◎  人 生 の 達 人 か ら 積 極 的 に 学 べ

証券マンとして、新入社員の私が配属されたのは、最初から法人課であった。そこで、社債発行法人への引き受けシェアの交渉のほか、元利金払い指定などのセールス、さらに新規公開幹事参加セースルなどに、積極的に関わっていったのである。

  何もかも、目新しく、新しい体験ばかりだった。毎日、人と会い、人の話を聞き、情報を提供し合うのが、証券営業マンの務めである。

  連日、めまぐるしく人と接しながら、入社当時は、社内の同僚や上司よりも、むしろ社外の顧客から実体験に基づいた証券投資のイロハを教え込まれるほうが多かった。

  私の場合、電話のかけかた一つとっても、外部の客を通じて訓練されたようなものだ。

  私の顧客は、大部分が会社の役員クラスであり、自分の資産をフルに活用しようという事業家、経営者であり、商人たちであった。したがって、冗漫な電話や曖昧な会話は許されなかった。無駄のない、しかもスピーディで的確な情報を伝えることが最優先された。加えて、電話による最初と最後の挨拶には、不快感があってはならぬ。そして、なお、短い電話のやりとりのなかに、自分を印象づけ、自分のセールスマンとしての存在を相手にはっきりと覚えてもらわなければならない。

  電話一つにも神経を使い、その一刻一刻も真剣であった。

  入社後十何年にわたって、朝いちばんの“ 日課 ”が、顧客へ電話することだった。毎朝、規則的に“ 定期便 ”の電話を入れて、顧客の手持ち株の推移を報告し、併せて注目銘柄を伝えておくことは、もう私の習慣となっていた。

  こんな社外の顧客とのふれあいを通して、私は営業マンやセールスマンとして“ 可愛がられるコツ ”といったものが自然と理解できるようになったような気がする。

  客に可愛がられ、顧客に励まされる証券マンというものは、その人のために“ 骨身 ”を惜しまず努力するものである。顧客の利益と満足のために尽くす努力は電話一本、応対一つにしろ、それをバネに、やがて“ 実力 ” 証券マンに結びつくものなのである。   つづく

コメント