知ってもらおう」。奥野は母校である京大の川北英隆名誉教授と意気投合。14年から経営者らを招き、どのように企業価値を高めているかを語ってもらう特別講義を始めた。

 「なんでうちの会社がこんな大きくなったか分かるか。君らみたいなエリートが来ないおかげや」。講義には日本電産の創業者、永守重信も登壇して熱弁を振るった。

 精力的に活動する奥野を突き動かすもの。それは「この国の投資に対する意識を変えたい」との思いだ。「日本では自ら汗をかいて稼ぐことが尊いこととされ、投資とは楽をしてもうける行為との意識がなお根強い」

 奥野は「わかりやすく言えば、株式投資とはその企業のオーナーになることだ」と語る。世界を発展させるような企業にお金を投じて成長を後押しし、その利益の一部を享受する。「これは資本主義の根幹であるにもかかわらず、日本の学校教育で教えられていない」

 少子高齢化などで将来不安が根強い日本。「貯蓄から投資へ」の流れはなお道半ばだ。

 だが、マネーゲームでなく真の企業価値に着目するバフェット流の長期投資が根づけば、日本経済はもっと活気づく。そう信じる奥野の信念は揺らがない。=敬称略   (根本舞)

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