駆 け 込 み 寺 “ 機 能 ” を 全 国 展 開 さ せ る

庄子:二つ目の課題とは?

玄:行政と連動した駆け込み寺“機能”の全国展開。これまで13年間駆け込み寺で俺がやってきたのは、行政や警察に相談してもなかなか解決策を見いだせない悩み相談。例えば、ある老夫婦は「息子がヤクザに入ってしまった。何とかしたい」と言ってきた。

 この悩みをもし行政に持ちかけても、行政は恐らく「それは警察」と応えて話を聞こうとしないのが関の山。とばっちり受けたら嫌なので。かといって、警察に相談しても、ヤクザに入っただけなら警察は動きようがない。ヤクザに入って悪さをして初めて、警察は相談に乗る。

 でも、俺の場合は怖いものなしで、その息子を取り戻すために、ヤクザと直談判したり、うまいこと警察に動いてもらえるように工夫したり、弁護士の力を借りたりする。それで問題解決へとつなげる。

 どうすれば問題が解決できるか、その道筋が分かれば、あとは意外と簡単だったりする。そのノウハウを各自治体などに伝えて、市民が相談してきたらたらい回しをすることなく、問題解決に導いてあげてほしいと思っている。

 この取り組みに関しては、関西地方のある自治体の首長さんと既に話がついていて、そこの職員を対象とした私の研修が10月からスタートする。これを皮切りに、全国に普及できればと思っている。

  俺 に と っ て 情 熱 が 資 本 金

庄子:もろもろエネルギッシュな活動をされているわけですが、その行動力はどこから来ているのでしょうか?

玄:自分のこれまでの生き方とやはり関係しているのだろう。大阪市西成区生まれで、在日韓国人2世。自分のことを卑下するわけではないが、底辺をはいつくばって生きてきた。

 だが、2000年、44歳のときに人生最大の転機が訪れた。献血の検査で、白血病発症のリスクがあるウイルスHTLV-1への感染が判明。それを機に、いったん命を捨てると言うか、次の生き方を考えた。

 それまで俺はとにかく命よりも金が大事やった。金儲けに奔走し、まさに守銭奴。1万円あれば1億円のビルを買ったろというぐらいの知恵を絞った。いろいろ荒稼ぎをしたのも事実。けれど、HTLV-1への感染で、もしかしたら死ぬかもしれないと思った途端、金への執着が命への執着に変わった。

 生かされているなら、自分にしかできないことをやろう。そう考えて、歌舞伎町での駆け込み寺の相談活動につながった。

 そこで得たものから、次々新しい発想を編み出している。俺は生き急いでいるし、徒党も組まへん性分なので、ボチボチやっている暇はない。猪突猛進で一気にやらんと。

 自らの構想の実効性を高めるために、日本駆け込み寺は3年前に公益社団法人格を取ったし、自分自身2年前に日本国籍を取得した。単なるNPO法人(特定非営利活動法人)で、代表が在日韓国人、しかも俺の風貌だと、企業に支援を仰いだり、国会議員に陳情に行ったりしても、ヤクザ者だと思われて冷たくあしらわれてしまう(笑)。だから、順を追って、戦略を練った。

 俺にとっては、今は情熱が資本金。それで走り抜いている。

 最後に、このインタビューを目にした企業経営者の方には、日本の足元を見てほしいというメッセージを送らせてもらいたい。カンボジアに学校を建てる、アフリカにビタミンを送る。海外へのそういった社会貢献活動は、それはそれで意味のあることだと思っている。けれど、日本は自殺者が年間3万人いて、DVやストーカー被害、いじめや虐待問題も後を絶たない。足元に養分を行き渡らせる活動にもぜひご協力・ご支援いただきたい。

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