(Alterna誌:編集長コラム)トヨタ自動車の「 バ ッ ク キ ャ ス テ ィ ン グ 」を考える
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 日  本  生  涯  現  役  推  進  協  議  会
          東  瀧    邦  次  さ  ま

いつもお世話になっております。

  トヨタ自動車は10月14日、2050年に新車が排出するCO2総量を2010年比で90%削減するなど、極めて意欲的な環境目標「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表しました。

  これを受けての業界や一般ユーザーの反応はさまざまです。
  「本当にガソリン車を無くすことが可能なのか」「生産時点でのCO2を90%削減するということは、これから部品メーカーも対応で大変だ」――。

  「これだけの高い目標を掲げて、実現しなかったらどうするのか」と漏らす関係者もいました。ですが、トヨタの今回の目標は、日本では異例の「バックキャスティング」であり、高く評価したいと思います。

  残念ながら、日本では企業や組織の目標はフォアキャスティング(積み上げ方式)が主流です。現在からの実績積み上げを試算し、近未来の短期目標を定めるやり方です。ほとんどの企業は3-5年の中期経営計画を元に経営を動かしていますが、その多くは積み上げ方式です。安倍首相が今年9月に掲げた「新アベノミクス」での「GDP600兆円」も、フォアキャスティングの一種と言えます。

  日本でバックキャスティングが広がらない理由は、良い悪いは別として、日本人は「不言実行」を旨としているからです。「できもしないことをぶち上げ、実現できなかったら逆に信頼を失ってしまう」と考える人が多いのです。バックキャスティングは有言実行型であり、日本では高い目標を掲げるだけで「ホラ吹き」と呼ばれてしまいます。

  トヨタのある管理職によると、今回の「トヨタ環境チャレンジ2050」を策定するにあたっては、社内幹部の間で、「これまでのように不言実行型で良いのか。トヨタとしてあるべき姿を社会に掲示する必要があるのではないか」という議論があったといいます。

  その意味で、世界最大級の自動車メーカーが、このような意欲的な環境目標を打ち出したことはインパクトが非常に大きい。同業他社の幹部も大きな衝撃を受けたことだろうと考えます。

  今回の「トヨタ環境チャレンジ2050」は、「新車CO2ゼロチャレンジ」「ライフサイクルCO2ゼロチャレンジ」「工場CO2ゼロチャレンジ」など6つのチャレンジがあり、いずれも明確な将来目標を掲げました。これらのチャレンジは、同日都内で開催した「トヨタ環境フォーラム2015」に参加したWWFや、国際連合環境計画 (UNEP)などNGO/NPOの意見も反映されたといいます。

  世界に目を転じると、特に環境やサステナビリティにかかわる分野において、さまざまな企業や組織や自治体がバックキャスティング的な目標を掲げ始めたのです。

  例えば「レゴブロック」で知られるレゴ社は、2030年までにプラスチックの使用をやめます。同社は2030年までにレゴブロックの素材にABS樹脂を使うのをやめて「持続可能な新素材」に変えると今年6月に発表しました。そのために今後15年間で約186億円を新素材を開発するためのプログラムに投資するといいます。

  サウジアラビアのヌアイミ石油相は今年5月、「我が国は2040年までに石油を放棄する用意がある」と表明しました。英紙フィナンシャル・タイムズが報じた。同石油相は「将来サウジアラビアは、化石燃料でなく再生可能エネルギーの輸出に取り組む」との考え方を示しました。

  米ハワイ州では今年5月、全米の州で初めて「2045年までに自然エネルギー100%を目指す」新たな法律が成立しました。この法律により、州の発電事業者は2020年までに30%、2040年までに70%、2045年までに100%に電力を再エネから供給することが義務付けられます。

  トヨタ自動車はもちろん、レゴ社やサウジアラビア、米ハワイ州の「バックキャスティング」は多くの日本人にとって目を疑うばかりの内容でしょう。これらは、あくまで「できるかも知れないし、できないかも知れない」数値目標です。

  でも、20-50年後の未来に向けて、その「あるべき姿」を描きながら動くことと、そうではないこととは、早くも数年後にその実績に差が出ることだろうと思います。日本企業にとって、「バックキャスティング」の思想を取り入れることは、将来の競争力に直結するだけに、迅速な対応が求められます。(オルタナ編集長 森 摂)
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「民泊」で絆を深め、地域交流人口を増やす
http://csr.yahoo.co.jp/report/volume6/

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隠れた逸品や限定商品などプレミアム度の高いお酒や食材が登場。会場では約100品の食材やお酒の試食・試飲ができます。
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詳しくは⇒ http://alternas.jp/joy/date/61118  参加費: 無料(自由入場)

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