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Zakzak by 夕刊フジ ライフ欄 2018.12.17   ドクター和のニッポン臨終図巻
ご参考URL= https://www.zakzak.co.jp/lif/news/181217/lif1812170004-n1.html

     女優・赤木春恵さん 親友、森光子さんとの“再会”は…                      
                   「死を受け入れる準備」の証しか
   長尾和宏

 女優の赤木春恵さんが11月29日、都内の病院で亡くなりました。94歳でした。死因は心不全とのことですが、その年齢や経過を考えると、老衰での大往生と言っても差し支えはないでしょう。

 『渡る世間は鬼ばかり』の姑役のイメージが強いという人がいますが、私は『3年B組金八先生』の懐の深い女性校長役が大好きでした。2013年には、なんと88歳にして映画『ペコロスの母に会いに行く』に主演。「世界最高齢での映画初主演女優」としてギネスに認定されました。

 その前には、過去に本連載でも書かせていただいた菅井きんさんも82歳で主演を務め、ギネス認定をされています。我が国の高齢の女優さんたちの活躍ぶりは世界に誇るべきものだと嬉しくなります。

 そんな赤木さんですが、生涯現役で活躍したわけではありません。2015年に自宅で転倒、左大腿(だいたい)部を骨折して入院生活を余儀なくされました。リハビリに励みながら最後は自宅と施設を行き来する生活だったようです。

 大腿骨頚部の骨折は、後期高齢者になるほどよく起こります。転倒という明らかなエピソードが無くても重い物を持ち上げただけでも簡単に折れる場合があります。大腿骨頚部骨折の手術を受けてもそのまま寝たきり、そして認知症という経過をたどる人は少なくありません。骨粗鬆(こつそしょう)症があると骨折しやすいので、日々のバランスのとれた食事と適度な運動、そして時にはお薬による介入が必要です。転倒・骨折を予防することが健康長寿の大きな鍵です。

 赤木さんは入退院を繰り返すうちにパーキンソン病の症状も出てきて徐々に衰弱していったようです。しかし認知機能は最期までしっかり保たれていました。赤木さんは2012年に亡くなられた女優の森光子さんと長年の親友でした。お二人の出会いは戦時中に参加した陸軍慰問団のトラックの上だったそうですから、長い交流歴の重みに畏怖さえ覚えます。

 娘さんによれば、亡くなる1カ月ほど前に、「森光子さんが来た」と話されたそうです。亡くなる少し前に、夢の中に大切な人が現れることは珍しくありません。在宅医療の現場にいると時に「〇〇さんが迎えに来た」と呟く患者さんがいますが、「そうか。会えて良かったね」と声をかけます。

 これは決してオカルト的な会話ではなく、ご本人が「自分はもうすぐこの世から居なくなる」ことを敏感に察知し、先に逝った人の記憶を手繰り寄せている姿なのでしょう。つまり「死を受け入れる準備」ができている証しだとも言えます。

 赤木さんは森さんに会った後、日に日に衰え、眠るように旅立ちました。今頃、あの世で思い出話に花を咲かせているのでしょうか。(長尾和宏)

 ■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。近著「薬のやめどき」「痛くない死に方」はいずれもベストセラー。関西国際大学客員教授。

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