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産経新聞 NEWS 2018.11.25 07:04 |地方|神奈川版
参考URL=https://www.sankei.com/region/news/181125/rgn1811250029-n1.html

    【かながわ美の手帖】
       真鶴町立中川一政美術館「中川一政美術館の軌跡」展

 ■ 日々写生した連作群、展示で時代を区切り

 「僕の理想を実現できるような美術館にしたい」-。真鶴町立中川一政美術館は、同町にアトリエを構えて戦後の日本洋画壇の中心的存在として活躍した一政が晩年、作品を町に寄贈したことにより、生前の平成元年に創設された。平成の歩みとも重なる同館で、開館30年記念展「中川一政美術館の軌跡」が開かれている。期せずして、まもなく区切りを迎える一つの時代を振り返る機会ともなっている。

 ◆ 「岸壁二十年」
 明治26年、東京生まれの一政は、昭和50年に文化勲章を受章し、平成3年に他界した。生涯現役。97歳での絶筆「静物 薔薇(ばら)」は、力強い筆致と豊かな色彩で見る者を鼓舞してくれる。

 展示室1には一政が21歳で発表して岸田劉生の目にとまった処女作「酒倉」(大正3年)や、続く「霜のとける道」(4年)などの初期作品。合わせて親交のあった岸田、小杉放庵、木村荘八、梅原竜三郎、椿貞雄、万(よろず)鉄五郎ら画家の油彩に加え、知遇を得た文芸誌「白樺(しらかば)」同人の武者小路実篤、長与善郎らの静物画も展示し、画業の原点を浮かび上がらせる。

 一政は美術学校を出たわけでも、特定の師に教えられたわけでもない。「手探り、独学で自身のスタイルを確立した」と同館学芸員の加藤志帆は強調する。「白樺」で日本に初めて紹介されたゴッホやセザンヌは自然を師とした。一政も日々黙々と、身近な風景や素朴な静物を写生し、腕を磨いていった。

 戦後まもなく、真鶴に“隠れ家”をもった一政は、半島の付け根の小さな漁村「福浦」(湯河原町福浦)と出会い、ひかれる。昭和24年、アトリエを真鶴に設けた。56歳。以来、70代半ばまで、毎日のように画材を抱えて港に下り、突堤で写生を続けた。達磨(だるま)大師の故事「面壁九年」をもじり、「岸壁二十年」…。

 ◆ 少年易老…
 やがて高度成長とともに福浦は変質する。新たな写生地を探し、次に出会ったのが箱根の「駒ケ岳」だった。42年、74歳。秘書の運転する車に画材を積み込み、16年間、草原に通い続けた。夏は避け、春、秋、冬と、自然と向き合い、移ろいを感じ、天候に左右されながら、24点を描いた。1枚に1つの季節。100号キャンバス(162×130センチ)なら、足かけ3年もかかった。

 「飛んできた葉っぱが、絵の具の乾かないうちにくっつき、気付かず、額に収めた作品もある」と加藤。展示された4点の「駒ケ岳」が、どの季節なのかを、色使いの違いから推測するのも楽しい。

 一政は静物画にも大いに取り組んだ。庭の「薔薇」や「向日葵(ひまわり)」を摘み、顔の絵が描かれた「マジョリカ壺」(自身のコレクション)に生けては、顔ごと丹念に写生している。「薔薇」だけで800点以上に上る。

 額縁も自分でデザインし、彫ったり色を塗ったりしている。全体で一つの作品だった。

 こうした風景画「福浦」「駒ケ岳」、静物画「向日葵」「薔薇」の連作が並ぶ展示室2は、開館当時、96歳の一政が「みなさんに見てもらいたい」と、自ら構成を監修した18点の展示を再現。画業の大半がここに集約され、今回のハイライトとなっている。

 文筆も達者な文人画家でもあった。展示室4には書が並ぶ。画家の書いた書という趣。「少年易老學難成(少年老い易(やす)く学成り難し)」の書もある。自分で彫った落款に、小さく「九十七才」と数え年を添えている。愉快だ。=敬称略(山根聡)
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 開館30年記念展「中川一政美術館の軌跡」は真鶴町立中川一政美術館(真鶴町真鶴1178の1)で12月23日まで。午前9時半から午後4時半(入館は午後4時まで)。水曜休館。観覧料は一般800円、高校生以下450円など。問い合わせは同館(0465・68・1128)。
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 中川一政美術館 県立真鶴半島自然公園の原生林内に位置する真鶴町立の美術館。同町を創作の拠点とした中川一政が生前に油彩画、水墨画、岩彩画、書、陶芸、挿絵原画、本の装丁など約600点の作品を町に寄贈し、平成元年に開館した。5つの展示室と茶室で常設展示、テーマ展示。建物は柳沢孝彦の設計で、第15回吉田五十八賞を受賞し、「公共建築百選」にも選ばれている。隣接のお林展望公園では、一政のアトリエが復元公開されている。

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