日 本 生 涯 現 役 推 進 協 議 会 &  
     NPO法人 ラ イ フ ・ ベ ン チ ャ ー ・ ク ラ ブ  活 動 で 
            ご  支  援  く  だ  さ  る   会  員  皆  様


日本経済新聞 朝刊 2019/3/12付 <駆ける投資家魂>(1)

<駆ける投資家魂>(1)
     埋もれた原石 収益の源泉 和製ヘッジファンド ハヤテ
          果敢にリスク、企業と共栄  
    
 ヘッジファンドは高度な取引手法を駆使し、どんな市場環境でもプラスの収益を目指す投資家だ。機関投資家や富裕層からお金を集めて運用する。堅い守秘義務があるため秘密のベールに包まれているイメージも漂う。どんな戦略で投資収益を上げているのか。ある和製ヘッジファンドとその経営者の素顔に迫った。

 株の街、東京都中央区の兜町。東京証券取引所のすぐ隣のビルに、日々、市場と対峙するヘッジファンドがいる。ハヤテインベストメントだ。

 「では、始めましょう」。2月中旬、朝7時15分。創業者でファンド代表を務める杉原行洋(41)のひと言で、恒例の朝会がはじまった。国内の運用会社や証券大手から引き抜かれてきた3人のアナリストたちの表情が引き締まる。

 中小型株で一体どこが有望なのか。市場がまだ気付いていない価値を掘り起こすための時間だ。「少人数での双方向のやり取りは、これまで経験がないほどに中身が濃い」。国内運用大手からハヤテに転じた高木知哉は話す。

 ファンドマネジャー同士が社内で競い合い、負ければクビになるのが常識の業界で、ハヤテは「チーム主義」を掲げて情報をすべて共有する。互いに開かれた関係が投資にプラスに働くとの思いがある。

     年間3000社訪問
 ハヤテは杉原が2005年に立ち上げた。運用資産は200億円弱。日本の個別企業の買いと空売りを組み合わせた投資戦略を採用する。特筆すべきは年率で平均13%という投資リターンだ。運用を始めた06年3月を基点にすると、実に投資収益率は5倍近くになる。

 その特徴は徹底した企業調査にある。アナリスト1人あたり、1日4~5件の面談をこなす。年間で訪問する企業数は延べ3000社超にも及ぶ。「訪問数を少しでも減らせば、長期の投資リターンに響く」。投資対象は証券会社のアナリストがカバーしない中小型株。時価総額が1兆円を超える東証上場企業には、平均11人のアナリストがいる。これが100億円未満になると0.19人しかいない。「小さな企業にこそ、埋もれた宝の原石がある」という。

 杉原はどんな視点で投資しているのか。最近これまで成功した投資の事例を、40程度の「勝利のレシピ」にまとめた。

 特定の分野で圧倒的なシェアを持つ「カテゴリーキラーを探せ」。あるいは心躍る成長ストーリーがなくても、安定したキャッシュフローが見込める「NC(ネットキャッシュ)チャリチャリ銘柄」というのもある。

 ハヤテは昨年、シンガポールにずっと置いてきた本拠地を東京に移した。高いリターンを上げてきたが、運用額は200億円弱とまだ小さく、営業はかねての課題だ。今はファンドへの資金の出し手の約9割が海外勢だが、今後は日本の機関投資家を開拓する狙いがある。

     市場を活性化
 日本回帰にはもう一つの理由がある。「日本が世界の中でこれ以上地盤沈下していくことに耐えられなくなった」との思いだ。

 杉原は日本が競争力を失ったのは、投資家の責任も大きいと感じている。日本企業にリスクマネーを供給し、資本効率の改善を促しながら世界で戦える状態にする。その企業と投資家の対話を通じた協働こそが必要なのに、日本は年金基金も金融機関もリスクを取ってこなかった。「リスクマネーの幹を太くして、世界で戦えるような日本企業とウィンウィンの関係を築きたい」。杉原は語る。

 だが、ファンドを取り巻く足元の環境は良好とはいえない。昨年は米利上げを巡る危機モードが高まり、割安な中小型株が一斉に売られ、割高のものが上がるマネーの逆転現象が起きた。日本でも「有力なヘッジファンドのいくつかが閉鎖に追い込まれた」(みずほ証券の菊地正俊チーフ株式ストラテジスト)。

 ハヤテも昨年は投資損益が前年比でマイナスになった。過去13年でマイナスになったのは、07年と18年の2回しかない。企業調査が機能しにくい市場の現実に、「無力感に支配された」と杉原は打ち明ける。今年になっても、現金比率を高めにする非常時モードを続けている。

 無人化する自動取引が主流になる市場で、愚直な企業調査が機能しにくくなっている可能性もゼロではない。

 埋もれた日本企業を発掘し、成長のギアチェンジを促す。そんな理想を杉原はどこまで形にしていけるのか。日本の資本市場の活性化は、投資家の果敢な挑戦なくして実現はできない。=敬称略  (川上穣)

コメント