東洋経済/ON LINE:転載URL=http://toyokeizai.net/articles/-/10244    
  ニ ト リ 社 長 
      「 退 任 じ ゃ な い 、 死 ぬ ま で 現 役 だ 」
        カリスマ創業者が社長の座を譲る理由とは?
                             
冨岡 耕 :東洋経済 記者

  「『退任』という一部報道があったが、退任ではない。くれぐれも誤解がないように」――。そのコメントは、社長の座を譲るというより、生涯現役のニュアンスを強く感じさせるものだった。

  ニトリホールディングスは1月26日、創業者の似鳥昭雄社長(71)が会長に就き、白井俊之副社長(60)が社長に昇格する人事を発表した。2月21日付で似鳥氏がCEO(最高経営責任者)に、白井氏がCOO(最高執行責任者)となる。似鳥氏は「私がロマンとビジョンという方向・方針に責任を持ち、白井が方法と手順を執行する」と、両者の役割分担を説明した。

  1967年に札幌で創業したニトリを一代で家具製造・小売りの国内最大手に成長させた、カリスマ経営者の似鳥氏。2017年に創業50周年を迎えるタイミングでの社長交代について、「白井は新しい時代を切り開くにふさわしい。今までを否定し、新しいやり方で成長を果たしてもらいたい」と語った。

  ただし、冒頭のコメントにもにじむように、第一線から退く気はさらさらなさそうだ。「3月で72歳になる。普通の会社だったら定年を過ぎているが、まだまだ気力は充実しており、いつでも20代という気持ちでやっている。死ぬまで現役でいたい」(似鳥氏)。

   満 を 持 し て の エ ー ス 登 板

  新社長になる白井氏は、似鳥氏と同じ北海道の出身。宇都宮大学工学部を卒業後、1979年に新卒でニトリに入社した。2014年からは、ニトリHD副社長と事業子会社であるニトリの社長を兼務している。

  今回の社長就任についても、臆するところはなさそうだ。「社員が100人に満たない時代から似鳥社長とやってきた。自分の会社というつもりだ」と、白井氏は意気込む。

  白井氏を後任に決めた時期や理由について、似鳥氏は「満を持してのエース登板。もう少し早くてもよかったが、現場経験を積ませるため、我慢してきた。2年前に事業会社の社長になった後、まずは1年、さらにもう1年見てみて、HDの社長として十分やっていけると、去年の暮れに確信した」と語る。

  新社長の人物評については「ロマンで掲げている『住まいの豊かさを世界の人々に提供する』という気持ちが強い。つねに現状を否定し、新しい物を作る。リスクを果敢に取っていく。性格も明るく、愛嬌、度胸もある。つねに報告があり、何かあったら報告してもらえるという安心感がある」(似鳥氏)とした。

  現在、ニトリが進めている都心部への出店強化は、白井氏が主導してきたものだという。「私がやるより白井がやったほうが実務は早く進む。権限委譲とは、私がかなわないと思ったときになされるものだ。そのことを数日前に本人に伝えた」(似鳥氏)。

  似 鳥 氏 は 海 外 事 業 に ど う 向 き 合 う か

  2017年2月期に30期連続の増収増益が視野に入るなど、目下のニトリの業績は好調。自社で製造から物流、販売まで一貫して手掛けることにより、業界屈指の低コストを実現している。

  だが、似鳥氏は現状に安住するつもりはない。「今後は『競合』から『競争』の時代になる。上位が安全ということはなくなり、上位同士、異業種同士が熾烈な競争をする状態になるだろう。世の中の変化は早くなっており、改革のスピードを上げないといけない」と持論を展開した。

  会長就任後の自身のあり方について、似鳥氏は「もっと現場に足を運びたい。毎年50店規模で出店しており、そこの店長や社員と交流したい。現場に行って、ロマンとビジョンを直接伝えたい」と話した。

  ニトリは現在約400ある店舗の数を、2022年に1000店、2032年に3000店に増やすビジョンを掲げている。今後の課題は、赤字が続く中国や米国など海外での展開をどうするか、だ。

  国内と同様に海外が軌道に乗らなければ、ビジョンの達成は難しい。フリーハンドとなった似鳥氏の次の動きが見ものだ。

コメント