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【朝日新聞デジタル/2015年8月10日05時22分:土居新平・ 細見るい】
   起 業 す る な ら 5 0 代 こ そ 
       6 0 歳 で 生 保 を 立 ち 上 げ た 男

                      出口治明・ライフネット生命会長兼CEO(67)
【出口治明〈でぐち・はるあき〉プロフィール】1972年に日本生命に入り、ロンドン事務所長や国際業務部長などを経て、2005年退職。ライフネット生命保険を起業し、2013年から会長兼CEO。これまでに5千冊以上歴史書を読んだ読書家でもある。
                    
連載「 私 を 動 か す  私 が 動 か す 」

 インターネットで申し込むライフネット生命保険を60歳で立ち上げて、丸7年が過ぎた。会社の知名度を上げようと、月に15回ほどこなす講演会では、「働き方」を語ることも多い。講演依頼のほとんどは個人から。10人以上集まったら、全国どこへも出向く。

 ――50代は起業に向いている、と訴えているとか。
 「理由は簡単です。大人として認められるのが20歳と考えて、平均寿命が80歳。大人を60年間やると考えると、真ん中は50歳。人生の半分を走ってきたので、世の中の風景がわかっています」

 ――なるほど。
 「ということは、自分の見極めもつきますね。会社に居続けたら収入や退職金はこれくらい、子どもが文系に進んだらいくらくらいかかる、とわかる。リスクが少ないと思うんです。飯が食えるという自信さえあれば、いい」

 ――体力や気力は、30代の方がある気もしますが。
 「若い方には『清水の舞台を飛び降りたるで』という元気はあるかもしれない。でも、50代はひもがあれば、つーっ、と舞台から降りられるとわかる。踏み出せない人は『ベンチャーは若い人のもんや』と、なんとなく社会常識を受け入れているのです」

 ――起業が増えると、経済にも影響がありますか。
 「めっちゃ、いいじゃないですか。この国は年功序列。50代以上がどんどん社会に飛び出せば、会社の風通しもよくなります」

 ――私が起業するなら、どんなアドバイスを?
 「好きなこと、やりたいことを仕事にする。これに尽きる。『どんな領域がもうかると思いますか』と言う人は、やめた方がいいと思います」
 大学を卒業して30年以上、日本生命に勤めた。55歳で関連会社に移り、「遺書のつもり」で書いた『生命保険入門』の本。書いたことを実践しようとつくった会社は、74年ぶりに親会社に保険会社を持たない生保として開業した。

 ――友人の紹介で会った方に誘われ、その場で「保険会社をつくりましょう」と答えたそうですね。
 「直感でした。直感は、無意識のところで脳がフル回転する。過去の蓄積すべての総合判断です。当時58歳でしたから、58年間を総動員して、イエスと言っていいと、無意識の部分で意思決定したんです。言ってしまったら、やるしかありませんから」

 ――有言実行を、自分に課しているのですか。
 「僕はギリシャ悲劇が大好きで。人間の喜怒哀楽のすべてが描かれていると思っています。そこでは神様ですら、自分の言ったことは取り消せない。言葉は、それだけ重い。人間も言うたことに責任を持たなあかんな、と思うんです」

 ――インターネットという発想は、どこから?
 「所得を調べたら、20代の世帯は平均300万円くらいでした。必ず晩婚になり、少子化になる。保険料を半分にして、赤ちゃんを産みやすい社会をつくること。これをミッションにすると決めました。そのためにはインターネットを使って経費を抑えるしかない」

 ――パートナーは当時30歳の岩瀬大輔さん。いま社長をされていますが、なぜ彼だったのでしょう。
 「正直なことを言うと、前職の優秀な部下の顔が何人か浮かんだんです。でも、瞬時に打ち消した。そんな会社がおもろいはずがないと。僕は年寄りで、保険のことを普通の人より知っている。パートナーは逆がええんで、若くて保険を知らない人がええと」

 ――あえて、若さや経験のなさを選んだのですね。
 「ダイバーシティー(多様性)が、いかに大事かということです。同質性があかんということは、歴史が証明している」

 ――足元では新規契約が減っています。ネット生保の未来をどうみますか。
 「7年たって改めてわかったことは、山あり谷ありやなと。生命保険は営業職員から買うものだという社会常識の壁は、想像したよりも厚い。マラソンで言えば、ライフネットはようやく競技場の外に出たくらい。これからやな、という気持ちです」

■取材後記
 出口さんは穏やかな関西弁で、ギリシャ神話や江戸時代の話も交えて答えてくれた。なごやかに進んだ取材のなか、口調を強めて語った言葉が心に残る。
 「50歳になって新しいことを始めるのが怖いと思っている人は、不勉強です」
 好きな仕事に取り組み、勉強をし続ければ、何に挑戦するべきかは自然とわかる、と。もし破綻(はたん)すれば、契約者の人生設計を狂わせてしまう生命保険で、ベンチャーを起こした男の自負と厳しさを垣間見た。(土居新平)

■経験「顧問」で生かす
 経験の豊富な中高年に、中小企業やベンチャー企業が必要なときだけ「顧問」として仕事を頼めるサービスが、広がってきた。海外進出の支援や新しい事業への助言など、ベテランならではの即戦力に、人材紹介会社も注目する。
 リクルートキャリアが4月に始めた「顧問紹介サービス」は、これまでに中小企業を中心に100件の申し込みがあった。客層を広げたい都内の設備会社は、大手IT通信機器メーカーの元役員で営業戦略畑が長い62歳の男性と契約。問い合わせは月に10~20件ずつ増え、北海道や広島、鹿児島など地方からもくる。
 上場手続きが不慣れなIT企業や車載部品に進出する携帯電話の部品メーカーなどが申し込み、「顧問」には、主に50代後半の大手企業の元役員などが就く。起業した人もいるが、退職して仕事をしていない人が多い。登録した約600人のなかに適任者がいないときは、リクルートが持つ約2万人のデータから探す。
 インテリジェンスやマイナビも、似たサービスをすでに始めている。インテリジェンスの「i―common」で顧問契約を結ぶ約6割は、従業員100人未満の企業。「顧問」の平均年齢は60・9歳だ。上場企業の部長クラス以上が多いが、40~60歳の定年前の人たちもいる。2015年4月時点の契約件数は、前年4月より5割増えた。
 こうしたサービスはいずれも業務委託で、社員として雇うわけではない。企業からみれば社会保険料を払わずにすみ、人件費を抑えることができる。(細見るい)

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