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   年収800万円の人生戦略 最適解は共働き(橘玲)
          作家・橘玲氏に聞く 生涯現役を貫くべき理由(上)


 寿命が延びれば延びるほど、退職後の老後の時間は長くなり、必要なお金も増える。そのためには、資産運用だけでなく「生涯現役」の覚悟で働き続けるのも大事なことだ。国際金融小説『マネーロンダリング』などを執筆した作家の橘玲(たちばなあきら)氏に、老後資金づくりのポイントを聞いた。
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橘玲さん 1959年生まれ。2002年国際金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。『言ってはいけない 残酷過ぎる真実』(新潮新書)は45万部を超えるベストセラーになり、新書大賞2017にも選出

 資産が増えれば増えるほど幸福になるか、というと実は違います。これ以上収入が増えても幸福感は大きく変わらないという水準が存在するのです。日米の研究では、年収800万円前後がそのような水準であるといいます。これは、世間一般で幸せだと思われていることを、お金を気にせずにできる金額ですね。

 例えば独身で年収が800万円あったら、デートでちょっとしたレストランに行くとか、年に1回海外に行くとか、そういうことがほとんどお金を気にせずできます。結婚していれば1500万円がこうした水準になります。子供を私立に入れ、好きな習い事をさせてあげられるという水準ですね。逆に言うと、それ以上ぜいたくしてもそんなに幸福感は上がらない。

 将来への不安が幸福感を引き下げるのは、お金について悩みながら生きていかなければならないからです。逆に言えば、それがなくなれば十分幸福なんです。

 老後についても似たようなことが言えます。定年後に貯金が減っていったとして、何があってもとりあえず大丈夫だろうという、不安から解放されるのが60歳時点で1億円というお金です。だから、老後資産1億円というよく言われる目標は、幸福のボーダーラインの一つといえます。

 問題は、そこにどうやって到達するか。若い人が資産を増やそうとしても給与では限界があるので、どこかでリスクを取ろうとするのは当たり前です。ただ、年を取ったらそんなにリスクは負えない。年齢のステージによって、投資で取るべき態度というのも変わってくるんです。

■ 専業主婦は2億円損をする

 『専業主婦は2億円損をする』(マガジンハウス) 専業主婦という生き方は「敗者の戦略」。女性が働く重要さを説く一書です。

 さらに言うと、年収800万円の人でも60歳で資産1億円を貯めるのはちょっと厳しい。だから、最適な人生戦略は夫婦共働きだと考えています。

 女性の大卒の平均的な生涯年収は2億円といわれています。30代男性の平均年収が大体500万円ですから、仮に結婚するとしても、年収1500万円の相手はそうは見つからない。そこで自分も働いて夫婦で年収800万円ずつ稼ぐようになれば、幸福のボーダーラインである世帯年収1500万円に到達する確率ははるかに高まるのです。

 だから、専業主婦を選ぶというのは、ずっと働く場合の生涯年収2億円分を損していると言えます。しかも年を取ってくると、日本の社会では選択肢がなくなる。夫は会社を辞められなくなり、妻は子連れで離婚するわけにもいかなくなる。その上夫の給料が上がらず経済的に苦しくなれば、家庭もうまくいかなくなるでしょう。そんな未来を避けるには、経済合理的に考えれば共働きをするのが当然ですし、老後資金1億円も作りやすいという結論になります。

■ 悠々自適はもはや消えた

 今の日本の年金は平均寿命65歳を想定したシステムです。それを前提にしているから、寿命が100歳まで延びようとしている現在では年金制度が持続不可能な状況になるのは当然です。

 とすれば、男性も女性もできるだけ長く働いて、老後を短くするのが経済的に合理的といえます。仮に年収800万円という幸福のボーダーラインの水準をクリアしても、老後資金1億円という目標に60歳までに達するのはすごく難しい。ですが、80歳まで働くのなら圧倒的に老後は楽です。

 実際、欧米は生涯現役社会にどんどん移行しています。例えば僕は旅行の時にある米航空会社をよく使うのですが、フライトアテンダントの高齢化がすごい勢いで進んでいる。米国では定年制が廃止され、職務が全うできなくなる年齢まで働くことが許されているんです。

 欧米でも1990年代までは早くお金持ちになって引退して、老後は好きなことをやって暮らすというのが幸福の形でした。しかし、フライトアテンダントの事例からも分かるように今では価値観が180度変わっています。年金を受給する対価として、年を取っても社会に貢献していることをアピールするのが正しい生き方とされていますし、経済合理性からも理にかなっている。

 日本でも同じです。悠々自適の老後という幸福のモデルはもはや消えました。人々が憧れる老後も、医師の日野原重明さんやスキーヤーの三浦雄一郎さんのように、生涯現役がロールモデルになってきている。孫に囲まれて悠々自適というのは、もはや理想でも何でもなくなってきているんです。(次回に続く/日経マネー 川路洋助)

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